新型コロナウイルスの影響で、私の周りでもテレワークをしている人が随分増えました。

そんな中で目にしたのが、新日本フィルハーモニー交響楽団のこちらの動画です。

プロの音楽家たちが、それぞれの自宅から「合奏する」というもの。

次々と演奏会が中止になっている音楽業界ですが、まさかテレワーク部が活動していたなんてと驚きました。

 

新日本フィルテレワーク部によるテレワークオーケストラ演奏会

 

私自身はクラシック音楽に詳しいわけではないのですが、動画を見ながら涙が出そうになりました。

そして、大学院時代にポジティブ心理学の研究室にいた頃のディスカッションを思い出しました。

それは、「ハモることの心理的な効果ってありそうじゃない?」というもの。

ダンスをやっていた後輩のアイディアだったと思います。

「息が合う」体験って、たしかに独特の充実感というか達成感というか、清々しさがあるなとずっと記憶に残っていました。

私たちの生活の中でも、いろんな場面でみられます。

合唱や合奏はもちろん、餅つきだって息が合わないと大変なことになります。

大縄跳びやダンス、スポーツの多くにも、そういう場面があります。

ダンス

今回改めて、「ハモること」、「息を合わせること」の心理学的効果をみた研究を調べてみたのですが、残念ながら見つけられませんでした。

けれど、「つながる」という感覚が、免疫機能の回復を促すことや抑うつや不安を下げること、幸福感やポジティブ感情を増やすことは研究で実証されつつあります。

自分が感じている苦しみは、自分だけが感じているものではなく、別の誰かが感じている苦しみと同じだと受け止められると、苦しさが孤独な体験ではなく、「つながりの体験」へと変わります。

また、こういった「つながる」ことの効果は、ネガティブなストレス状況下でより効果を発揮することもわかっています。

 

今のように難しい状況にいるからこそ、いっそうこの演奏が私たちの心を揺さぶるのも、こういった理由からかもしれません。

出かけたいのに出かけられない、仕事に支障が出ている、うまくいきそうだったことが先延ばしになった…目の前には私たちを悩ませることがあるかもしれませんが、この苦しみは、自分だけが感じているものではなく、みんなが共有しているもの。

そんなふうに捉えてみると、不思議と励まされ、力が湧いてくるものかもしれません。

 

【参考文献】

Rockliff, H., Gilbert, P., McEwan, K., Lightman, S., & Glover, D. (2008). A pilot exploration of heart rate variability and salivary cortisol responses to compassion-focused imagery. Journal of Clinical Neuropsychiatry, 5, 132–139.

Pauley, G., & McPherson, S. (2010). Experience and meaning of this compassion and self compassion for individuals with depression and anxiety. Psychology and Psychotherapy, 83, 129–143.

Neff, K. D., Rude, S. S., & Kirkpatrick, K. L. (2007). An Examination of Self-Compassion in Relation to Positive Psychological Functioning and Personality Traits. Journal of Research in Personality, 41, 908-916.

Leary, M. R., Tate, E. B., Adams, C. E., Allen, A. B., & Hancock, J. (2007). Self-compassion and reactions to unpleasant self-relevant events: The implications of treating oneself kindly. Journal of Personality and Social Psychology, 92, 887–904.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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