厚生労働省による「国民健康・栄養調査(2018年)」によると、日本で朝食に何も食べない人の割合は20代男性で20%近く(菓子や果物のみの場合も含めると30%近く)、女性では10%程度(同20%近く)、30代、40代男性では10%程度(同25%程度)、30代女性は5%程度(同10%程度)、40代女性は2.5%程度(同10%程度)でした。

若い世代を中心に多くの人が朝食を抜いていることが分かります。思い返してみると私たちは毎日朝食をしっかり食べましょう、と教育されてきました。

では、朝食を抜くことによる影響について、どのような点が分かっているのでしょうか。現在までに発表されている医学論文を参照して調べてみたいと思います。

1日のうち食事摂取する時間を制限する ‐時間制限食の効果‐

1日のうちに食事を摂る時間を6から12時間のみに制限する時間制限食の効果が私たちの健康に与える様々な効果が報告されています。絶食時間が12から24時間続くと、血液中のブドウ糖が減り、肝臓に蓄えているグリコーゲン(ブドウ糖が多くつながったもの)が消費され、血液の中には脂肪が分解されて生じたケトン体という物質が検出されるようになります。

ブドウ糖をエネルギー源として使う代謝から、脂肪酸やケトン体をエネルギー源として使う代謝に変化します。このような状態においては、脂肪が分解されて体重が減少しやすくなります。さらに、ブドウ糖と比較してケトン体の代謝には多くのエネルギーが必要なため、ケトン体をエネルギー源として使うと体重が減少しやすくなると考えられています。実際、多くの研究で時間制限食を導入することによりマイルドに体重が減少することが報告されています。

体重減少の他に血圧、コレステロールや中性脂肪といった脂質の改善効果が報告されている他、糖の代謝の改善を報告しているものもあります。炎症マーカーが改善し、心筋梗塞などの疾患後に心臓を保護する効果があることも示唆されています。体重が減少するためこれらの効果がみられると考えられていますが、体重減少によらない効果もあると考えられています。いずれもある程度短期間(4日間から16週間)、少人数(8から40人)での研究結果で、朝から夕方まで(例えば朝8時から17時までなど)、の時間帯に食事時間を限って行われた研究が多いようです。

では、時間制限食を実行するために朝食を抜いて、昼から夜の食事を摂るのはどうでしょうか? 家族そろってゆっくり食事を摂る機会は夜に多いでしょうし、仕事上の集まりも夜に開かれることが多いはずです。朝食を抜くのが一番簡単に思えます。

<参考>

Intermittent fasting: A heart healthy dietary pattern? 

Am J Med. 2020 Aug;133(8):901-907.

体内時計と食事

私たちの身体には1日周期の体内時計が存在します。脳にある体内時計調節の中心が指令を出し、様々な臓器の体内時計がホルモンバランスや体温、栄養素の吸収、代謝などの調節、多くの働きをしています。この体内時計は絶食や摂食によってもコントロールされていることが知られています。

驚くべきことに、動物実験では昼夜の明暗よりも食事を規則的に食べることの方が、体内時計の調節に大きな役割を果たしていることが報告されています。食事のリズムを変化させると動物、ヒトともに様々な組織で体内時計が乱れ、その結果、肥満、脂肪肝、脂質異常などが起こり、糖の代謝にも悪影響を与えることが分かっています。動物実験では1日の食事を開始する時間が4時間遅れただけでも体重が増えやすくなり、糖や脂肪の代謝調節に悪影響を与え、体内時計による体温調節にも悪影響を与えることが示されています。

<参考>

Time-ristricted eating: benefits, mechanisms, and challenges in transoation. 

iScience. 2020 Jun 26;23(6):101161.

