「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」

 

言わずもがな、バスケットボールを題材にした漫画「スラムダンク」の安西先生のセリフです。

中学時代、バドミントン部に所属していた私ですが、部室にはスラムダンクが全巻そろっていて、夢中になって読んだ覚えがあります。

数あるマンガの名セリフの中でも、かなり知名度が高いセリフではないかと思います。

(日本の人口の何%が知っているのか調べてみたいくらいです。)

スポーツの試合のように、時間が区切られているものは、安西先生の言うとおり、「あきらめたらそこで試合終了」、最後まであきらめないからこそ、開ける道があるのでしょう。

一方で、人生の中で目指していく大きな目標はというと、どうでしょう。

あきらめずに目指し続けることが本当に幸福につながるのでしょうか?

心理学のこれまでの研究では、達成できない目標を「断念できない」場合には、そのことが繰り返し頭に浮かんだり、考えたくなくとも、その目標について考え続けてしまい、抑うつ状態に陥る可能性が指摘されています。

自分の経験と照らし合わせてみても、あのまま断念せずに目指し続けなければいけなかったら、メンタルヘルス不調になっていたかも……と思い当たる節があります。

目標というと、「あきらめる」、「あきらめない」の2択しかないように思えて、しかも、「あきらめるのはよくない」、「あきらめずに目指し続けるべき」といった価値観も根強く残っています。

ただ、先ほど紹介したように、目標を断念できない場合に不適応状態に陥る可能性も指摘されていて、柔軟な目標とのつきあい方が整理されてきています。

目標を達成することが難しい場合の対処方法を5種類紹介します。

 

①目標を継続する(あきらめない)

達成することができないとしても、エネルギーを費やし続ける

②目標を断念する(あきらめる)

その目標達成のための行動をやめて、考えないようにする

③目標の内容を調整する

もともと目指していた目標とは別の目標を探して、その達成のために行動を起こし始める

④目標の水準を調整する

最初に設定した目標よりも少しレベルを下げたり、簡単なものにする

⑤目標達成の方法を調整する

目標を達成するために別のやり方を考えたり、試すなど、計画を変更して取り組む

 

①と②は「あきらめる」、「あきらめない」ですが、それ以外にも選択肢があります。

他の3つの選択肢の中では、③目標の内容を調整することがwell-beingを高めることにつながることが示されています。

この選択肢、もともとの目標とは別の目標のために行動を起こす、という内容なので、「もともとの目標を断念する」ことも含まれている選択肢なのですが、かたや抑うつ状態への道、かたやwell-beingへの道と大きく異なります。

目標を達成することがどうしても難しい状況の中では、新しい目標を見つけて、それに向けて行動し始めることが、幸せへとつながっていく可能性が高いのです。

 

【参考文献】

Wrosch, C., Scheier, M. F., Carver, C. S., & Schulz, R. (2003). The importance of goal disengagement in adaptive self-regulation: When giving up is beneficial. Self and Identity, 2, 1­20.

外山美樹. (2022). 人は困難な目標にどう対処すべきか?困難な目標への対処方略尺度を作成して-. 心理学研究, 92(6), 543-553.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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