最近、よく頭を悩ませるジレンマがあります。
研究の文脈や、企業からのリクエストで、心理学の知見を活かしたセルフケアのプログラム開発を任される機会が多くあるのですが、最近のリクエストは、もっぱら「短い時間で手軽に!」です。
10分のセルフケア動画を作っていたはずが、「やっぱり5分以内で」と言われたこともあります。
受ける側からすれば、「動画を5分見るだけで、メンタルヘルスが良くなる」とすれば、たしかに魅力的かもしれません。
科学的根拠に基づくセルフケア教育のガイドライン
実は、労働者を対象にしたセルフケアの研修やプログラムをつくる際の科学的根拠に基づいたガイドラインは、すでにまとめられています(図)。
ガイドラインによると、時間的なことでいえば、1回あたり2時間程度、最低2回のプログラムに加えてフォローアップの機会があることが望ましい、とされています。
ミニマムで4時間、フォローアップにも時間をとれば、5時間ほど必要ということになります。
手軽な短い時間のプログラムは効果が担保できない可能性がある
私自身、研究領域だけではなく、産業保健現場でも仕事をしているので、「10分以上もある動画なんて、よっぽど興味を持っている人しか見ない」、「そもそも、目に触れないのであれば、意味がないのでは?」という主張もよくわかります。
けれど、5分の動画で効果をあげられるか?というと、自信がありません。
それこそ、エビデンス・ベースドに誠実に回答すれば、「5分の動画で受講者のメンタルヘルスが改善するというエビデンスもなければ、改善しないとするエビデンスもないので、不明」ということになるかと思います。
周囲で起こっている事象としては、認知行動的なアプローチなど、研修内容としてはエビデンスの蓄積のあるテーマを選んでいても、時間を短く手軽にしたところ、「満足度は高くて好評だけれど、メンタルヘルスの改善には効果がみられない」プログラムだった、という結果です。
産業精神保健の研究者仲間とこういったことを話していて、自分の行動としては、「手軽に短い時間で!」と言われたときに、「効果が担保できない」可能性があることを、きちんと伝えていく必要があるのだと感じています。
セルフケアのプログラムを選ぶとき、受けるとき
手軽なものをいろいろやってみるのもよいかもしれませんが、時間がかかってワークなど手間もあるプログラムにじっくり取り組むほうが、一生もののセルフケアのスキルが身につくのかもしれません。