ドクターKのピアノレッスンが始まりました。
バッハ ゴールドベルグ変奏曲よりアリア
頑張りましょうね。この曲に出てくるト音記号横の「ファ」の♯は「調号」といって、曲に出てくる全てのファにシャープがつきます。
ファのシャープ、はこれだな。これってソのフラットともいえるのに、どうしてファのシャープなんだろう?
「異名同音」というものですね。その話はなかなか奥が深いので、今は調性のルールの中で作曲家が決めてる、と思っておいてください。
この説明ではなんだか腑に落ちないドクターK。
生徒さんたち、だいたいシャープやフラットの存在に悩むんですよね。
今日は調性をテーマに考えてみましょう!
◆12の音の調性
ドからシまで、白黒の鍵盤を全て数えると、12個の鍵盤があります。そして12の音の数だけ、その曲のキー(調性)があります。
第1回のコラムで書いたギリシャ時代の12平均律以降、ずっとこの決まりです。
12といえば、私は真っ先に暦が浮かびます。
月の数、干支の数、時間の単位など、現代の日常には多くの「12」が使われています。この12のくくりは、ギリシャ時代の天文学と共に決められたもので、
それが音にも使われていることはとても興味深いです。
第一回のコラムで書いた、音名A、B、C(イ、ロ、ハ)では、白い鍵盤の各国の音名をご紹介しました。
今回は黒鍵の呼び名をご紹介します。
これにシャープフラットのつかない7音が加わり、全部で12音となります。(黒鍵7+白鍵7=14音となるが、重複している鍵盤(ドとシ♯、ファとミ♯)は除く)
そして、長調(明るい)短調(悲しい)に枝分かれするので、合計24の調性が存在します。
なかなかのややこしさですよね…
◆たくさんの♯、♭
ピアノのレッスンで、いきなりシャープが5個つくような曲を出す先生はあまりいないと思います。
初心者の方でもレッスンの進度に応じて1個のシャープかフラットがつく曲が出て、徐々に増えていく、と進めるのが基本です。
「ネコ踏んじゃった」という曲があります。みなさんも聞いたことや弾いたことがあるかと思います。
私は7歳で初めてピアノを習う時に、実はこの「ネコふんじゃった」をやってみたかったのですが、小心者で先生に伝えることが出来ないまま…
渡された本を見てがっかりした記憶があります。
その後、先生のペースでレッスンが行われて、結局気づいたら自分でマスターしていました。
この曲はご存知の方も多いと思いますが、黒鍵ばかり使います。
当時楽譜をみたこともなく、後日見た時に驚愕しました。
なんとフラットが6個です!
これを耳や手の形で覚えたのでなく、子供の頃に楽譜を出されていたら…挫折していたかもしれません。
変ト長調(G♭)
嬰ヘ長調(F♯)
上の楽譜はいずれも同じ鍵盤を示しており、これが冒頭に出てくる異名同音!です。
どちらも難しそうに見えますね…
この二つのバージョンでは調性だけでなく、音名(ドレミ)も変わりますが、どちらも正解です。
好きな方で弾く、で良いと思います。
もちろん、作曲家がちゃん楽譜を残したクラシックの曲などにはあまりありませんが、古い童謡や民謡などには色々なバージョンの楽譜がある事が多いのです。
◆同じ鍵盤、どちらの調性??
さて、同じ鍵盤に対して、二つの調性で表現できるとしたら、
音楽家はどのように使い分けしているのでしょうか。
♯と♭のもつイメージのお話になりますが、フラット(半音下がる)は、暖かい、シャープ(半音上がる)は、ちょっと鋭い感覚です。
曲のもつ印象が元気で勢いがあるのであれば、私ならシャープ系を選びます。
逆にゆったりとした温和な曲であればフラット、というようにまずは作曲家が曲へのイメージにより調性を決めている、といえます。
実はドイツ語の音名で、シは「h ハー」、シのフラットは「bベー」といいますが、これはフラットを「柔らかい表現」とイメージし、定着した名称だそうです。
ショパンの黒鍵のエチュードという曲がありますが、こちら調性は変ト長調、フラットを使用しています。
右手はほぼほぼ黒鍵を使っています。スピーディでとても高度ですが、どこかユーモラスで温かみの感じられる曲だと私は思います。
みなさんはいかがでしょう?
