生きていく上で欠かせない生体内成分であるNAD+は、加齢によって減少することが知られています。NOMON研究所では共焦点顕微鏡を用いて、通常の細胞培養の様子と、NAD+が低下すると細胞はどうなるのか、そこへNMNを添加するとどうなるのかを実験した3種類の動画を撮影しました。これらの動画を紹介しながら、NAD+の役割や加齢に伴うNAD+低下を防ぐ方法について解説します。

NAD+とは

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、ビタミンB3から合成される生体内成分であり、生きていく上では欠かせないものです。ところが、年をとると身体の中のNAD+の量が減ってしまいます。また、糖尿病やがん、アルツハイマー病などの加齢関連疾患とNAD+の量の減少には密接な関係があることもわかっています。

近年では、このようなNAD+の減少が老化や病気を引き起こす原因ではないかと考えられるようになりました。NAD+は、細胞の中においてNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)から作られます。

NAD+の役割や合成経路について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

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このNMNは、老化やさまざまな病気に対して改善効果があるのではないかと注目されており、世界中で盛んに研究が行われています。日本では、NMNをサプリメントとして購入し、摂取することができます。

NAD+がミトコンドリアで果たす役割

NAD+は、細胞内に存在するミトコンドリアでエネルギーを作る際に使われています。ミトコンドリアは、細胞内や身体の中で使われるエネルギーを産生する工場のような役割を担っています。ミトコンドリアは赤血球を例外として、ほとんどすべての細胞に存在しています。

NAD+がないと、エネルギー工場であるミトコンドリアは稼働できません。エネルギーをうまく作ることができなくなると、身体の調子が悪くなったり、病気になったりしてしまいます。

NAD+が低下すると細胞はどうなってしまうのか?

細胞内のNAD+が減少すると細胞はどうなってしまうのか、詳しくみていきましょう。
試験管内で細胞を培養し、ミトコンドリアを生きたまま染色することで、その動きを可視化できます。NOMON研究所では、薬剤処置によってNAD+を作れないようにした細胞のミトコンドリアを可視化して顕微鏡下で観察し、動画を撮影しました。

これからご紹介する3本の動画では、ミトコンドリアを水色に染色して見えるように処置をしています。ミトコンドリアは細胞全体に広がっていますが、核にはありません。そのため、細胞の中で核がミトコンドリアの染色で染まらずに黒く丸く抜けて見えています。

これらの動画は、横河電機株式会社の共焦点顕微鏡「CellVoyager CQ1」を用いて撮影しました。細胞にダメージを与えることなく生きたまま詳細に観察でき、リアルタイムに細胞の様子を動画で撮影できます。

写真提供:横河電機株式会社

動画①通常の細胞培養の様子

1つ目の動画は、普通の細胞培養の様子を2日間撮影したものです。通常の細胞は試験管内でも元気に生きており、活発に動き増殖して元気に活動していることがわかります。

動画②NAD+を作らせないようにした場合

2つ目の動画は、細胞に薬剤を添加してニコチンアミドからNAD+が細胞内で作れないようにした状況で撮影したものです。

 

通常、NAD+はビタミンB3の一種であるニコチンアミドから作られています。ニコチンアミドはナイアシンアミドともよばれており、テレビやネットのCMなどでも 近年よく目にするようになりました。ナイアシンアミドは、皮膚におけるNAD+の減少を防ぐことで皮膚へのアンチエイジング効果が期待できるとして注目されています。

ナイアシンアミドの効果について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:最近話題のナイアシンアミドとは? 肌のアンチエイジングにも用いられる今注目の成分

ニコチンアミドからNAD+を作らせないようにした際の細胞の様子を、2日間撮影し続けたのがこちらの動画です。

最初のうちはNAD+がまだ細胞の中に残っているため、細胞が活発に動いています。しかし、NAD+の量が減っていくと、徐々に細胞の動きは止まってしまいます。細胞は試験管に接着する力を維持できず、形を保てなくなります。次第に細胞が丸くなり、最後は剥がれて死んでしまっている様子がみてとれます。

動画③NMNを添加した場合

3つ目の動画では、2つ目の実験でニコチンアミドからNAD+を作れなくなった細胞に対して、NMNを与えた様子を撮影しました。

 

ニコチンアミドは細胞内でNMNに変換され、その後NAD+へと合成されます。ニコチンアミドからNAD+が作れない条件であっても、細胞はNMNからNAD+を合成できます。そのため、この動画のようにNAD+が減少して死んでしまう細胞にも、NMNを与えることで細胞を元気に保つことができるのです。

NAD+低下による細胞死はNMNで防げる

以上の動画から、ニコチンアミドからNAD+が細胞内で作れなくなると細胞が活動できなくなり死んでしまうこと、そして、NMNによってNAD+の合成が促進され、 細胞死を防げることがわかりました。

ニコチンアミドからNMNを作る力は加齢によって低下し、NAD+減少の一因となっていることも報告されています。このような状態では、ニコチンアミドを摂取しても NAD+の量をうまく維持できない可能性が考えられています。つまり、ニコチンアミドだけではなく、NAD+の材料であるNMNなどをあわせて摂取してNAD+をより多く作れるようにすることが、加齢に伴うNAD+の低下を防ぐ上で重要な戦略といえます。

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師 / 中小企業診断士

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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