NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)とは

NAD(ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド)は私たちが食べ物からエネルギーを得る過程に必須の物質です。体内のNADは加齢とともに減少することが知られています。老化において低下したNAD量を回復することで、多くの老化関連疾患に有効であることが細胞実験や動物実験によって示されています。

私たちの身体の中で、NADを合成する経路はいくつかあります。そのうち一つは、ビタミンB3であるニコチンアミドから合成される経路です。ニコチンアミドは、酵素の働きによってNMNに変換されます。NMNはさらに別の酵素の働きによってNADに変換されます。つまりNMNはNADの原料とも言うことが出来ます。
NMNを投与することで身体の中でNADが増加し、多くの老化関連疾患に有効であることが細胞実験や動物実験によって示されています。

現在までに、NMN投与量とその安全性についての報告は多くありませんでした。今回はNMN投与の安全性について検討され、最近報告された論文を二つご紹介します。
一つ目は中国より報告されたイヌとマウスにNMNを投与した研究1、二つ目はスイスとフランスのグループより報告されたラットにNMNを投与した研究2です。

関連記事:老化を止めることができるのか?Aging HallmarksとNMNの関連性

中国より報告されたイヌとマウスにNMNを投与した研究

1. マウスに最大7日間、2,680mg/kg/日まで、イヌに14日間、1,340mg/日のNMNを経口投与して、その影響を調べた論文です。
今までに報告されていた研究では100-500mg/kg程度のNMNが投与されていることが多く、研究グループは投与量を増やして、マウスに1,340ml/kgのNMNに投与しました。7日間投与後、マウスの見た目に違いはありませんでしたが、NMNを投与されたマウスでは投与されていないマウスと比較し、体重の増えが少ないことが分かりました。血液検査で肝臓と腎臓の数値、顕微鏡でみた肝臓や腎臓の組織にも変化はありませんでした。
次に、研究グループは同じ量を1日2回(2,680mg/kg)、7日間投与しました。やはり、NMNを投与されたグループでは体重の増えが少ない傾向がありました。NMNを1日2回投与されたマウスでは肝臓の数値の一つであるALTの値が上がりましたが、肝臓の細胞の見た目には変化はありませんでした。腎臓の数値の一つである尿素窒素は少し減っていましたが、それ以外の数値に違いはありませんでした。
次にこのマウスの肝臓で遺伝子の現れ方を調べました。1日1回NMNを投与されたマウスでは74個の遺伝子の現れ方が変化していました。脂肪代謝に関わる遺伝子の現れ方が多く変化していたため、血液中の脂質について調べましたが、変化はありませんでした。1日2回NMNを投与されたマウスでは、449個の遺伝子の現れ方が変化していました。やはり脂肪代謝に関わることが考えられたため、血液中の脂質について調べたところ、NMNを投与されたマウスでは、総コレステロール、中性脂肪、LDL-コレステロール(悪玉コレステロールと呼ぶものです)の値が減少していました。

また腎臓でも調べたところ、インスリンの効き*に関する遺伝子も変化していましたが、血液検査でインスリンの値が減っており、インスリンの効きが良くなっていることが示唆されました。

これは、少ないインスリンでも血糖値をコントロールすることが可能になったということだと考えられます。2011年に発表されたNMNがマウスの糖尿病に対する効果をもつことが示された論文でも、肝臓での炎症、免疫、脂質代謝といったインスリンの効きに関係する遺伝子の変化と共にインスリンの効きが良くなったことが報告されています。

この研究では、NMNが身体の老化を制御する中心であるサーチュイン遺伝子を変化させることがインスリンの効き改善の一因であると記述させています。肝臓と比較し、腎臓はインスリンの効きとの関係はそこまで大きくありませんが、どちらの研究でも似た様な変化を示していることは興味深いことです。

もっと大きな動物でも調べるため、イヌ(ビーグル犬)にNMN(1,340㎎/日)を14日間投与しました。イヌの見た目や行動に変化はありませんでした。マウスと異なり、NMNを投与されたイヌでは体重増加が多くなりました。NMNを投与されたイヌでは、血液中のクレアチニンと尿酸(いずれも腎機能と関わります)が増加していました。肝臓、脂質の数値に変化はありませんでした。
これらのデータから、短期間のNMN投与でみられた副作用は軽度のものであったと筆者らは記述しています。また、高用量のNMN投与で、短期間でもコレステロールや中性脂肪の値、インスリンの効きを改善させる可能性があると記述しています。
*インスリンの効き…インスリンの効きが悪くなることは糖尿病の病態の一つです。

