年を取ると腰痛や肩こり、膝の痛みなど体のあちこちに不調を感じることが多くなります。
マッサージを受けたり、整体に行ったりしてもなかなか改善されない、そんなときの治療方法の一つとして鍼治療を思い浮かべる方もいるでしょう。
しかし、実は鍼治療によるトラブルは日本でも過去いくつか報告されています。今回はそんな鍼治療についての問題点について、実際の事件を交えながら解説します。
はり治療について
はり治療とは
はり治療とは、問題がある患部やツボに鍼を刺し、刺激を与えることで病気の治療や予防を目指す治療法のことです。中国発祥ですが、日本でも約1500年の歴史があり、現代医療が発達した現代でも注目され、多くの国の医療に取り込まれています。
鍼治療には、直径0.12~0.34ミリ程度のステンレス製の針を使用します。この太さは注射針のおよそ3分の1で、刺した時の皮膚の抵抗が少なく、痛みもほとんど感じることはありません。針をしばらく刺したままにして振動させたりもします。
針による体への刺激で細胞が活性化し、筋肉の緊張をほぐすことで自然治癒力や免疫力を高めたり、新陳代謝を上げたりして疲労の回復が期待できると言われています。
はり治療ができる職業
そんなはり治療を行うことができる職業は限られています。代表的な職業がはり師です。はり師になるためには高校卒業後、大学や専門学校などの鍼灸師養成施設で3年以上学び、はり師の資格を取得しなければなりません。
きゅう師の資格を同時に取得することが一般的で、取得後は鍼灸師として活動することが多いようです。はり師の資格は国家資格であり、合格して免許を取得しなければはり治療を行うことはできません。
このほか、医師も鍼治療を行うことができるとされています。
はり治療の問題点
オーストラリアの研究チームが2012年に医療行為を検証し問題がある156種類を特定しています。
その中でも特に、科学的に害があると証明された鍼治療に関していくつか問題点が指摘されています。
・妊婦に関するはり治療:陣痛誘発の針治療は効果、弊害を証明する十分な証拠がなく推奨されない
・滲出性中耳炎(OME)に対するはり治療:子どもに見られる病気だが、はり治療の効能は確認されていない
・うつ病に対するはり治療:多くの研究が存在するが、大半に「高い偏りのリスク」があり、はり治療はうつ病に効果がないとの結論が出されている。
<参考>
Over 150 potentially low-value health care practices: an Australian study
国内でのはり治療のトラブル
はり治療を巡っては、過去にもさまざまなトラブルが発生しています。記憶に新しいのが、2009年に起きたはり治療施術後に女性が死亡したトラブルです。この女性に施術を行った大阪府の医院は鍼灸整骨院を謳いながら、実際には無免許で柔道整体師がはり治療の施術を行っていました。
女性の死亡の原因は女性の背中に針をうつ際に誤って肺を傷つけたことで気胸を引き起こし、低酸素脳症に陥らせたことと見られています。この柔道整体師は、この針治療事件の前にも1年以上無免許ではり治療を患者に行っていたとのことでした。この事件のように患者の死亡にまでは至らないものの、同様に気胸を引き起こしたケースは多数報告されています。
また、これも話題になりましたが、開幕前に肩の異常を訴えていた活躍中のプロ野球選手がはり治療の施術ミスによって長胸神経麻痺を発症し、シーズンに登板できなくなってしまったということもありました。
施術を行ったトレーナーがはり師の免許保持者であったのかは報道では明らかにされていませんが、この事件にもはり治療が抱える問題の一端を垣間見ることができます。
はり治療は万能なのか
検査結果に異状はないけど体調がすぐれない場合など、薬や手術などの西洋医学の手法では克服できない問題を解決できるところがはり治療の魅力であり、注目される理由です。
しかし、そんなはり治療も全ての不調に対して効果があるわけではありません。肩こりや腰痛などには効果が期待できても効果がない、もしくは人体に有害であるということが科学的に実証されている症状もあります。
例えば、妊婦に対するはり治療です。陣痛を誘発するためにはり治療を取り入れる場合があるようですが、その効果や起こりうる弊害についての十分な証拠はなく、取り入れるべきでないとされています。
また、うつ病の治療に対してもリスクがあり、効果がないとしてはり治療の導入は推奨されていません。
その他、過敏性腸症候群(IBS)や高ビリルビン血症、変形性関節症についてもより効果的な治療法が推奨されているか、全く効果がないと結論づけられています。
安心してはり治療を受けるために
では、私たちが安心して効果的なはり治療を受けるためには、どうしたら良いのでしょうか。
まず、最も重要なのは「はり師の免許を持っている」人の施術を受けることです。
資格を持っていない人は、はり治療を行うことができないと法律に定められています。とはいえ、私たち利用者からしてみれば施術を受けようとしている鍼医、はり師が本当に免許を持っているのかどうかというのはなかなか見分けがつきにくいかもしれません。
予約を取る前に、事前にホームページをチェックして下調べをしっかり行い、公益社団法人の日本鍼灸師会に加盟している医院かどうか確認してみると良いでしょう。
また、自分の体の不調についてはっきりと自覚し、はり治療の効果が見込める症状であるのかどうかも事前に調べておくことが大切です。
信用できる鍼医のもとで治療を
このように、はり治療を行うには専門の資格が必須で高度な知識と技術が必要であることが分かりました。
残念ながら、日本でも資格を持たない者や未熟な技術しか持たないはり師による治療の施術によってトラブルになるケースは後を絶ちません。
しかしながら、きちんとしたはり師のもとで治療を受ければ、お悩みの肩こりや腰痛も解消できる可能性は大いにあります。きちんと調べて、自身にぴったりの鍼医を見つけることが大切です。