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「ありのままのあなたでいて」と無条件に受け容れてくれる存在の偉大さ

街中でAmazon Prime配信のドラマ「Modern Love Tokyo」のプロモーションを見かけて、元になったアメリカ版の「Modern Love」を観てみています。

ニューヨーク・タイムズのコラムにもとづいた、エピソードごとに主人公が変わる1話完結のドラマシリーズです。

今回話題にしたいのは、シーズン1のエピソード3(内容にも触れますので、ネタバレは勘弁という方は、先にドラマをご覧くださいね)。

主人公はアン・ハサウェイ(個人的に私が大好きな映画「プラダを着た悪魔」の主人公役でもあります)。

前情報なしで、何の気なしに見ていたのですが、開始3分ほどで「これって……」と、次第に仕事目線になっていく自分がいました。

なぜかというと、アン・ハサウェイ演じる主人公が躁うつ病(双極性障害)なのです。

躁のときは、「完璧な朝!」というセリフにもあるように、世の中のすべてが輝いて見えて、スパンコールの服を着て、今にも踊り出しそうなテンションです(実際に演出で踊っています)。

それが、うつに転じると、ベッドの中から一歩も動けなくなります。

15歳のときから、この病気と付き合っている主人公は、出席が半分でも成績が優秀であれば問題ないことを学生時代に学び、弁護士としての仕事を始めてからも、周囲に病気のことは話さず、とにかく優秀な成績を残すことで、うつの時の欠勤をカバーしてきました。

ですが、躁のときに始まった恋は、相手に病気のことを話さないまま、うつになると終わりを迎えてしまいます。

 

そんな主人公に転機が訪れます。

またひとつの恋が終わり、欠勤の多さを理由に解雇になったのですが、ひとりの同僚に呼び止められ、一緒にコーヒーを飲むことになります。

そこで初めて、「実は躁うつ病なの」と打ち明けるのです。

打ち明けた直後に、同僚には来客を知らせる電話が鳴るのですが、アポイントのキャンセルと謝罪を伝えて電話を切って、主人公に向き直ります。

「話してくれて、ありがとう」と。

初めて、信頼できる友人ができた瞬間でした。

エピソードのタイトルは「ありのままの私を受け容れて」。

これをきっかけに、過去の恋人、友人たちにも病気のことを打ち明けていきます。

躁うつの波も、以前は性格が入れ替わったほど極端だったのが、和らいでいくのです(治療法や薬が変わったわけではないのに)。

 

私がカウンセリングや心理臨床の現場で働いてきて、実感していることがあります。

それは、誰かからそのままの自分を受け容れてもらう、という体験の偉大さです。

人は「ありのままのあなたでいい」、「変わらなくていい、そのままのあなたでいて」と、誰かに心から受け容れられた、と十分に感じることができて初めて、「変わりたい」、「変わってみようかな」と変容へのエネルギーが湧いてくる生き物なのではないかということです。

(ちょっと逆説的に感じられるかもしれませんが。)

私たちはなぜか、自分のことも人のことも変えようと躍起になることがあります。

自分に対しても、「もっとこれができるようにならないと」、「ここを直さないと」と鞭打ったり、周りの人に対しても、「こうなってくれたらいいのに」、「なんでこうしてくれないの」と変化を求めます。

けれど、変えようとするばかりでは、自分のエネルギーも相手のエネルギーも奪ってしまうだけになりかねません。

まずは、自分にも相手にも「そのままでいい」、「ありのままのあなたが好き」と受け容れること。

そのあとにこそ、自然と、こうなりたい、こんな風に変わってみたいという変化へのエネルギーが湧いてくるのではないでしょうか。

関谷

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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