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人生100年時代になって、一生のうちで働く期間にも変化が訪れています。
私が働き始めた頃の定年は60歳でした。
私の父は60歳で定年退職し、再雇用で3年働きましたが、63歳でワークライフを終えました。
その後、2013年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」が施行されて、2025年4月からの「65歳までの雇用確保」が義務づけられました。
2021年には改正高年齢者雇用安定法が施行されて、70歳までの就業機会確保が努力義務となりました。
今まさに、私たちが働いているのは、人生の中で働く期間がどんどん伸びていっている時代といえます。
個人的には、働くことが好きなので、できれば、仕事内容や形が変わってゆくとしても、生きている間は、一生働き続けられたら嬉しいと思っています。
ただ、働くというのは、苦しい場面や大変な経験もつきもの。
「長く働く」にはコツがいるのでは?と模索する中で出会ったのが、今回紹介する「Thriving at work」という概念です。

Thrivingとは

「Thriving」とは「繁栄」や「富む」といった意味をもつ言葉です。
「Thriving at work」とは、ポジティブ組織心理学研究者のSpreitzerらが、持続可能な個人と組織のパフォーマンスに関わる要因を調べる研究の中でたどり着いたキーワードです。
従業員がただ「満足」して生産的であるだけでなく、会社組織と従業員自身の未来を創り上げているような状態のことを「Thriving(繁栄)」と呼んでいます。
「Thriving」にあてはまる人は、他の同世代の人と比べて、全体的な業績(上司からの報告による)が16%向上し、燃え尽き症候群(自己申告)が125%減少していることがわかっています。
また、組織へのコミットメントが32%高く、仕事への満足度が46%高く、欠勤が大幅に減り、医者にかかる回数も大幅に少ないことも示されています。

Thriving at workの2つの要素:活力と学習

「Thriving at work」には2つの要素があります。
1つ目は、活力(Vitality)と呼ばれ、いきいきとして、情熱的で興奮している感覚があることを指します。
2つ目は、学習(Learning)で、自分がしていることを継続的に改善して、よりよくなっているという感覚のことです。
この2つの共同経験からなる心理状態のことを「Thriving」と呼びます。
どちらか一方が欠けていてもだめで、この2つは協調して働きます。
活力だけでは、成果をあげることが好きだったとしても、学ぶ機会がなければ、同じことの繰り返しになってしまうので、いつか疲弊してしまいます。
学習は一時的には勢いが出るかもしれませんが、活力がなければ、燃え尽きてしまいます。
活力と学習が組み合わさることで、好循環がうまれ、私たちが長く働き続けることができるのです。

Thriving at workの状態にいるための個人戦略

「Thriving at work」の状態にいるために、私たちができることには、どのようなことがあるのでしょう。
個人の戦略としては、次の5つが挙げられています。

1.休みをとること

意外に思われるかもしれませんが、休みをとることやリフレッシュのための活動は、活力を生み出すためにも大事なものです。

2.自分の仕事をより有意義なものにする

仕事に意義を感じられること、見出せることは、私たちからエネルギーを引き出すのに役立ちます。
この連載で紹介しているジョブ・クラフティングのアプローチも活用できます。
(参考:ジョブ・クラフティングで自分の仕事をデザインする (life-is-long.com))

3.イノベーションと学習の機会を探す

仕事の中でも変えられない部分ではなく、より良いものに変えていける部分に注目していくことが、組織と個人の未来に前向きな変化をもたらしてくれます。

4.自分を活気づける人間関係に投資する

一緒にいて、エネルギーを感じられる同僚と密接にコミュニケーションをとり、エネルギーを奪う同僚との交流機会は最小限にとどめます。

5.Thrivingは仕事以外の領域にも波及することを認識する

仕事でのThrivingは、私生活での活動を高めてくれることもあります。逆に、ボランティア活動やトレーニング、習い事など、仕事以外の領域での活動から受けた刺激と活力を仕事で活かすこともできます。

退屈することもなく、燃え尽きることもなく、長くしあわせに働き続けるために、「Thriving at work」のヒントを取り入れてみるのはいかがでしょうか。
私も早速始めてみたいと思っています。

参考文献

Spreitzer, G. M., Sutcliffe, K., Dutton, J., Sonenshein, S., & Grant, A. M. (2005). A socially embedded model of thriving at work. Organization Science, 16, 537–549.
Porath, C., Spreitzer, G.M., Gibson, C., & Garnett, F.G. (2012). Thriving at work: Toward its measurement, construct validation, and theoretical refinement. Journal of Organizational Behavior, 33(2), 250-175.
Spreitzer, G. M. (2012). Creating sustainable performance. Harvard Business Review, 90, 92-99.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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