◆ぐるぐる回る調性
さて、続いてコハルちゃんのレッスンです。
今日は、毎回恒例の作曲をしています。
コハルちゃん、今日のレッスンは、このメロディにコード(和音)をつけましょう。ドミソで終わる曲にしてみてね!
ずーっとドミソでもいい?
うーん、それでもいいけど変化つけたいね。ドから5個上のソシレも使おう!またドミソに帰ってきた時に終わった感じが出るよ!
あ、ほんとだ!終わった感じになったー!
音楽は5度離れている音に対して、とても強く引き合う収まりのよい関係をもっています。
下の表は、5度ずつの調性の動きを表す表で、「Circl of Fifth(五度圏)」と呼ばれています。
ドを起点としてみた場合、5番目に当たる「ソ」は、ドミナントと呼び、基本の音に戻りたくなります。
基本の音「ド」はトニックと言います。
5音上の ドミナント → 1音目 トニック
この関係を示した円の図をサークルオブ5thと呼び、5度ずつ動く進行を示しています。
サークル上どこから始めても曲になります。ドはトニックでもあり、ファから見ればドミナントと意味を変えます。
調性感を感じるなら、この5度の関係から入るのが良いと思います。
右回りが5度上、左回りは5度下の関係です。
外側の円がメジャー(長調)、内側の円がマイナー(短調)です。
基本となるキー(調性)が「C(ハ長調)」であれば、ちょうど12時の位置の「C」をみます。ここから一つ左が「G(ト長調)」で5音下に下がっています。
これが5度の関係、「ドミナント」と呼ばれます。
先を見ていくと、左周りに5度ずつ下がっていて、それぞれがドミナントの関係といえます。
図を見ると、それぞれに調号の絵がついていますね。
Cの曲であれば、シャープ、フラットは何もつかず、次のGをみると、シャープが1つ、書かれています。
隣に行くほどシャープは1つずつ増えていきます。
始まりの音や終わりの音がソの音であれば、お、これはト長調(G)かな?と目星をつけられますが、
その時にもしも、楽譜の調号が、同じ鍵盤だからといって、調号がファの♯でなく、ソの♭だったら…とても戸惑います。
印刷屋さんの誤記かな、珍しい!と思ってしまいます。
調号は、一定のルールを持って、シャープ、フラットが付けられているのです。
そうか!全部の調号みていたらなんとなくわかった!同じ鍵盤でも使っていいものとダメなやつがあるんだな。
なんとなく見えてきました? 曲の調性に合わせた♯、♭の使い方が必要なんです。
一見、難しそうな表ですが、音で聴いて確認してみましょう! Cから左回りに弾いてみました。
最後はまたCに戻って終わっていますので、表を指で追いながら聴いてみて下さいね。
♪ Circle Of 5th
5度ずつ降りているだけなのですが、なんとなく曲になっています。
そしてやろうと思えば永遠に続けられます!
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◆曲の中にどのように使われている?
皆さんご存知の「チューリップ」を例にしてみます。
まずは始まりです。始まりは素直にトニックから。
赤の四角がG(ドミナント)、青の四角がC(トニック)です。
曲の後半です。
終わるところをみて下さい。
5音上の G(ドミナント) → 1音目 C(トニック)となっていますね。
童謡などシンプルな楽曲は、ほぼほぼこの終わり方をしています。
びっくりするほどこの形ばかりです。
逆に違う響きで終わる曲もたくさんありますが、それはまたの機会に!
調号については、はややこしいかもしれませんが、
12個の調性があって、作曲家がメロディやハーモニーから曲を紡いでいる、ということがなんとなくおわかりでしょうか。
みなさんも楽譜を眺めて、作曲家がどんな思いでこの調を選んだのか、想像してみるのも面白いと思います。
今日は、シャープ、フラットにまつわる調性についてのお話でした。
次回は調性のお話~後編です。転調についてお話したいと思います。
◾️参考文献
・究極の楽典 青島 広志著
参考Web
五度圏表とは?
今日はシャープが最初に1つ書いてある曲に挑戦するぞー