「自分ごと」でとらえるきっかけとしての「選ぶ」

-自律が叫ばれる今、「主体性が育たない」ことを嘆く人へ-

 

高校時代、文化祭の弁論大会に「自己選択の時代」というタイトルで出たことがあります。

現代文の授業で何気なく出した作文を先生が面白いと思ってくれたようで、出るきっかけをもらいました。

そのときに、「選ぶ」ことに向き合ったおかげで、それ以降、私の中では「選ぶ」ことが大事なことになりました。

大学・大学院へと進学するときにも、自分の選択肢が増えるような学び・キャリア形成を選択してきたように思います。

皆さんにとって「選ぶ」ことは、どんな意味を持っていますか?

最近、「選んだ」のは、どんな場面でしたか?

 

最近、日本の人事部主催のHRカンファレンスで、ウェルビーイング経営を推進する先進企業である丸井グループのCWO(Chief Well-being Officer)の方とご一緒する機会がありました。

健康経営やウェルビーイング経営と一口に言っても、その進め方は様々です。

丸井グループの推進方法の大きな特徴は「手挙げ式」というものです。

丸井グループでは、毎年、全社横断の健康経営プロジェクトが行われているのですが、全社員を対象とした「手挙げ方式(公募制)」が採用されています。

「なぜ健康経営プロジェクトに参加したいのか」をテーマに作文を書いてもらい、熱意や内容から50名が選抜されます。

今では、中期経営会議への参加も手挙げで、以前は幹部社員のみが出席していたところから、新入社員も参加する場への変化を遂げています。

 

手を挙げるか否か

手を挙げたいかどうか

 

選ぶ過程の中で、そのテーマについて自分ごとで考える機会が得られます。

自分はそれをやりたいのかやりたくないのか。

自分にとって大切なことなのかそうでないのか。

 

企業の人事の方からよくいただくご相談に、「社員の主体性が育たない」「自律した社員を育てたい」といったものがあります。

テレワークをはじめとする働き方の変化と連動して「自律分散」がキーワードになってきていますが、社員の主体性を引き出すことに悩みを抱えている組織が多いのです。

主体性というのは、周りが引き出すことができるのでしょうか。


小学生を対象にした研究ではありますが、主体性を測定する尺度作成を試みた研究があります。

そこには、3つの要素が含まれていました。

1つ目は、「積極的な自発的行動」で、「あなたは、やることを人に言われなくても時間や場所などを考えて自分から進んでしますか」、「あなたは、新しいことをどんどんやってみる気持ちがありますか」など、自発性を中心とした行動・態度を尋ねています。

2つ目は、「自己決定力」で、「あなたは、自分が出したよい意見でも、みんなに反対されると、理由をよく調べないで、すぐ取り消してしまいますか」、「あなたは、やろうと思うことも、人からだめだとけなされると、すぐ自信がなくなってしまいますか」といった逆転項目(主体性があるとは逆の状態を測る項目)で、他者に左右されることで自分の判断が揺らぐことがあるかを尋ねています。

3つ目は、自己表現で、「あなたは、自分の考えを言うことができますか」、「あなたは、自分の言葉で自分の考えを言えますか」といった自分の考えを非言語・言語で表現できるかどうかを尋ねています。

大人に置き換えても、十分意味が通じる項目に思えます。

2つ目の「自己決定力」は、自分で決められるか、選べるかどうかを問うていて、「主体性」と「決める・選ぶ」ことは関係が深そうです。

 

「社員の主体性がない」と嘆く組織では、どれくらい社員が「自分で決める」、「自分で選ぶ」機会があるのでしょうか。

もしかしたら、「選ぶ」「決める」という視点から組織のあり方を見直してみることで、社員の主体性にもアプローチできるかもしれません。

 

【参考文献】

・臨床心理学における「主体性」概念の捉え方に関する一考察(2001). 浅海健一郎. 九州大学心理学研究. 2. 53-58.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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