「長生きと老化の最先端」が全部つめこまれた贅沢な1冊を紹介したい。「LIFE SCIENCE 長生きせざるをえない時代の生命科学講義」は、科学やサイエンスといった言葉が苦手な人も、興味がない人も、専門家も、全世代の誰でもが簡単に、面白く、まるで小説を読むかのように読み進めることができる基礎教養本といえる。もしかすると、現代を生きている全ての人が、今このタイミングでこそ読むべき1冊かもしれない。
生命科学者として世界的に有名である吉森保氏が目の前で講義をしているかのような臨場感で、「科学」や「細胞」を知ることができ、細胞の世界がとてもシビアで合理的であることに驚く。本を読み進めて細胞を少し理解すると、「生命」という漠然とした言葉が途端に身近に感じ、そして生命を知ることが、健康で長生きするためのヒントであると気付くことができる。
そしてこの本は、長生きや老化、健康、病気に関することが書かれているだけではない。
COVID-19に関するめまぐるしい情報の中にいる今、様々な数字やグラフ、専門家の意見、最新の知見などを、冷静かつ適切に判断し、間違った情報や偏った視点に惑わされないための力がつく1冊でもある。
Index
「人間は死に向かって、老いていくのは当たり前」ではないらしい
年をとれば老いていくのは当たり前と思っている人が多いのではないだろうか。
実際に、健康づくり・健康教育に携わっていると、「年だから」という言葉はまるで合言葉のように飛び交う言葉の1つである。
確かに、年をとると様々な身体症状を感じる人が多い。そしてまた病気になる確率が高くなるのも事実である。
では何をもって「老いていくのは当たり前ではない」と言えるのか、となる。
どうやら老いずに死ぬ動物や、死なない生き物がいるらしい。アホウドリや、ネズミの一種のハダカデバネズミは、生きている間、完璧な健康を維持し、あらかじめ定められたときがくるといきなり死ぬそうだ。年をとっても老化はしない。どうやら「老化は必然ではない」らしい。
そう、まさに誰もが願っている、ピンピンころりである。
そして、この鍵を握っているのがこの本のキーワードかつ、長生きと老化のキーワードである「オートファジー」で、オートファジーには老化を抑制する可能性があるらしい。
さらに、これは夢物語ではなく、このまま研究が進めば、吉本保氏が目指している「老化を抑制し、すべての人が健康なまま長生きする社会」がやってくるかもしれない。
そのくらい、今の科学は進んでいるようだ。
ついでにと言っては何だが、ベニクラゲというクラゲは死なないらしく、ベニクラゲの不死の研究が進めば、生き物が死ぬようにできているという常識が覆されるかもしれないとのこと。
恐竜が絶滅したように、人類もいつか絶滅する可能性もあるし、死ななくていい未来の可能性もある、ということらしい。
人類が死なない世の中は大変なことになるだろうから、これからも人類は死とともに進化を遂げていくのだと思われるが、科学が見出す可能性の大きさには驚かざるを得ない。
オートファジーは様々な病気と関係すると言われている
オートファジーは、アルツハイマー病やパーキンソン病を代表とする神経変性疾患、がん、2型糖尿病、動脈硬化(脳梗塞を引き起こしたりする)、感染症、腎症、心不全、炎症性疾患、筋萎縮症、ミオパチーなどと関係すると言われているそうだ。
よく聞く病気や、なりたくないと思っている病気がほとんど該当している。
数年前に他界した私の祖母はアルツハイマー型認知症で、最後は家族の誰のこともわからない状態であった。認知症の中でもアルツハイマー型は最も多く、誰もがなりたくないと思っている病気の1つではないだろうか。
アルツハイマー型認知症は、脳の細胞の中にタンパク質の塊が溜まって、細胞が死んでしまい、そのせいで記憶が失われていくそうだ。
ここでオートファジーが活躍して、細胞の中に溜まった有害物を掃除してくれれば、アルツハイマー病やパーキンソン病を治せる可能性があるらしく、今世界中の製薬会社がオートファジーの機能を高める薬の開発に力を入れているそうだ。
このような、治らないとされている病気の治療薬が開発される可能性があるということを知っているだけでも、明るい未来を想像することができるからいい。何十年先になったとしても、とてもいいことだと思う。
一方で、私の周りには「薬には頼りたくない」という人も一定数いて、それも大事にするべき個人の価値観だと思っている。
恥ずかしながら私自身、健康に関わる仕事をしているものの、薬を飲むと体内でどんなことが起こるのかを考えたことはなかったように思う。
しかし、この本を読んでみると、薬が身体や細胞にどんな影響を与えるかを正しく知ることができ、これからは、また違った視点で判断ができるような気がしている。
役にも立つし、危険でもあるのが現代の科学
現代の科学はすごく進んでいる。
遺伝子操作が進化して、簡単に新しい生き物や人間が作れてしまうらしい。生物兵器も、天才も、美男美女も。
2019年に報道されたニュースを覚えている人もいるかもしれないが、世界で初めて遺伝子操作をした赤ちゃんを作った中国人研究者が逮捕されている。
当時は、どういうことか十分に理解できていなかったが、この本を読んで、条件に合わせた人間が簡単に作れてしまうほど科学が進歩していることを実感し、2年遅れで驚愕した。
同時に、研究者の努力への感動と、想像を超えている進歩への恐怖と、人類の未来に計り知れない可能性を感じた。
日常の生活でオートファジーを上げるためには
どうやらオートファジーが要であることは確からしい。年をとるとオートファジーが減ってしまう。そしてオートファジーの働きを悪くするのは「ルビコン(タンパク質)」の増加が原因らしく、ルビコンを抑えると寿命も延び、同時に老化を食いとめられる可能性が示されているとのこと。
ちなみにルビコンは、高脂肪食で増えるそうだ。
これまでも、過度な油物は控えるべきだと当たり前のように言われていて、多くの人が体に悪いであろうという認識があるものの、生活習慣病の罹患数からみても真剣に取り組んでいる人は少ないように思う。
しかしこの本を読むと、高脂肪食をたべて「ルビコン」が増えると、自分の身体に(細胞に)どのような影響があるのかを明確に知ることができてしまい、高脂肪食を積極的に控えたくなるから「知る」というのは面白い。
それから「納豆やキノコを食べる」のがいいらしい。
オートファジーを活性化させる天然の食品成分の代表的なもののひとつが「スペルミジン」で、納豆、味噌、醤油、チーズ、シイタケなどに含まれているようだ。
若い人はスペルミジンを自分でつくれるが、歳をとると、つくる量が激減すると書かれているが、残念ながら何歳までが若い人なのかは書かれておらず、「歳をとったな!」と思ったら、納豆にご飯、キノコが入った味噌汁がいいかもしれないと書かれている。
これなら簡単。ずぼらな私でもすぐに実践できそうだ。
また、カテキンやサケ、イクラ、エビなどに含まれる赤色天然色素の「アスタキサンチン」、ブドウや赤ワインに含まれている「レスベラトロール」もオートファジーを活性化させることがわかっているとのこと。
食事は楽しむことが大前提ではあるものの、嗜好品はほどほどに、細胞にとって良いことを、すなわちオートファジーが高まることを積極的に生活に取り入れていくことが、より良い人生を生き抜く一助になる可能性が高そうだ。
今知っておくべき生命科学が詰まっているこの本は、子供から大人まで、全世代にお勧めしたい1冊である。