徐々に言葉を覚え始めた1歳8か月になる娘の最近の口癖はこうです。
「てつだって」
ソファに上るのも、ごはんを食べるのも、服を着るのも、高いところにある物をとってほしいときも。
1日に何度も繰り返します。
その裏に、彼女の「主体は自分」という感覚があるのだと気づいて感動を覚えました。
「やるのは自分、だから『てつだって』」と。
同じころから「じぶん(でやる)」という言葉もよく出るようになりました。
そこで思い出したのが心理学者Banduraの「行為主体性」という概念です。
Agencyという言葉の訳語である「行為主体性」には3つの要素があります。
1つ目は、「予見性」(foreseeing)です。
将来のことを考えて、自分の目標を選び、計画を立て、現在の自分の行動を選択することを指します。
将来から逆算して行動を決めることで、私たちの行動に一貫性がもたらされます。
2つ目は、「自己反応性」(self-reaction)です。
その時々の状況に対処して、自分を動機づけたり、律したりして自分の行動を管理・調整することを指します。
3つ目は、「自己省察性」(self-reflection)です。
自分の思考や行動を客観的に振り返ったり、自分の価値観を自己検証することを指します。
こうした振り返りをすることで、私たちは、競合する価値観のもとでも行動を選択することができるのです。
この行為主体性(Agency)の背景には、「人、環境、行動は相互に影響を及ぼし合う」というコンセプトがあります。
以前は、行動は人と環境の相互作用で決まる(環境によって行動が規定され、人が行動を決める)と考えられていましたが、Banduraは、行動もまた、人や環境に影響を与えると捉えたのです。
私たちは自分がどう行動するかには注目しますが、その行動が周囲の環境や自分自身に影響を与えている、という点は意外と見落としがちです。
私たちの行動は、単なるその時点での行動として完結しているのではなく、とった行動が自分を形づくり、自分が所属する集団や文化にも影響を及ぼしているのです。
娘の行動ひとつひとつが彼女という人を形づくり、保育園や私たち、そして社会にも影響を与えているのだなと思うと、尊さを感じます。
また、それは自分にも当てはまることであり、自分がぽつんとただ1人で存在しているのではなく、世界と接していることを実感できます。
【参考文献】