誰もがリーダーシップを発揮する時代へ!

-人を巻き込み、ビジョンを実現する「誰でもリーダーシップ」-

 

さまざまな企業の健康管理施策の企画や設計に関わってきましたが、その中で、必ず必要になるステップが「人を巻き込み、動かしていく」ことです。

健康管理施策は、全社員に展開されることも多いため、経営層の理解や、現場担当者の納得・協力がなくては、実現することができません。

多くの場合、企業の中にいる産業保健スタッフ(人事担当者、産業医、保健師・看護師、精神保健福祉士、臨床心理士・公認心理師など)の方たちと連携して施策を進めていくのですが、産業保健スタッフは、管理職ではないことも多く、権限が限られる中で、推進力をもって動かねばなりません。

一社員でありながら、全社の喫煙室をなくす禁煙施策を進めなければならない、といった場面をイメージしていただくと、わかりやすいでしょうか。

多くの人の理解と協力を得なければ、到底推し進めることはできません。

そこで、私が所属する研究会では、産業保健スタッフに必要な力として「誰でもリーダーシップ」という考え方に注目しました。

これまで、リーダーシップは、組織や集団の「リーダー」が発揮するもの、と位置づけられてきましたが、最近のリーダーシップ研究では、管理職や〇〇長といった組織や集団を率いる立場にはないリーダー以外のメンバーでもリーダーシップを発揮できるという考え方が出てきました。

リーダーシップとは、「ビジョンを持って、それを実現すること」を指します(Alon&Higgins, 2005)。

「うちの会社の社員の健康を良くするぞ!」というビジョンを持って、禁煙施策を実現する。

管理職ではないし、権限も限られている産業保健スタッフが事を成し遂げるには、「誰でもリーダーシップ」が不可欠なのです。

この4年ほど、産業保健スタッフの「誰でもリーダーシップ」について、研究会で調査や研究を重ねてきました。

今回は、その中でまとめられたリーダーシップを発揮する6つの手順を紹介したいと思います(図)。

ビジョンをつくるための3つの手順と、ビジョンを実現するための3つの手順に分けられます。

図.「誰でもリーダーシップ」を発揮する6つの手順

 

最初のステップは「自分のビジョンを育てる」。

ビジョンとは、自分が実現したい理想のことで、こうなるとよいな、というイメージがあるかと思います。

けれど、ぼんやりしたままでは、人を動かせるビジョンにはなりません。

ビジョンを実現すると、どんな変化が起こるのか、具体化して、人にわかりやすく伝えられるようにしていきます。

2つ目のステップは、「チームや組織のビジョンを理解する」。

所属しているチームや組織は自分とは別のビジョンを持っていることもあります。

自分のビジョンを実現するには、チームや組織のビジョンとの共通点やつながりを見つけていく必要があります。

そのために、まずは、チームや組織のビジョンを正しく理解することが欠かせません。

3つ目の手順は、「組織のビジョンにチャレンジする」。

時に、組織が求める範囲を超えて、自分のビジョンを実現しようとする瞬間が訪れます。

「そんなことまで期待していないよ」という反応が返ってくることもあるかもしれませんが、機をうかがって、チャレンジし続けることで、自分も組織も成長していきます。

4つ目の手順は、「信頼できる仲間をつくる」。

1人でビジョンを掲げ続けることは、孤独との戦いにもなりますし、ともすると独りよがりな方向へ進んでしまうかもしれません。

お互いの成長を支援し合える信頼できる仲間がいつことで、ビジョンを実現しようとする過程でぶつかる困難にも立ち向かうことができます。

5つ目の手順は、「関係者を巻き込む」。

権限や決定権を持っている人をはじめ、関係者を巻き込んでいく必要があります。

関係者が自分のビジョンに抵抗を示すときには、組織や関係者の視点から、抵抗の理由を考えてみることが突破口になります。

6つ目の手順は、「タイミングを見て行動する」。

この数年で私自身に起こった例で言えば、それまでは誰も話を聞いてくれなかったけれど、「健康経営」という言葉が定着してきてからは産業精神保健活動の風向きが変わった、といったことがあります。

こういった「風が吹く」タイミングを逃さないことです。

その時を見据えて、タイミングが来たらすぐに動けるように、準備しておくことが肝要です。

 

枕に「産業保健スタッフの」とつきますが、今の時代、何かを成し遂げたい、実現させたいことがあるすべての人にとって、参考になる考え方ではないかと思っています。

ビジョンを持つ多くの人に届きますように!

 

【参考文献】

Allon. I, Higgins. J, 2005, Global leadership success through emotional and cultural intelligences, Business Horizons, Elsevier, vol48(6), 501-512.

・川上憲人, 小林由佳, 難波克行, 関屋裕希, 原雄二郎, 今村幸太郎, 荒川裕貴 編. 東京大学職場のメンタルヘルス研究会 著. 2022. 産業保健スタッフのための「誰でもリーダーシップ」, 誠信書房.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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