これらのメカニズムを考えると、時間制限食のために朝食を抜くのはあまり望ましくないように思われますが、ヒトで朝食を抜いた時間制限食について検討した臨床試験は現在のところほとんどないようです。

朝食を抜く時間制限食 –動物実験-

8週間、早い時間の時間制限食を行ったグループと遅い時間の時間制限食を行ったグループを比較すると、遅い時間のグループの方が体重が増加しやすく、糖代謝に悪影響があったと報告されています。また、2週間同様の比較をすると遅い時間の時間制限食グループの方が体重増加しやすく、体内時計を調節する遺伝子の現れ方が乱れていたという報告もあります。

朝食を抜く時間制限食 -ヒトの実験-

・平均年齢29歳の筋肉トレーニングを日常的に行っている男性34名を8週間、午前8時、午後1時、午後8時の3回食事するグループと午後1時、午後4時、午後8時の3回食事をするグループに分けて観察したところ、後者においてより体重減少と体脂肪減少効果がありましたが除脂肪体重には影響がなく、血糖値がより良くなったと報告されています。運動パフォーマンスに差はありませんでした。

・40人の筋肉トレーニングを日常的に行っている女性において8週間、12時―20時の時間制限食を行うグループと従来の1日3回の食事をするグループに分けて比較すると、運動パフォーマンスには差がなかったが、時間制限食グループでより体重が減少しやすかったと報告されています。
これらの2つの報告からは、筋力トレーニングを日常的に行っている人で、8週間というある程度短期間であれば、朝食を抜く時間制限食により少なくともネガティブな影響は認められず、体重減少効果があったことが分かります。

<参考>

Effects of eight weeks of time-resticted feeding (16/8) on basal metabolism, maximal strength body composition, inflammation, and cardiovascular risk factors in resistance-trained males. J Transl Med 14, 290, 2016

Time-ristricted feeding plus resistance training in active females: a randomized trial. The American Journal of Clinical Nutrition, 110, 628-640, 2019

朝食を抜くことの影響

一方、時間制限食とは関係なく、朝食を食べる人と食べない人に分けて比較した臨床研究をいくつかご紹介します。

・18-65歳(平均35歳)の男女において、4-16週間の短期間に朝食を抜くことを検討した研究論文のうち、基準を満たす7つの研究論文の425名のデータをまとめた報告によると、朝食を食べない人では、体重が減少しました(-0.54kg)が、体脂肪などに変化は見られませんでした。また、LDL-コレステロール(悪玉コレステロールと呼ばれるものです)の値が上がりました(+9.24mg/dL)が、血圧や中性脂肪の値には変化は見られませんでした。

・8個の研究論文で報告された106,935人のデータをまとめた報告によると、朝食を摂らないことで、2型糖尿病の発症リスクは1.21倍に増えました。

・日本で行われた研究では、平均年齢57歳の朝食を食べない2型糖尿病患者は朝食を食べる場合と比べて動脈硬化が有意に進行しており、朝食を食べない日数が多いほど動脈硬化が見られました。
・イギリスで行われた193,860人のデータを用いて行われた研究では、朝食を抜くこと肥満、体脂肪、冠動脈疾患、肺がん、うつ症状、不眠、喫煙が相関しており、体内時計に関連する遺伝子が、夜型タイプになっている人が多かったとの結果でした。

<参考>
Breakfast skipping, body composition, and cardiometabolic risk: a systematic review and meta-analysis of randomized trials. Obesity 28, 1098-11090, 2020

Breakfast skipping and the risk of type 2 diabetes: a meta-analysis of observational studies. Public health Nutr 18, 3013-3019, 2015

Breakfast skipping is associated with persistently increased arterial stiffness in patients with type 2 diabetes. BMJ Open Diab Res Care, e001162, 2020

Genome-wide association study of breakfast skipping links clock regulation with food timing. Am J Clin Nutr, 110, 473-484, 2019

子供や若者においてはどうでしょうか?

18歳以下の子供や若者において、朝食を食べない人には肥満の人の割合が高いことが、日本で行われた臨床研究を含め、多くの研究で示されています。さらに、朝食を食べない子供や若者では、血圧、中性脂肪やコレステロール値、インスリンの効き*などの心血管疾患リスクファクターのデータが悪いことが報告されています。

子供の脳は、大人と比較してブドウ糖による代謝が活発に行われています。4-18歳の子供や若者において、朝食を食べることにより、注意力、記憶、実行機能(行動、思考、感情をコントロールする能力)、言語機能といった認知機能に良い影響が及ぼされることが示唆されています。日本の中高生で幸せではないと答えた人の中では朝食を食べない人が有意に多かったとの報告もあります。
*インスリンの効きが悪くなることは糖尿病の病態の主要因の一つですが、メタボリック症候群の重要な原因でもあります。

