「アンコンシャス・バイアス」というワードを聞いたことがありますか?

職場で、「うちのチームには単身赴任をしている人がいて……」という話を聞いたときに、男性をイメージしたとしたら、「単身赴任は男性がするもの」というアンコンシャス・バイアスが関係しているかもしれません。

アンコンシャス・バイアスとは

アンコンシャス・バイアスは、無意識のバイアスとも呼ばれ、誰もがもっているもので、その存在自体が悪いというわけではありません。
これまでに経験してきたことや、見聞きしたことに影響を受けて、私たちの中に自然に培われているものです。
けれど、この存在に無自覚でいると、チームの心理的安全性が損なわれてしまうことがあります。

チームの心理的安全性

チームの心理的安全性とは、「このチームでは、自分の意見や考えを率直に言っても、非難されたり、拒絶されるなどの対人的なリスクを心配しなくてもよい状態」のことを指します。

たとえば、上司が「最近の若者は打たれ弱い」といったステレオタイプな決めつけをしてしまうと、決めつけの対象となったメンバーは「上司に話してもわかってもらえない」と感じるようになり、コミュニケーションをとらなくなっていってしまいます。
そうすると、お互いに理解し合えない状態が続いてしまうことになります。

このほかにも、「男性は弱音を吐かない」というアンコンシャス・バイアスがあると、仕事でうまくいかないことがあったとしても、「困っている」、「助けてほしい」といったことが口に出しづらくなり、チーム内でお互いに助け合って協力し合うことの妨げになってしまいます。

「育児中の人は転勤をともなう仕事は難しい」といった先回りして限界を決めつけるようなアンコンシャス・バイアスがあると、「どうせ成長のチャンスをもらえない」とモチベーションが下がって、積極的な行動をとらなくなってしまうかもしれません。

アンコンシャス・バイアスを自覚するには

これらのアンコンシャス・バイアスは誰もがもっているものですが、その存在を自覚することで、影響を抑えることができます。
すぐに実践できることを2つ紹介します。

①属性でひとりくくりにした表現を使わない

「若者」、「男性」、「育休明けの社員」、「新人」といった属性について、「若者は○○」、「男性は○○」といった表現は使わないようにしましょう。
そういった属性を取り払って、その人の実際の言動を見るようにすることで、これまで見えていなかったメンバーの良さや強みにも気づくかもしれません。

②「普通は」と自分の価値観を押しつけない

「普通はこうするもの」、「普通ならやらないよね」など、自分の価値観がすべての人やすべてのケースに当てはまるような発言に気をつけましょう。
実はこの「普通は○○」は、我が家ではNGワードになっていて、ついうっかり「普通はこうするものだよね」と発言してしまうと、相手にちょっとしたプレゼントを贈ってお詫びするきまりになっています。

家庭でも、育ってきた環境や、もっている価値観が異なる人同士が一緒に暮らしていくので、「普通はこう」と自分の価値観を押しつけるのではなく、相手の価値観も尊重しながら、関係を築いていくことで、お互いを理解し、信頼し合える関係を育んでいけると考えています。

職場も同様に、さまざまな価値観をもつメンバー同士が働いています。
そして、それぞれの多様性を活かして、個人では思いつかないようなこと、成し遂げられないようなことが出来ることこそが、チームの醍醐味でもあります。

属性ベースのフレーズと「普通は」に気をつける

無意識のバイアス、と呼ばれるだけに、自覚的になるのは難しいものですが、属性ベースのフレーズと「普通は」に気をつけていただくだけでも、「あっ」と自分のアンコンシャス・バイアスに気づくきっかけになるはずです。
立ち止まるきっかけに、活用してみてくださいね!

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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