今回はBo Ri Seoらによる論文(Skeletal muscle regeneration with robotic actuation-mediated clearance of neutrophils Science Translational Medicine 13, 614-630 (2021); DOI: 10.1126/scitranslmed.abe8868)を紹介します。

この論文では、損傷した筋肉に機械的な負荷をかけると、組織中の好中球の数や好中球が分泌する炎症性サイトカインなどを減少させ、筋肉の再生を促すという研究結果ついて述べています。

 

炎症性サイトカインとは?

サイトカインは、炎症反応を促進する働きを持つサイトカインのことである。免疫に関与し、細菌やウイルスが体に侵入した際に、それらを撃退して体を守る重要な働きをする。血管内皮、マクロファージ、リンパ球などさまざまな細胞から産生され、疼痛や腫脹、発熱など、全身性あるいは局所的な炎症反応の原因となる。

 

好中球とは?

白血球の中の顆粒球の一種であり、白血球全体の約45~75%を占め、強い貪食(どんしょく)能力を持ち、細菌や真菌感染から体を守る主要な防御機構となっています。好中球が減ると、重度の場合,細菌および真菌による感染症のリスクおよび重症度が増します。 感染症の局所症状が弱い場合がありますが,重篤な感染症の大半で発熱がみられます。 診断は,白血球数と白血球分画によるが、評価には原因の同定が必要です。

事故や手術、血流障害などによって筋肉が損傷すると、姿勢や機能的な障害が起き、日常生活動作やQOL(生活の質)を低下させることがあります。また、筋肉量が20%以上減少した場合には、筋肉の再生を促す治療が必要となります。

 

筋肉の再生には筋線維の形成と成熟が重要で、これを主導しているのが筋前駆細胞です。この再生過程で、免疫細胞が浸潤し活性化して損傷した筋線維を除去することに関係しており、分泌するサイトカインや成長因子が筋肉前駆細胞の活性化と分化を調節しています。現在の重度の筋肉損傷に対する標準的な治療は外科的治療ですが、このような免疫調節が筋肉再生の新たな治療戦略となります。

マッサージなどの機械的負荷を用いる物理療法は、筋骨格組織の回復促進、血流の増加、炎症の軽減、ミトコンドリア活性の増加などの効果があるとされています。

ところが、研究者が用いる機械的負荷の指標が異なるため、それぞれの研究を比較することや、多くの研究をまとめて分析することは難しくなっています。

また、物理療法は主に運動に関連する損傷についての研究が多いため重度の筋損傷に対する研究は少なく、物理療法によって炎症が軽減されることは多く報告されていますが、炎症の軽減や損傷した筋組織の再生がどのような細胞や分子レベルのメカニズムで起こるかははっきりわかっていませんでした。

ロボットによる機械的負荷が重度損傷骨格筋の機能回復を促進する

そこでこの研究ではマウスの前脛骨筋を柔らかい接触面を用いて直接傷つけずに定量的な機械的負荷を加えるロボット装置を用いて行われました。この装置では械的負荷の種類を事前にプログラムすることができ、大きさや頻度、形状(階段状、台形、鋸歯状、正弦波など)なども任意で選択できます。

また、機械的負荷がかかった組織の変形を可視化・定量化するために超音波装置を用いました。機械的負荷は3種類(0.15、0.3、0.6N)で、損傷後14日間継続して行いました。

対象群は期間は同じですが処置は行いませんでした。その後筋肉の成長や収縮力を調べるため筋線維の断面積や、高頻度反復力を計測しました。また、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)解析を用いて筋の損傷時に活性化される各種ミオシン重鎖の量を測定し、血流量はレーザードップラーイメージングにより測定しました。

 

定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)解析とは?

