新年度が始まり、さまざまな環境変化の中で、新しい環境に慣れようと一生懸命過ごしてきた、そんな1か月だったかもしれません。

5月の連休でひと休み。

セルフケアにも時間を使って、連休明けを元気に迎えたいものです。

 

セルフケアに活用されるアプローチは数多くありますが、そのひとつでもあるストレス・コーピング(ストレス要因への対処法)は大きく2つの方法に分類されます。

ひとつは、問題焦点型コーピングと呼ばれ、ストレスの原因そのものに働きかけて、それ自体を解決しようとする方法です。

職場で、何か対人関係のトラブルが起きて、それがストレスになっているときに、トラブルになった相手に働きかけたり、誰かに相談することで問題を解決しようとすることなどが当てはまります。

もうひとつは、情動焦点型コーピングと呼ばれ、ストレスの原因そのものに働きかけるのではなく、ストレスによって生じたネガティブな感情を調整しようとする方法です。

対人関係のトラブルが起きたときに、その出来事に対するとらえ方を変えたり、気分転換をしたりすることが当てはまります。

 

4月を過ごしてみて、仕事量の多さに圧倒されたり、専門的な知識や技術が足りていないことに気づいたり、チーム内のコミュニケーションに難しさを感じたり、いろんな「難しい」を経験されたかもしれません。

皆さんは、仕事をする中でこういった問題にぶつかったとき、どんな対処法をとることが多いでしょうか。

そしてそれは、先ほど紹介した2分類のうち、問題焦点型と情動焦点型のどちらに当てはまるでしょうか。

さまざまな企業での研修で問いかけてみると、「まずは問題を解決することから!」という声が多く聞かれます。

たしかに、根本的な問題がそのままになっていると、ストレス状況が長く続くことになるので、まず問題解決してから、という気持ちはわかるのですが、ストレスの原因によっては、すぐに解決することが難しく、時間がかかることもあります。

その間ずっと、気分転換や、自分が好きなこと、楽しむための活動をお預けにする、という人が多くいますが、それではストレスの負担がかかり続けてしまうことになります。

ここで、ストレス・コーピングに関する知見をひとつ、紹介したいと思います(図)。

問題解決型のアプローチ(Problem-focused coping)と、気晴らし(Distraction)を組み合わせて行っていた群が、1年後のストレス反応が一番低かった、ということを示す研究結果です。

問題解決に取り組みつつ、問題が解決しきれていなかったとしても、気分転換や自分が楽しむための活動も同時並行で行っていくことが、私たちのセルフケアにとって大事なのです。

 

図.問題解決型のアプローチと気晴らしを組み合わせることが重要(Shimazu et al., 2007)

(縦軸が1年後のストレス反応、横軸の左側が問題解決コーピング低群、右側が高群、紺色の線が気晴らし低群、ピンク色の線が気晴らし高群、★のついた問題解決コーピング高群かつ気晴らし高群が1年後のストレス反応が一番低い)

 

私たちのセルフケアを阻むもの、それは、「問題解決してからでないと楽しいことをしてはいけない」という心のハードルなのかもしれません。

楽しむことだけでなく、「休む」ことにも同じことが言えます。

4月にいろんな問題にぶつかっていて、たとえそれが未解決だったとしても、この連休は、自分の好きなことをして、よく遊び、よく休み、セルフケアに時間を使ってみてくださいね!

 

【参考文献】

Shimazu, A., & Schaufeli, W. B. (2007). Does distraction facilitate problem-focused coping with job stress? A one year longitudinal study. Journal of Behavioral Medicine, 30, 423-434.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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