前回のお話は、ドからシまで12の調性というものがあって、それぞれにつく♯や♭(調号)の関係について触れました。
今回のテーマは「転調(てんちょう)」です。
「転がる調」と書きますが、まさしく元の調から転じて別の調に変化する、ということです。
転調の前に、曲の中に出てくるもう一つの♯、♭のお話から…
臨時でつける♯と♭
前回のコラムは「調号」といって、楽譜内に出てくる音、全てにつけるシャープやフラットのお話でしたが、音符の前につくシャープ、フラットも多いですね。また、一度つけた♯や♭をなくすために「ナチュラル」という記号も使います。
これらは臨時記号と言います。
臨時なので、その小節の中しか有効じゃないんですよ。
臨時なら、フラットでもシャープでもどっちでもいいのかな?
そうでもないんです。楽譜の見やすさの意味もあって、大体が音が登っていくメロディなら♯、下がっていく時は、♭ですね。
また、そのメロディが持っている調性の感覚や、メロディの動きに合わせることも大切です。
全部臨時の方がいいよ!調号だと忘れちゃう!
なるほど~、それもそうなんだけど、もし臨時記号しかなかったらどうなるかな。
確かに臨時記号だけでも良いように思えますが、楽譜が全部臨時の記号だらけ、というのは逆にややこしく見にくいのです。
見やすさや、その曲の調を確かめるためには、やっぱり調号は必要です。
例えばト長調(調号ファ♯のみ)の中に、イ長調(調号ファ、ド、ソ)の音を借りてくる、というときに、ドの♯を臨時でつける、といったことをします。
ピアニストはすぐに調性がイメージできていいなあ
みなさんも何か1曲ずつ調性の違う曲をやってみると、音符と同じく広がっていきますよ!
転調とは
多くの楽曲が世の中にあふれてくると、音楽も日々進化が必要であり、作曲家たちはより感動的だったり、ドキッとさせるような展開を求めます。
そこで途中で調性を変えるという「転調」という技を使います。
一度前の調のシャープフラットをナチュラル記号で消してから、次の調の調号が入ります。
これは頭の切り替えが必要だなあ。
ほんと、そうですね。うっかり前のシャープをつけてしまいそうですね。
ややこしい転調は脳に刺激を与えるそうですよ!頑張りましょう。
音大の学生に対していくつかの転調の曲を弾いてもらい脳の活動を調べたところ、難易度の高いものでは、
やはり脳の動きが増大化したそうです。
音大の学生であれば難易度はなかなかでしょうが、まだ音楽を始めたばかりの方なら2つ、3つシャープがでただけでも
脳活動がUPしそうですね。
Jポップなど、最近は転調が多様されている曲が本当に多いです。
生徒さんたちからは、大好きな原曲の通りに弾きたい!と原曲のキーのままの楽譜を使いたい、との要望が時々ありますが、
シャープフラットが多い調はやっぱり大変です。いきなりシャープフラットの嵐です。免疫のない方はうんざりしてしまいます。
時間がかかっても絶対に原曲の通りに弾きたい、厳しく脳トレしたい!という方以外は、弾きやすい調に転調したアレンジをおすすめします。
結局、シャープフラットの何がややこしいかというと、ピアノは、白鍵と黒鍵で構成されている楽器であり、
調性の変更は指のポジションや、指遣いに影響するため大問題なのです。
ギターは弦を押さえる位置を動かすだけで、基本弾き方が変わることがなく調性が変えられます。
この点はピアノと比べて楽だなあ、と感じます。
私が子供の頃に再放送で見ていた「ガンバの冒険」というアニメのエンディングテーマはものすごい転調の嵐です。
子供心にこれは一体なんなのか、、とハテナマークがいっぱいの摩訶不思議なメロディ。特にサビから終わりまでのメロディは今聴いても新鮮です。
当時、エンディングテーマの最後にどーんと現れるイタチのノロイがとても怖かったですが、この曲についても不気味に感じつつ、でもドラマチックで…怖いんだけど覗きたくなる…そういう曲です。よかったら聞いてみてください。(ものすごく昭和ムードです!そちらもお楽しみください。)
♪ガンバの冒険 エンディングテーマ
無調の曲とはいったい?!
調整って12しかないのかな?他にもある?
12音で調性を決定した西洋音楽にはないのですが、無調性の音楽ならありますよ。
ジョンケージや、シェーンベルクなど、20世紀以降「調性」という縛りをなくした作曲家が多く現れました。
ドミソの響きで完結する、それがいわゆる、ハ長調の音楽ですが、
調性がない音楽は、基本の音をもちません。そのため自然音(工事の音やノイズに近い?)に近くなり、どこか不穏な響きの音楽が多いと思います。
そのため、このジャンルに対して苦手意識を持つ方も多いと思います。
確かに聴きやすいものではありません。不安を感じることで、逆に平和を語る手法の一つといえるかもしれません。
絵画でいうと、ピカソの有名なゲルニカなど、キュビズム期(二つの顔があったり、鼻が曲がっていたり…)に近い感覚です。
アンチ西洋音楽!(既存の概念の破壊)という見方もあるでしょう。
地面のない場所だと人は不安になる、ということを音楽で示しているようだな、と私は感じます。
先の見えない浮遊感や不安感を逆に楽しめるようになると、現代音楽はハマると思います。
どこか不気味な世界観では有りますが、別の言い方をすると、この世界観独特の刺激に満ちた世界でもあります。
シェーンベルグは、12音技法という手法を作りました。
これは12の音をある法則で並べ、まんべんなく使うことで調性感を消す、というものです。
楽譜があるとは思えないほど即興的であったり、予測不能な展開、突然現れる小さなメロディを私は興味深く感じます。
♪YouTube よりシェーンベルク
うわーなんてわがままなおとだろう、、おちつかないなあ(ソファひっかきたくなる~)
すごいね!こんな音はじめて!ちょっとかっこいい!
さて、今日はシャープ、フラットにまつわる調性のお話でした。
日頃なかなか聴く機会のないような珍しい曲もご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。
転調、とは1曲のイメージをガラッと変えてくれる魔法です。
そしてやはり12の音にはそれぞれのキャラクターが潜んでいます。
難しくても原曲のキーが良い、というのはそういうことではないかと思います。(カラオケでもそうですよね!)
やっぱりその音だから好きだ、というのは間違いなくあリます。
機会があったら、みなさんもご自分のお気に入りの曲のキーは?と探ってみてはいかがでしょう。
今日は、今回のコラムにも登場した、「転調」をテーマに曲を作ってみました。
1小節ごとに調性が変わっていきます。また、終わり方は少し不思議にしてみました(ガンバの冒険にインスパイアされて)。
短い曲ですが、何回転調しているか、ぜひ聴いてみてください!
♪modulation
わ~なんか雰囲気がコロコロ変わっておもしろいね。
じゃあコハルちゃん、今度は転調する曲つくってみよう!
ピアノと音の研究所、次回からは「音を聴く」というシリーズになります。
「音を知る」は、記号や数字がいっぱいで説明も多く、難しく感じた方もいたかもしれませんね。
また少しして興味が湧き始めたら覗いてみてください。
参考文献
・楽典 理論と実習 石桁 真礼生, 末吉 保雄, 丸田 昭三, 飯田 隆, 金光 威和雄, 飯沼 信義
・調性的体制化が転調感に及ぼす影響 https://ci.nii.ac.jp/naid/110002935798
これが臨時記号っていうのか。