<参考>
The link between breakfast skipping and overweigh/obesity in children and adolescents: a meta-analysis of observational studies. Journal of Diabetes & Metabolic Disorders 18, 657-664, 2019

A systematic review of the association of skipping breakfast with weight and cardiometabolic risk factors in children and adolescents. What should be better investigate in the future? Nutrients 11, 387-410, 2019

The effects of breakfast and breakfast composition on cognition in children and adlescents: a systematic review. Adv Nutr 7(Suppl), 5905-6125, 2016

Skipping breakfast, por sleep quality, and internet usage and their relation in with unhappiness in Japanese adolescents. PLOS ONE, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0235252, 2020

最後にアメリカで行われた臨床試験の結果についてご説明します。
この臨床試験は40-75歳までの6,550人の男女を対象として行われました。参加者は1988年から1994年にかけて朝食を食べる頻度を含めた質問に回答しており、2011年末までの期間で死亡した場合、死亡した原因について記録されました。参加者の5.1%は全く朝食を摂らず、10.9%はほとんど摂らず、25.0%は時々摂り、59.0%は毎日摂っていました。

調査期間に2,318人の参加者が死亡しました。朝食を全く食べない人は毎日食べる人と比較して、死亡率が1.75%高くなりました。中でも、心血管系疾患による死亡は、2.58倍の高さでした。

朝食を食べない人は、その他の生活習慣も不健康である確率が高いため、年齢や性別、人種だけではなく生活習慣(収入レベル、既婚かどうか、飲酒、喫煙、身体活動度、摂取カロリーや食事の質、併存疾患など)についても条件が同じになるように補正しても、朝食を全く食べない人は朝食を毎日食べる人と比較して、全ての原因による死亡率が1.19倍高く、心血管系疾患による死亡率は1.87倍高いとの結果でした。朝食を摂らない人は、摂取カロリーが14%低かったにも関わらず、このような結果が得られました。

この臨床試験から、朝食を食べないという習慣は、それ自身で死亡率、特に心血管系疾患による死亡率を高めることが分かります。この臨床試験は、前向きのコホート研究といって試験開始前に参加者を群分けして経過を追った試験で、比較的多くの人数を長い年月にわたって調査しており、この結果は私たちも参考にして良いのではないかと思います。

<参考>

Association of skipping breakfast with cardiovascular and all-cause mortality. JACC 23, 2025-2032, 2019

まとめ

これらのデータから考えると、成長期の子供や若者においては特に朝食を摂ることは重要であると思われます。大人においては、時間制限食を実行するためにある程度短期間、20時頃までの食事にすることが可能であれば、体重減少効果を期待することが出来ると思われます。しかし、それ以上時間制限食によるベネフィットが見られるかどうかは今のところの医学論文からは分かりませんでした。
一方、朝食を摂らないことで体内時計に影響があること、LDL-コレステロールが上がったり糖尿病リスクが上がったりすること、何よりも長期にわたって解析すると、死亡率、特に心血管系疾患による死亡率が上がるとの結果があることを考慮すると、現在の知見では長い期間にわたり朝食をスキップすることは避けるべきだと考えます。

朝食をしっかり食べる人は規則正しい生活をしていると考えられます。

夕食を早い時間にすませ、しっかり睡眠をとり、朝起きた時にはお腹がすいている状態だと思われます。朝食をとることにはこのように規則正しい生活をすることにより、総合的に健康に良い効果が得られるのではないでしょうか。

執筆

亀田 歩

 

医師・医学博士。医師免許を取得後、病院勤務を経て10年ほど前より医学研究や学生教育も並行して行っております。現在はヨーロッパに研究留学中で、日本との相違点、類似点を日々実感しながら生活中です。医学には日々新たな情報があり、それを学び続けることで今後医師としての診療がより深いものになればと思います。出来るだけわかりやすく、新たな世界を知るワクワク感を共有できれば幸いです。

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