「イスラエルでは国民の半数が新型コロナのワクチン接種を終え、街には活気が戻りつつあります」
コロナ関連の報道の中でこういったニュースを耳にすることがあります。なぜアメリカやEUなどの医療先進国に先駆けて、紛争のイメージが強いイスラエルでここまでワクチン接種が進んでいるのでしょうか。そして実際のところ、ワクチン接種には一体どれ程の効果があるのでしょうか。
今回は、新型コロナウイルスのワクチン接種の有効性について、イスラエルからの研究報告を基に紹介していきます。

ワクチン先進国イスラエルの現状

イスラエル政府は、「5月30日時点で人口約930万人の半数以上が新型コロナウイルスに対するワクチンを二回接種した」と発表しました。またその内訳も60歳以上で90%以上、90歳以上では99%となっており、重症化のリスクの高い高齢者から優先的に接種するという方向性が見てとれます。

イスラエルではいち早く、「グリーンパスポート」というワクチン接種の証明書を導入していましたが、5月時点でそのパスポート制度も廃止され、大規模イベントへの入場制限も撤廃されました。
それではなぜ、決して医療先進国とは言えないイスラエルでここまでワクチン接種が進んだのでしょうか。

イスラエルでワクチン接種が進む理由

イスラエルでワクチン接種のペースが早い理由は、大きく3つ考えられます。
一つ目は、ワクチンを製造するアメリカのファイザー社に対してワクチン接種後の医療データ提供することを見返りに、十分な量のワクチンが供給される契約が締結されたことです。これはある意味、イスラエル全土がワクチンの“試験場”となっているともとれますが、それにより早期から多くの国民へのワクチン供給が可能になりました。

二つ目は、健康維持機構(HMO)の存在です。日本と同様に、イスラエルでも国民皆保険制度を設けており、その保険組合機能はHMOが担っています。HMOは保険組合機能を有するだけでなく医療機関の運営もおこなっているため、有事の際は継ぎ目のない医療サービスの提供が可能になっています。また、HMOでは国民一人一人に割り当てられた個人番号を活用し、ワクチン接種の優先度を決定するトリアージも有効的におこなっていると考えられています。

三つ目は、イスラエル国防軍の積極的な関与です。ファイザー製のワクチンは-60℃から-80℃での温度管理が必要であり、その保管や輸送については各国で課題となっています。しかしイスラエルにおいては、早期からイスラエル国防軍がこのワクチンの保管・輸送に積極的に関わっており、国民への迅速なワクチン供給を可能にしたと言われています。

ワクチンは本当に有効なのか

5月15日、電子版「The Lancet」にてイスラエルにおけるファイザー製ワクチン“コミナティ(開発コード:BNT162b2)”の有効性についての研究報告が掲載されました。
2021年1月24日から4月3日までの期間で、イスラエルでは471万4,932人がBNT162b2ワクチンを二回接種しました。そしてその有効性はと言うと、新型コロナウイルス感染症の発症に対して95.3%、ウイルスへの感染に対して91.5%、入院に対して97.2%、重症化に対して97.5%、死亡に対して96.7%という結果になりました。

ここでワクチン接種の有効性95%という結果の見方について触れると、「100人がワクチンを接種したら、95人には効いたけど、5人は新型コロナにかかってしまった」といったものではありません。この結果は「ワクチンを接種しなければ100人発症するところを、5人の発症に抑えられた(95人の発症を予防した)」という意味になります。実際この研究でも、ワクチンを接種していないグループとワクチンを二回接種したグループで発症率を比較し、これらの数値を算出しています。

次に、一回の接種と二回の接種の違いについて紹介します。BNT162b2ワクチン一回接種のみでの有効性は、発症に対して62.5%、ウイルスへの感染に対して57.7%、入院に対して75.7%、重症化に対して75.6%、死亡に対して77.0%となり、二回接種と比べて有効性が低いことが明らかになりました。

千葉大学医学部附属病院の報告2)においても、ファイザー製のワクチンを二回接種した職員の抗体価を調べたところ、1,774名中1,773名に抗体価の上昇がみられ、抗体が陽性となったことが示されました。
このことからも、ワクチンを二回接種することにより体の中に抗体が作られ、新型コロナウイルスへの感染や発症、重症化に対して効果が発揮されると考えられます。また、一回目と二回目の接種間隔を18日から25日の中で比較したところ、間隔を22日以上空けた方が抗体価が上昇したと報告しています。これらの結果から、現在進められている、約3週間の間隔をあけてワクチンを二回接種するという方法は、抗体価の上昇から見ても妥当であると考えられます。

まとめ

イスラエルでの大規模調査を中心に、新型コロナワクチンの有効性について解説しました。研究で報告されたファイザー製のワクチンは日本で使用されているものと同種であり、その有効性は高いと考えられます。一方で、変異株に対する効果については不明な点も多く、今後の報告に注目する必要があります。

現在日本では、医療従事者、高齢者、基礎疾患を持つ人から優先的にワクチン接種が始まっていますが、すべての国民がワクチンを二回接種するまでには期間を要すると予想されるため、引き続き日々の感染対策を怠らないことがパンデミックを防ぐ上で重要になるでしょう。

【参考文献】
1. Eric J Haas, et al. Impact and effectiveness of mRNA BNT162b2 vaccine against SARS-CoV-2 infections and COVID-19 cases, hospitalisations, and deaths following a nationwide vaccination campaign in Israel: an observational study using national surveillance data. Lancet, 2021 May 15;397(10287):1819-1829.
2. 千葉大学医学部附属病院.新型コロナワクチン接種者1,774名のほぼ全員で抗体価上昇. 2021年6月3日(https://www.ho.chiba-u.ac.jp/hosp/dl/news/info/info2021_03.pdf)

執筆

名波 陽平

 

約10年間の臨床、研究、教育活動を経てメディカルライターとして活動中。常に新しい論文に目を通し、健康増進に関わる幅広い分野において、正しい情報を発信しています。また、日本と海外との医療・介護の違いを分かりやすく伝えることで、読者の皆様にとってよりよい生き方のヒントになればと考えています。

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