細胞内において、遺伝情報であるDNAからタンパク質が合成される過程では、まずRNAと呼ばれるDNA配列のコピーが作製され(転写)、このRNAを基にタンパク質が合成されます。DNAを大量に複製するにはPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)が汎用されますが、PCRではRNAを直接複製することができません。そこで、一度RNAからDNAへと変換する逆転写と呼ばれる反応を行い、得られたDNAを鋳型としてPCRを行うことで、RNAをDNAとして大量に複製します。このRNAからDNAへの逆転写反応、それに続くPCRという一連の過程を、RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)と呼びます。この方法ににより、細胞内でどのような機能を持つRNAがどのくらい発現しているのかを調べたり、rRNAを標的として高感度で細菌を検出したりすることができるようになりました。「定量的」に解析することにより損傷などの量を測ることができます。

実験の結果、損傷後に機械的負荷を加えた群では、損傷した筋線維と間質の線維化が減少し、筋線維の断面積・高頻度反復力・収縮力は増加していました。機械的負荷の大きさによる差は見られなかったため、その後の研究は0.3N群のみで行いました。筋肉の回復の速度は、機械的負荷を加えた群で時間とともに増加したため、機械的な負荷により組織再生速度を加速していると考えられました。損傷時に通常は活性化される胚性(Myh3)・周産期(Myh8)ミオシン重鎖(MyHCs)の発現は7日目までに低下していて、一方成体MyHC(Myh4およびMyh7)は、機械的負荷を加えた群で時間とともに発現が増加しました。それとは対照的に、血流量は機械的負荷の有無による差は見られませんでした。

MyHC(Myh4およびMyh7)とは

MyHC=Myosin heavy chain=ミオシン重鎖
ミオシンは、2本の細長い繊維状のタンパク質(重鎖)がより合わさっている、棒状のタンパク質です。 ミオシン重鎖は細く、一端が膨らむ杵状の分子(長さ150nm、幅2〜3nm、頭部の形は洋なし型に例えられます)であり、2本の重鎖の尾部が互いに螺旋状により合わさっています。Myh4(ミオシン-4)はミオシンとも呼ばれ、重鎖4はタンパク質で、ヒトではMYH4遺伝子によってコードされています。MYH7は、主に心臓だけでなく骨格筋にも発現するミオシン重鎖ベータアイソフォームをコードする遺伝子です。このアイソフォームは、MHC-αと呼ばれる心筋ミオシン重鎖MYH6の高速アイソフォームとは異なります。 MHC-βは、心筋の太いフィラメントを構成する主要なタンパク質であり、心筋の収縮に主要な役割を果たしています。

 

これらの結果から、重度に損傷した筋肉の機能の回復はある範囲の機械的負荷とそれによる組織のひずみにより促進されると考えられました。

機械的負荷により局所の免疫反応がどのように変化するかを調べるために多種類の炎症性サイトカインを経時的に測定しました。すると、機械的負荷の群で3日目にはほとんどの炎症性サイトカインが減少しており、7日目、14日目には負荷を与えていない群と同程度となりました。特に減少したサイトカインは炎症反応、好中球の移動能力に関連していることがわかりました。次に、サイトカインの変化により組織の細胞の種類や量が変化するかを調べました。

 

その結果、機械的負荷を与えた群で、負荷のない群と比較して治癒を促進するM2マクロファージが多く、炎症をおこすM1マクロファージと同数程度いることがわかりました。また、機械的負荷を与えた群では3日目の好中球数が負荷のない群と比較すると減少していて、分布する領域も少なくなっていました。

 

M2マクロファージとは?

マクロファージは白血球の一種で、大食細胞、貪食細胞、組織球ともよばれています。正常組織に存在する組織(在住)マクロファージと炎症などの刺激によって動員される単球由来の滲出マクロファージに大別されます。M2マクロファージは、IL-10などの抗炎症性サイトカインを発現し、炎症を制御したり炎症後の組織の修復、寄生虫感染や脂質代謝などに関係があります。腫瘍に対しては血管新生や免疫抑制に作用し、腫瘍増殖に促進的に作用します。腫瘍組織に浸潤しているマクロファージ(Tumor-associated macrophages,TAM)の多くはM2マクロファージで、多くの腫瘍でTAMの浸潤度が悪性度と相関することが報告されています3)。M2マクロファージは、IL-4, IL-13によって誘導されるM2a、免疫複合体などによって誘導されるM2b、IL-10などで誘導されるM2cに分類されます。

 

そのため、機械的負荷が筋肉の回復を促進していると考えられました。サイトカインの分析と細胞の分析を合わせると、機械的負荷を与えると、好中球の移動能力を高めるサイトカイン量が減少し、そのことにより局所の好中球数が減少したと考えられ、そのメカニズムとして機械的負荷により損傷した組織からサイトカインが洗い流される効果が考えられました。

