今日もドクターKのレッスンが始まりました。
よし、次の曲いきましょう!
いいですよ!ただ、今の曲でお伝えしたいことが…
まだ何かある??
そうですね、曲の表現についてです。
ひとまず音符を音にできた、両手で弾くことが出来たら、次のステップです。
曲に命を吹き込む、というと大袈裟かもしれませんが、機械のように弾くのではなく、
表現を広げていきたいです。
楽譜に書いてあること
楽譜に書かれている音符以外の記号については、以前のコラムにも登場しました。
覚えていらっしゃいますでしょうか。
ショパン スケルツォ第2番より
・スラー(水色でマーク)
メロディやフレーズのつながり。歌であれば一息に、言葉であれば句読点まで、どこまで繋げるかを表現しています。
・強弱を決める記号(ブルーでマーク)、音を大きくする、弱くする、など。
・発想記号(赤でマーク)さまざまな曲想の指示です。
音符を見るのに必死で線は目に入ってなかった!
いきなり全部を見るのは難しいですよね。音符を見るのに慣れてきたら、一緒に見る癖がついてくるといいですね。
この記号たちは、作曲家たちからの大切な指示でもあります。
曲の構成であったり、イメージを最大限に活かすためのものです。
まずは書かれている通りに忠実にやってみましょう。
楽譜通りに弾けばいいのか
楽譜通りに弾けたらそれで良い演奏といえるか、と言われると、まだ足りないと思います。
ここから先は、自分が音楽を作っていく作業となります。
私が大切にしていることは3つです。
- よく耳をすませてメロディを聞くこと。
- どのフレーズが主人公かを考える
- 音のイメージを物語や風景のように膨らませていく
上記でご紹介した楽譜、ショパンのスケルツォ2番を弾いてみました。
曲の中盤に登場するゆったりしたパートをお聴きください。そのあと、流れのあるフレーズに乗って舞曲風になります。
この曲を弾くときに、私がイメージしたことをまとめます。
- 冒頭は浮遊するように。メロディはゆっくりと持続しながら変化していく。
- フレーズをよく聴きながら弾く。大抵トップの音がメロディだが、冒頭は和音全体でメロディを感じる。
- 前半のゆったりした部分は大きい川の流れ。そこに風が吹く。
- 舞曲風な部分では、街を風が吹き流れていく。カフェのテーブルの隙間をぬって、帽子が風に乗って飛んでいく。
川から街まで、音が風のように吹き抜けていく、といったイメージは、あくまで私が考えたもので、一例にすぎません。
皆さんならどのようなイメージが浮かぶでしょうか。
こうやって音楽を風景や映像イメージになぞっていくことは、曲に入りこむために最適な方法です。
歌詞もないですし、自分なりに風景や詩を浮かべることをおすすめします。
ピアニストのように派手に動いてもよいもの?
ある女性ピアニストの映像を見たら、確かにすごくうまいんだけど、あまり好きじゃない感じ。
ふわふわやたら動くし、なんだか繊細すぎるように見えたな~。あの動きは習うものなんですか?
おそらく感情を込めて弾いている結果なのでしょうね。正直にいうと動きすぎるタイプの方は私も苦手です。ここは好みが分かれるところですね。
プロの演奏家を見ていて、皆さんお気づきかと思いますが、演奏家によって表情や動きが違います。
ある程度のレベルの演奏をされる方々には、自然と表情や動きにも個性が表れてきます。
その演奏家の特性であり、人気を分ける要因です。
では、それはあえて演じているものなのかどうか。
私がこれまで受けてきたレッスンでは、演じたり顔の表情をつけるように、という指導は一度もありませんでした。
むしろ音に集中するために無駄に動くな、です。
動きではなく、音の世界を大切に、とイメージを伝えてくださる先生はとてもいいな、と感じていました。
聞いていてピンとくる例えをもらえると、自分の音の世界に集中できるのです。
動きそのものを演じるのではなく、イメージを演じる、そういった自然に出てくる表情や動きは、
音とリンクしており、嫌味なものではありません。
また、ジャンルによっては楽しそうに笑顔で弾いている方はそれだけでエンターテイメントとなりますよね。
無駄な動きはすぐにバレる
曲の盛り上がりで、大きく腕を上げたり、上半身を揺らしながら手首をフワフワと上げる方がかっこいいかな、と動きの練習に燃える。
これは、やめた方が良いです。
ドラマなどでピアニスト役の女優さんが、実際は弾いていないのに弾いている演技をしているときに感じる違和感です。
音は当然プロの方なのですが、弾いている人に見えるような動作を演じるのは、わざとらしく見えてしまいます。
ただ、生徒さんが弾けないフレーズがある時などに、肘を先に持っていく、手首を自由に使う、などのテクニカルな動きのアドバイスはよくします。
まずはしっかりと安定した音が鳴っていて、より表情をつけていく段階になって、動きはついてくるものだと感じています。
最後にジャジャーンと決める時に、腕を振り上げる動きはとてもカッコ良いのですが、
しっかりと和音を弾き切ることができなければ、つけることはできません。
装飾的な動きは、基本ができていない方は、つける必要はないのです。
まず、よく音を聞いて、きちんと音が鳴っているか、中身のある良い音か、それを気をつけていくことです。
余計な動きをつけていると、目的がぶれていきます。
また無駄な動きをつける癖がつくと、後々それを抜くことがとても大変になってしまいます。
まずは基本をきちんと、ですね。
動きのないピアニスト
無駄な動きが少ない、という意味で、ユジャ・ワンという中国の女性ピアニストをご紹介します。
卓越した技術力、演奏力、とても素晴らしいです。
ダイナミックで、男性的、体幹がしっかりと備わっているからか、全く無駄な動きがありません。
また全体的にパーカッシブな曲ですが、ゆったり歌うようなパートであってもじっと構えて弾いています。
ユジャ・ワン ストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」
かっこいい、の一言ですね。
フワフワの真逆、アスリートそのものです。
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今回は、表現についてお話しいたしました。
うわべだけ真似する、ということは一見良さそうにも見えますが、それ止まりです。
日常の仕事、スポーツや家事などでも同じことがいえますよね。
見よう見まねでまずはやってみる、その先には、すぐに壁が現れてきます。
自分の中から出てくる表現に取り組む姿は、聴いている人を感動させます。
また自分自身も大きく成長できることとなります。
遠回りのように感じますが、まずは焦らず、基本、基礎からじっくりとやってみましょう。
結果は必ずついてきます。
今回の曲はすぐにできるようになりましたね。パチパチ!!