ふだん、怒りや不安といったネガティブ感情の話ばかりしている私ですが、今回は、ポジティブ感情の話をしてみたいと思います。

ポジティブ感情というと、ぱっと連想するのは、喜びや嬉しさといった感情でしょうか。

多くの研究で使用されているPANAS(Positive and Negative Affect Schedule)という感情尺度によると、満足や興味、愛、わくわく、熱狂といったワードも入っています。

けれど、心理学の研究の中でも、ポジティブ感情はこれとこれとこれです、と一致した見解があるわけではなく、まだまだ発展途上の分野でもあります。

ただ、活性度の違いによって、活性度の高い喜びや興奮と、活性度の低い満足やリラックスした状態の2種類のポジティブ感情に分けられることは、おおむね合意されているとらえ方です。

 

ポジティブ感情というと、よいものだ!というイメージが浮かぶかもしれませんが、実は私たちの注意力を低下させて、情報処理が浅いものになるという面をもつことが指摘されています。

不安になっているときは、周りを注意深く観察したり、情報をいろいろ集めたりしますが、ポジティブ感情は、「今は順調、問題がない」というサインでもあるため、環境へ注意を払う必要はなく、自動的な情報処理がなされることが多いのです。


とはいえ、職場において、ポジティブ感情は私たちにさまざまな恩恵をもたらしてくれます。

例えば、個人レベルで考えてみると、ポジティブ感情は、ネガティブなストレス状況や仕事結果に対する私たちの耐性を高めてくれて、ぶつかった困難な状況に対して、「対処できそう」という感覚(自己効力感)を高めてくれることがわかっています。

また、ポジティブな感情でいると、柔軟でユニークなアイディアが湧くなど、ポジティブ感情が創造性の予測因子であることもわかっています。

働く人のポジティブなメンタルヘルスの状態を指すワーク・エンゲイジメントと関連があることも示されていて、個人のパフォーマンスや幸福にも影響を与えます。

組織レベルの恩恵に目を向けてみると、まずは、チームワークや協働によい影響をもたらすことがわかっています。

チームで仕事をする環境下では、ポジティブ感情はメンバーの間で伝染して、チーム内の協調性を高めて対立を減らしてくれます。

その他にも、ポジティブな感情状態でいることで、対人コミュニケーションや自己開示が促され、対人関係の質を高めたり、顧客との間であいさつや笑顔、アイコンタクトなどのポジティブ行動が増えることで顧客満足感を高める効果があることもわかっています。

結果的に、仕事のパフォーマンスやキャリアの成功にも因果関係が見出されつつあります。

 

ここで振り返ってみたいのですが、私たちは職場でどれくらいポジティブな感情状態でいるでしょうか。

仕事というのは、プレッシャーの高い場面も含まれるものなので、常ににこにこ笑顔でいられる、というわけではありません。

放っておいたら、不機嫌になったり、ネガティブな感情に引っ張られやすい環境かもしれません。

けれど、大きな成果でなくとも、自分の仕事の進捗に嬉しさを感じる、同僚の仕事がうまくいっていることを一緒に喜ぶ、誰かがサポートしてくれたときに感謝の気持ちを示す、誰かが苦戦しているときには励ましの言葉をかける、初めて同僚と顔を合わせたとき笑顔であいさつする、1日の仕事を終えるときに自分をねぎらって満足感を味わう……こうした小さな積み重ねで、ポジティブ感情の種を蒔くこともできます。

皆さんもこの春、職場でポジティブ感情の種蒔きをしてみませんか。

 

【参考文献】

Ed Diener, Stuti Thapa, and Louis Tay. (2020). Positive Emotions at Work. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior,: 451-477.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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