昼間は仕事に打ち込んで、夜は家族との時間を楽しんだり、自分の趣味の時間を満喫する。
平日は忙しくしているけれど、休日には出かけたり、余暇の時間を使ってリフレッシュする。
たっぷりと英気を養って、また、やる気に満ちた状態で仕事に向かう。
こんなふうに、オン・オフの切替がうまくいけば理想的です。

バウンダリー・マネジメントにより良質なパフォーマンスを発揮

仕事をしている間の時間の過ごし方はもちろんですが、パフォーマンスを発揮するうえでは、「オフの時間」をどう過ごすかも重要です。
仕事中のストレスによって起こるストレス反応や、消費された心理社会的資源*を回復させるための活動は「リカバリー経験」と呼ばれ、研究が進んできています。
「リカバリー経験」をうまく活用するには、仕事と余暇の時間の境目をマネジメントする能力(バウンダリー・マネジメント)が必要です。
働くときはしっかりと働き、休むときはしっかりと休むことで、再び仕事をするときの良質なパフォーマンス発揮に結びつけ、オンとオフ両方の間にポジティブな循環を生み出していくことができるのです。
一方で、テレワークの運用が進んできています。
通勤時間を余暇や生活のことにあてられる反面、生活空間で仕事をすることとなり、バウンダリー・マネジメントの難しさは増しています。
リカバリー経験は、「心理的距離」、「リラックス」、「熟達」、「コントロール」の4つの側面で構成されており、4種類のリカバリー経験が、それぞれ心身の良好な健康、パフォーマンスの高さと関連していることが明らかになっています。
ここでは、リカバリー経験の4側面を紹介しながら、バウンダリー・マネジメントへの活かし方を考えていきます。

 

①心理的距離
仕事から物理的にも精神的にも離れている状態であり、仕事の事柄や問題を考えない状態のことです。4側面のうち、心身の健康により大きな役割を果たすといわれています。
生活空間の中で仕事をするテレワークでは、心理的距離をとりづらいので、工夫が必要です。

ヒント
✓オフの時間には、仕事に使うパソコンや資料などが目に入らないようにしまう
✓勤務開始、終了、昼休みの時間をあらかじめ決めておく
✓土日に「少しだけ」とメールチェックなどはせず、完全にオフの日をつくる
✓仕事以外の人間関係(家族や友人など)との時間をとる

 

②リラックス
リラックスは心身の活動量を意図的に低減させてくつろいでいる状態をさします。

ヒント
✓昼休みは、食べ終わったらすぐ仕事に戻るのではなく、決まった45分や60分しっかり休憩をとる
✓仕事終わりや休日の朝に呼吸法などのリラクゼーション法を使う
✓肩の力が自然と抜ける、思わず「ふーっ」と一息をつけることを見つけて、積極的に行う

 

③熟達
熟達は、余暇時間での自己啓発に時間をとることをさします。

ヒント
✓新しいトピックのセミナーや勉強会に参加してみる
✓これまで読んだことがないジャンルの雑誌を買って読んでみる
✓自分とは違う業種の人と話す機会をつくる

 

④コントロール
コントロールは、余暇の時間に何をどのように行うかを自分で決められる程度を意味しています。

ヒント
✓自分で過ごし方を決められる時間を1時間でも2時間でも確保する
✓家族を楽しませるプランを立てて提案する
✓自分の部屋、自分の机、自分のクローゼットなど自分だけのスペースを快適に整えるために時間を使う

バウンダリー・マネジメントのヒントを取り入れて、テレワーク時代も、思いっきり仕事で力を発揮して、余暇の時間も満喫する、そんな生活を送りましょう!

*心理社会的資源:仕事において、ストレス要因を減らし、目標の達成を促進し、個人の成長や発達を促進する心理的・社会的な要因のこと。

【参考文献】

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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