最近、よく頭を悩ませるジレンマがあります。
研究の文脈や、企業からのリクエストで、心理学の知見を活かしたセルフケアのプログラム開発を任される機会が多くあるのですが、最近のリクエストは、もっぱら「短い時間で手軽に!」です。
10分のセルフケア動画を作っていたはずが、「やっぱり5分以内で」と言われたこともあります。
受ける側からすれば、「動画を5分見るだけで、メンタルヘルスが良くなる」とすれば、たしかに魅力的かもしれません。

科学的根拠に基づくセルフケア教育のガイドライン

実は、労働者を対象にしたセルフケアの研修やプログラムをつくる際の科学的根拠に基づいたガイドラインは、すでにまとめられています(図)。
ガイドラインによると、時間的なことでいえば、1回あたり2時間程度、最低2回のプログラムに加えてフォローアップの機会があることが望ましい、とされています。
ミニマムで4時間、フォローアップにも時間をとれば、5時間ほど必要ということになります。

科学的根拠に基づくセルフケア教育のガイドライン
図.科学的根拠に基づくセルフケア教育のガイドライン
(平成23年度厚生労働科学研究費労働安全総合研究事業「労働者のメンタルヘルス不調の第一次予防の浸透手法に関する調査研究」分担研究報告書を参考に筆者作成)

手軽な短い時間のプログラムは効果が担保できない可能性がある

私自身、研究領域だけではなく、産業保健現場でも仕事をしているので、「10分以上もある動画なんて、よっぽど興味を持っている人しか見ない」、「そもそも、目に触れないのであれば、意味がないのでは?」という主張もよくわかります。
けれど、5分の動画で効果をあげられるか?というと、自信がありません。
それこそ、エビデンス・ベースドに誠実に回答すれば、「5分の動画で受講者のメンタルヘルスが改善するというエビデンスもなければ、改善しないとするエビデンスもないので、不明」ということになるかと思います。

周囲で起こっている事象としては、認知行動的なアプローチなど、研修内容としてはエビデンスの蓄積のあるテーマを選んでいても、時間を短く手軽にしたところ、「満足度は高くて好評だけれど、メンタルヘルスの改善には効果がみられない」プログラムだった、という結果です。

産業精神保健の研究者仲間とこういったことを話していて、自分の行動としては、「手軽に短い時間で!」と言われたときに、「効果が担保できない」可能性があることを、きちんと伝えていく必要があるのだと感じています。

セルフケアのプログラムを選ぶとき、受けるとき

手軽なものをいろいろやってみるのもよいかもしれませんが、時間がかかってワークなど手間もあるプログラムにじっくり取り組むほうが、一生もののセルフケアのスキルが身につくのかもしれません。

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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