好中球を介した因子が筋肉前駆細胞の増殖と分化を制御する

好中球が傷ついた細胞や侵入した微生物を除去することはよく知られていますが、筋肉再生時の筋肉前駆細胞にどのような影響をあたえるかはわかっていませんでした。

そこで、好中球が分泌する因子で調整された培地で筋肉前駆細胞を培養したところ、細胞数が大きく増加し、筋肉前駆細胞の分化は大きく減少しました。このことから、好中球が分泌する因子は筋肉前駆細胞を増殖させるが、長期間存在するとかえって筋肉の形成に悪影響を与えると考えられました。好中球が分泌する因子で調整された培地でもサイトカインを調べ、機械的負荷をかけた損傷筋肉組織と比較すると、いくつかのサイトカインが培地で増加し、筋肉では減少していました。

機械的負荷をかけた損傷筋肉でこれらのサイトカインが減少していたのは好中球数が減少していたためであると考えられました。これらのサイトカインの働きを失わせる中和抗体を用いて働きを調べたところ、Ccl3とMmp-9が筋肉前駆細胞の増殖を促進し、分化に対しては阻害する役割を果たしていることがわかりました。

Ccl3とMmp-9とは

CCL3は、92アミノ酸の前駆体から切り出される、69アミノ酸のケモカインです。CCL3はマクロファージにおいて産生され、in vivoでは局所的炎症反応を引き起こし、in vitroでは好中球において産生されるスーパーオキシドを誘導することが報告されています。CCL3は、急性炎症と関係があり、多形核白血球の浸潤や活性化に関わっています。CCL3の主要な機能に、走化性サイトカインとしての活性をもつことが知られていますが、HSV-1に対する抗ウィルス活性を示したという報告などから、直接的な抗ウィルス剤として宿主防衛において機能する可能性があるとも考えられています。さらに、I型糖尿病患者や他の自己免疫疾患患者において、CCL3に対する選択的な自己抗体が出現することが示されています。
MMP9 は細胞増殖因子の細胞外ドメインの分泌を制御します。

機械的負荷は、成熟した筋線維型構成の筋形成と回復を促進する

次に、初期の筋形成機能に対する機械的負荷の効果を調べました。その結果、実験室での研究と同様に機械的な負荷により筋肉を形成する細胞集団と筋肉組織が増加していました。機械的負荷による筋形成にはミオカルディン関連転写因子Aが関係しています。損傷を受けた筋肉では機械的負荷の有無にかかわらず、この因子が増加していました。機械的負荷を与えた群ではこの因子の他にMyoD+という筋肉を形成する細胞が増加していました。

これらの結果から、損傷によりミオカルディン関連転写因子Aが活性化され、それにより活性化されたMyoD+細胞集団が、機械的負荷を加えることで増加したと考えられました。次に、損傷の急性期の機械的負荷をかける期間を半分にしてその後の収縮力を調べたところ、機械的負荷をかけない群と全期間機械的負荷をかけた群の間の収縮力になりました。このことから、早期に機械的負荷をかけることは回復に必要だが、それだけでは期間的に十分でないと考えられました。

そこで次に、機械的負荷で筋肉組織の再生が時間とともにどのように変化するか調べました。一般的に筋肉は、部位や機能により筋繊維の種類の組成が異なり、さらにトレーニングや廃用、怪我、加齢などによっても変化します。マウス骨格筋で、健常な筋肉、損傷後機械的負荷を与えた群と与えない群で比較したところ、健常な筋肉ではIIB線維が最も多く50%以上で、損傷後も同様の傾向でした。IIX線維は健常な筋肉と損傷後に機械的負荷をかけた筋肉で同程度に多く、損傷後に機械的負荷をかけていない筋肉では減少し、IIA線維の数が増加していました。損傷後に機械的負荷をかけた群でIIXが多くIIAが少ないことは、筋線維肥大化と筋力の強さと関係があります。ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体-γ活性化因子(PGC)1αは筋線維のタイプ変換を促進する転写因子(29)ですが、これは機械的負荷をかけることにより増加します。これらのことから、機械的負荷をかけることにより筋肉再生時にPGC1αを介して筋肉の組成を成熟筋線維型に復元するように促進していることが分かります。

 

