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永遠の命題「職場の人間関係に悩んだらどうする?」解決のヒント

Buzz Feed Japanで医療記者をされている岩永直子さんがnoteで公開しているバイト日記(医療記者の方なのに、なぜか始めたイタリアンレストランでのアルバイトの日々を綴っていらっしゃる)が面白い。
特に、「叱られても、へこたれない方法は?(前編)(後編)」というタイトルの記事は、働く人のストレスを専門にしている私にとって、「職場の対人関係ストレスを解決するヒントが詰まっている!」と深く感動するものだった。

仕事をしていて、私たちが一番頭を悩ませるものはなんだろう。
仕事の量の多さや難しさ、仕事がうまくいかないなど、仕事そのものが悩みのきっかけになることもあるけれど、一緒に働く人との関係は長く続く悩みの種になりやすい。
特に、日々接する上司や同僚との関係で悩みが生じると、それは働く私たちの元気を奪っていく。
また、対人関係の悩みというのは解決が難しいのも然り。
仕事そのものに関する悩みであれば、情報収集したり、知識をつけたり、効率よく進める方法を試したり、自分でも工夫の余地があるけれど、対人関係の悩みは、相手があることなので、自分だけでどうにかするのが難しい。
その結果、長く悩み続けることになり、なかなか解決しないという状況につながっていく。
さらに、自分に指示を出したり、評価をしたり、チームをマネジメントする権限を持っている上司との関係に悩んだときには、それを好転させるのは至難の業だ(少なくとも、渦中はそう感じやすい)。

詳しくは、バイト日記を読んでほしいのだが、岩永さんは、シフトが週1回から3回に増えた頃から、シェフの厳しい注意や叱りつける声に悩まされるようになる。
新聞社での勤務経験があり、上司から怒鳴られるのには慣れていると自分でも思っていた岩永さんも、出勤する道のりで、「また今日も怒鳴られるのか…」と気持ちが重たくなっていく。
その後、岩永さんはどんな行動をとったのか。
そこに、職場の対人関係ストレスを解決していくヒントが詰まっていた。
3つの点に分けて、ヒントを紹介していきたい。

ヒント① 相手に率直に伝える

まず、岩永さんは、シェフに自分がどう感じているか考えているかを率直に伝えた。
シェフがイライラすることが増えたこと、働いていて楽しくなくなったこと、この状況が続くなら、シフトを週1回に戻したいこと。
バイト日記では、率直に伝えすぎた結果、激しい口論になって、シェフが涙を流すことになるわけだけれど、こうして、相手に伝えて、難しさを共有してはじめて、これからどうしていくかを一緒に考えられる枠組みになれるのだと思う。
もちろん、率直さの程度や言い方はもともとの関係性にもよるけれど。

ヒント② 相手の世界を知ろうとする

次に、岩永さんがとった行動が秀逸だと思う。
『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37の僕が見つけた必勝法』や『三流シェフ』など、一流シェフの書いた本を読んでいったのだ。
本に書かれた修業時代の師匠とのやりとりの描写を読むうちに、言葉で優しく丁寧に教えるのではなく、見て覚えなければいけなかったり、怒鳴りつけるやり方が一般的な「料理人の世界」を理解していく。
もちろん、だから怒鳴っていい、激しい言葉で罵っていいわけではないけれど、相手がどんな世界で生きてきたのか、育ってきたのかを理解することで、相手の「怒鳴る」行為への見え方が変わっていく。
それは、自分が置かれている状況に対する理解を深めるのにも役立つはずだ。
相手から怒鳴られることだけが強調されて見えていた、ただつらい世界から、シェフの「お客さんに美味しい料理を楽しんでほしい」という想い、「もっとできるようになるはず」という自分への期待、シェフの苦悩、そういった後景に隠れていた大切なものが浮かび上がってくる。
すると、「解決するのはとうてい無理!」と思えていたところから、こう働きかけたらいいのかも、こういう提案をしたらいいのかも、と新たな道が見えてくる。

ヒント③ 同僚にサポートしてもらう

バイト日記には、もうひとり大切な登場人物がいる。
バイト仲間のコイズミくんだ。
シェフと口論になったときに、仲裁に入ってくれたり、相談すると、「岩永さんのことを店長はすごく評価している。」とシェフが直接は言わない想いを代弁してくれたり、「一緒に店を盛り上げていきましょう!」とそこで働く目的を思い出させてくれたりする。
1対1の対人関係を二者間だけで解決しようとするのは、お互いに煮詰まってくる。
同僚に相談したり、サポートしてもらうことで、気持ちを落ち着かせることができ、第三者視点でのアドバイスから得られる気づきもある。

そして、人との関係によるストレスは、相手と対話し続けること、時間をかけることが欠かせないのだ、というのも、当たり前のように聞こえるかもしれないけれど、今回バイト日記を読んで得た気づきだった。
「上司が嫌」、「同僚と合わない」と人が嫌で会社を辞める、ということもあると思う。
もちろん、こころを壊してしまうような暴言からは一刻も早く離れることが賢明なこともあるけれど、そもそも、人と人との関係というのは、一朝一夕には成らず、お互いが自分の考えていることや感じていることを伝え合う努力、相手の考えていることや感じていることを分かろうとする努力によって少しずつ出来上がっていく時間のかかるものだということ、良いときもあれば悪いときもあるけれどそういった紆余曲折を経ながらつくられていくものだというのも、忘れてはならない事実だ。
一度嫌な思いをしたら、「この関係はもう無理」と断じていては、築ける関係性がなくなっていってしまう。
それは長い目でみると、自分の人生の中で近くにいてくれる人を減らしてしまうかもしれない。

冒頭で紹介した岩永さんのバイト日記はなんと書籍化も決定したとのこと。
記者という仕事ならではの丁寧な描写に、他にも私たちが健やかに働くためのヒントが詰まっているのではと密かに楽しみにしている。

【引用】
岩永直子. 「叱られても、へこたれない方法は?(前編)(後編)」. バイト日記 〜医療記者、イタリアンレストランでバイトする. (2023.6.20アクセス).
叱られても、へこたれない方法は?(前編)|岩永直子 (note.com)
叱られても、へこたれない方法は?(後編)|岩永直子 (note.com)

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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