<参考文献>

Subacute toxicity study of nicotinamide mononucleotide via oral administration. Frontiers in Pharmacology 15, 2020

関連記事:糖尿病に対してのNMNの役割

スイスとフランスのグループより報告されたラットにNMNを投与した研究

2. ラットに最大90日間、1500mg/kg/日のNMNを経口投与して、その影響を調べた論文です。
研究グループはオス、メスのラットを4グループずつに分けて、NMNを低用量(375mg/kg)、中用量(750㎎/kg)、高用量(1500mg/kg)で90日間投与し、投与終了後も28日間観察しました。投与中はNMNを多く投与されたラットほど、体重の増えが少ない傾向にありました。逆に、投与終了後には多く投与されたラットで体重が増える傾向がありました。NMNを90日投与した後と、投与終了後28日経過した時に血液検査が行われました。NMNを投与していないラットと比べてNMNを投与されたラットでは、肝機能(ALP、AST、ALT)は有意に高い値となっていましたが、これらの値はNMNを中止28日後には正常になっていました。各臓器の重さ(体重との比率で検討されました)は、オスで腎臓(中用量と高容量のグループ)、肝臓(高容量のグループ)、副腎(低用量と中用量のグループ)が重たくなっていました。メスでは変化はありませんでした。
顕微鏡で組織を観察したところ、肝臓、腎臓、ハーダー腺(目の奥にあり、涙に脂質を供給する)に変化が見られました。肝臓では重度ではないものの肝臓の細胞が肥大していましたが、NMN中止後28日には改善していました。これは血液検査での肝機能の変化と共に肝障害を示すものと思われましたが、肝臓の細胞が壊死するようなものではなく、NMN中止後は改善していたことからそこまで重度のものではないと考えられました。

しかし、3000mg/kgのニコチンアミドリボシド(体内の酵素によりNMNに変換される物質。投与によりNAD増加効果がある。)90日間の投与で肝臓細胞の壊死が確認されたとの報告もあり、今後慎重に検討すべき点であると筆者らは述べています。オスの中用量、高用量のグループで、腎臓に慢性進行性腎炎の変化が認められ、これはNMN中止後28日でも継続していました。

しかしラットの慢性進行性腎炎とヒトの慢性腎臓病は様々な点で異なっていることから、この結果がすなわちヒトの腎機能におけるリスクがあるということではないと考えられると記述されています。オス、メスともにハーダー腺にリンパ球が入り込んでおり、高容量グループではNMN中止後28日にも認められましたが、重度のものではありませんでした。ハーダー腺へ入り込むリンパ球は、自然にみられることもあり、それ以外のハーダー腺の変化はみられなかったので、経過とともにもとに戻る可能性があると記述されています。
したがって、90日間の投与であれば、1500mg/kgのNMN投与は副作用を心配する必要のない量であると言え、これは人間に換算すると900㎎/日に相当すると筆者らは記述しています。

<参考文献>

Safety evaluation after acute and sub-chronic oral administration of high purity nicotinamide mononucleotide (NMN-C) in Sprague-Dawley rats. Food and Chemical Toxicology 150, 2021

 

まとめ

これらの研究報告から、今まで動物への投与が報告されていたNMNより多くの量のNMN投与でも重篤な副作用はみられず、安全に投与出来ることが分かりました。

しかし肝臓や腎臓の変化が認められており、特にこれらの臓器への影響については、さらなる長期投与やヒトへの投与も含め、今後もさらなる研究結果が望まれます。

執筆

亀田 歩

 

医師・医学博士。医師免許を取得後、病院勤務を経て10年ほど前より医学研究や学生教育も並行して行っております。現在はヨーロッパに研究留学中で、日本との相違点、類似点を日々実感しながら生活中です。医学には日々新たな情報があり、それを学び続けることで今後医師としての診療がより深いものになればと思います。出来るだけわかりやすく、新たな世界を知るワクワク感を共有できれば幸いです。

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