皆さんは、職場の同僚や家族、友人など、自分の近くにいる人のことを受け容れていますか。

それとも、相手を変えようとしていますか。

これは、永遠の命題のような気がしています。

近くにいる大切な人たちだから、そのまま受け容れたい。

でも同時に、よくなってほしいから、よりよい関係になりたいから、変わってもらいたい。

その間で悩みや葛藤が生じてしまうのです。

 

職場の人間関係の中では、相手に対する「変わってほしい」が先に立つことが多くあります。

上司から部下への期待もそのひとつです。

 

「このやり方を取り入れたら、もっと良くなる」

「進め方を変えたらうまくいく」

「新しい方法を経験することで、成長できる」

 

上司の頭の中に「こうすれば、もっとよくなる」ということがたくさん浮かべば浮かぶほど、ついそれを伝えたくなります。

特に、期待している部下に対しては、「もっと成長できるはず」と可能性を感じているからこそ、変えようとする力が強くなりがちです。

ただ、部下の側は、上司からの「変わってほしい」が前面に出れば出るほど、「今の自分が受け容れてもらえていない」ように感じて、エネルギーを失っていくことがあります。

上司としては、今の部下のことはもちろん受け容れているつもりで、むしろ可能性を感じて期待しているからこその助言なのですが、ボタンの掛け違いが起こるのです。

上司の側からすると、部下がやる気を失ってしまったように見えたり、心を閉ざしてしまったように見えたり、不思議に思う現象のひとつかもしれません。

それが叶う場面であれば、先に相手を受け容れるプロセスがあって、その次に変えようとする成長支援の段階に進めるとよいのでしょうが、成果を出すことが求められる職場だと、そもそもその時間的余裕がないことも多く、ボタンが掛け違ったまま、お互いが苦しい時間を過ごすということもあります。

上司の立場を考えてみると、上司自身も上から成果を求められたり、プレッシャーの高い状況に置かれているため、十分に受け容れる余裕がないことも多いのです。

 

そのときにこそ、第三者的な立場で関われる専門職の出番かもしれません。

誰かに、無条件に受け容れてもらうこと、十分に受け容れられたと感じられること、そのプロセスを経ることで、周囲の状況に目を配れるようになったり、会社やチームの目的など、高い視座から現状をとらえられるようになったり、成長に向けて自分が「変わる」ために必要なエネルギーが湧いてきます。

職場で、専門職がいる相談窓口など、社内外にリソースがあるならば、活用するのも一案です。

 

もし、誰かとの関係の中で、拘泥状態になっているように感じられたら、自分は相手を変えようとばかりしていないか、相手が受け容れてもらえていないと感じているのではないか、そんな視点から関係を振り返ってみるのもおすすめです。

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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