この数年、心理的安全性についての講演を依頼されることが増えていますが、ほとんどが役員など経営層や管理職層向けのものです。
たしかに、職場で率直に発言できるかどうか、心理的安全性が高いと感じるかどうかには、職位や立場が上位にある者が、相手に発言を促したり、自分と異なる意見に耳を傾け、受け止めることができるかどうかにかかっている面があります。
なので、アプローチの順番として、経営層や管理職層から心理的安全性について啓蒙するのは理にかなっています。
心理的安全性という概念の特徴を考えると、職場にいるひとりひとりのメンバー視点が取り残されているような気がしています。

心理的安全性研究

組織心理学研究の中で、心理的安全性研究が始まったのは、1965年頃からです。
当時の論文では、組織が変化する際の従業員の心理的安全性について研究がされていました。
それからしばらくは、従業員ひとりひとりが評価する心理的安全性が研究対象とされていました(組織心理学研究では個人レベルと呼ばれます)。
心理的安全性研究に転機が訪れたのが1999年のAmy Edmondson教授の論文です。
この論文では、心理的安全性は「このチームでは率直に自分の意見を伝えても、対人関係のリスクを心配する必要がなく、安全であるということがチームに共有されている状態」と定義されています。
チームの中の一部の人だけが心理的安全性を高く評価しているのではうまくいかず、チームメンバー全員に共有されていることの重要性が示唆されています。
心理的安全性が個人レベルの概念からチームレベルに引き上げられたといえます。
心理的安全性の高いチームづくり、という観点で考えると、働くひとりひとりが心理的安全性を正しく理解し、その重要性を認識して、コミットできることこそが大切なのです。

リーダーの8つの行動

この記事では、Edmondson教授が紹介している心理的安全性を生み出すとされるリーダーの8つの行動をメンバー側からの視点で読み替えてみたいと思います。
*をつけた1,2,3,6は、リーダーだけでなくメンバーも同じように行動できるとよさそうです。

1.直接話のできる親しみやすい人になる*

直接話のできる親しみやすい人になるために、他のチームメンバーに声掛けしたり、感謝の気持ちを伝えたりします。

2.現在持っている知識の限界を認める*

自分の知識が足りないことや経験にないことが起きたときには、それを率直にチームに開示します。

3.自分もよく間違うことを積極的に示す*

自分の考えや対応が間違っている可能性があること、他にも選択肢や、もっとよい方法がある可能性があることを認識して、他メンバーの意見にも耳を傾けます。
また、他のチームメンバーが間違うことがあることも同じように受け容れます。

4.参加を促す(⇔参加する)

チームの目的や自分の役割を理解したうえで、自分なりの意見を持ち、ミーティングの機会に表明したり、異なる意見が出たときには、話し合いに参加します。
他のチームメンバーの報告に好奇心をもって耳を傾けて、積極的に質問することも含まれます。

5.失敗は学習する機会であることを強調する(⇔失敗を学習する機会として活かす)

仕事を、ただ成果をあげる場、とだけ捉えるのではなく、失敗したとしても新しい気づきを得たり、次に活かすことができる学びの場だととらえ、実践します。

6.具体的な言葉を使う*

日々のコミュニケーションやミーティングのときに、自分の状況を説明・報告するときに、「言わなくても分かるだろう」とあいまいな表現をするのではなく、出来るだけ具体的に伝えます。

7.境界を設ける(⇔望ましい行動と非難される行動を明確に理解する)

チーム内のルールや、ミーティングでの議論のガイドラインを理解することに努めて、遵守します。

8.境界を超えたことについてメンバーに責任を負わせる(⇔自分の言動に責任をもつ)

チームの心理的安全性を低下させるような行動や、ルールを守らなかった場合には、責任をもって事後対応にあたります。

ひとつひとつを見てみれば、当たり前のことのようですが、リーダーだけが取り組むのではなく、チームメンバー全員で取り組むことこそ、心理的安全性の高いチームづくりが実現する近道だと思うのです。

参考文献

Amy Edmondson. Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly, Vol. 44, No. 2 (Jun., 1999), pp. 350-383, 1999.
チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ (2014). エイミー・C・エドモンドソン (著), Amy C. Edmondson (著), 野津 智子 (翻訳).

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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