IIX線維とは

IIX線維は速いスピードで収縮する筋肉であり、発揮する力も大きくなっています。 しかしながら、持久力には欠けており、大きな力を長時間発揮し続けるこ とはできません。様々な研究結果から、陸上短距離や跳躍、砲丸投げなどの一流選手は速筋線維の割合が高いことが分かっています。一方、球技種目などの選手は、速筋線維と遅筋線維の割合が半 々に近い人が多くなっています。速筋線維はさらに数種類に分類され、それらの構成比はトレーニングにより変化しますが、速筋線維と遅筋線維との間の構成比が通常の生活、トレーニング環境ではほとんど入れ替わることはありません。つまり、この構成比は生まれながら決まっていると言えます。

 

IIA線維とは

速筋と遅筋どちらの性質も兼ね備えた中間筋とも呼ばれる、速筋線維が遅筋のような働きを持つ線維に変わったものです。特徴としては太い・収縮時間が短い・ミトコンドリア酵素活性が低い・ホリホラーゼ活性が高い・脂肪顆粒が少ないといったことが挙げられます。スピードやパワーもありながら持久力もあるので、サッカーなど1試合動き続ける持久力とダッシュする瞬発力の両方を必要とするスポーツ選手に欠かせない筋肉です。中間筋では糖からエネルギーを取り出し乳酸を作りながらも、その乳酸をミトコンドリアで酸化させて再びエネルギーに戻しているので、遅筋よりも強いパワーを長時間に渡って出し続けることが出来るのです。

 

ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体-γ活性化因子(PGC)1αとは

運動などにより骨格筋で発現誘導され,さまざまな標的遺伝子の転写を制御するします。ミトコンドリア生合成,マイオカイン産生などに必須となっています。持久的に運動トレーニングをおこなうことで、骨格筋のミトコンドリア量増加、筋線維タイプ変化(赤筋化)、毛細血管新生などをもたらし、エネルギー代謝を促進します。最近の知見では、運動トレーニングにより骨格筋にもたらされる多様な変化の多くが、PGC-1αの発現増加が引き金になって生じていることが判明しています。

損傷後の好中球の一時的な減少は骨格筋の修復改善する

最後に、筋肉再生における好中球の役割を直接探るため、虚血で損傷したマウスで最初の3日間好中球を減少させました。これは、機械的に負荷を与えた群で観察された好中球の減少を模倣したものです。抗Ly6g抗体を用いて好中球を減少させると、筋損傷と線維化が減少していました。機械的に負荷をかけた場合と好中球を減少させた場合のいずれも筋線維は太い傾向がありました。好中球を減少させた損傷した筋肉は収縮力の回復が大きく、機械的負荷による回復と同程度でした。これらのことから、機械的負荷が筋肉再生に及ぼす効果と、損傷した筋肉における好中球の存在量を一時的に制御することは関連していると考えられました。

これらのことをまとめると、以下のようになります。
・重度の筋損傷に対してある力の範囲の機械的負荷が再生を促します。
・機械的負荷により組織がひずみ、好中球を移動させ炎症を起こすサイトカインが洗い流され、局所の好中球数が減少することが骨格筋の再生と関連します。
・好中球の分泌する因子により、筋肉の再生に重要な筋肉前駆細胞の数が増え、一方筋肉に分化することは阻害されます。そのため筋肉損傷後の時期により役割が異なります。
・機械的負荷によりPGC1αという転写因子を介して成熟した筋線維組成に復元しやすいです。
・損傷後の一時的な好中球の減少が筋肉の再生に有効で、機械的負荷による筋肉再生促進と関連する結果と考えられました。

今回の研究で用いられたロボット制御型の機械的負荷は、非侵襲的で、治療を自動化・個別化しやすく、幹細胞治療などとも同等の効果がある可能性があります。また、治療に難渋する悪液質、ミオパチー、サルコペニアなどの慢性炎症にも推奨され、今後のさらなる研究の発展が期待されます。

執筆

篠原翼

 

認定医:日本プライマリケア連合学会認定プライマリケア認定医・日本医師会認定産業医 専門医:日本プライマリケア連合学会認定家庭医療専門医 所属学会:日本プライマリケア連合学会 千葉大学医学部卒業後、JR東京総合病院、亀田総合病院を経て、現在三浦海岸つばさクリニック院長。対話を大切にし、安心・信頼・満足できる医療を提供している。診療科目:内科・小児科・皮膚科・漢方内科。

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