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タイトルを読んで、自分で自分をカウンセリングする?しかもメタバース空間で?と、かなり突飛なテーマに思われた方もおられるかもしれません。

けれど、臨床心理学の研究の中で、実際に研究が進んでいる領域なのです。

 

Osimo et al.(2015)では、メタバース空間の中で、自分の身体と、カウンセラーの身体を入れ替わりながら、自分の悩みについて話し合うという実験が行われました。

カウンセラーには、精神分析で有名なフロイトの見た目を模したアバターが使われました。

相談者は自分そっくりに作られたアバターです。

参加者は、広視野の頭部追尾型ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とモーションキャプチャースーツを装着します。

セルフカウンセリングの手順はこうです。

まずは自分のアバターで、悩んでいることを説明します。

次に、フロイトのアバターの視点で、自分のアバターが悩みを説明するのを見聞きします。

そのあと、カウンセラーとして悩みに対応します。

元の自分のアバターに戻ると、フロイトの姿のカウンセラーが質問したり、アドバイスする姿を見聞きします(自分がカウンセラーとして対応したときの身振りや手振りなども目にすることができます)。

こうして、カウンセリングの終了時間まで何度もアバターを入れ替わりながら、問題を解決していくのです。

実験では、メタバース空間でのセルフカウンセリングにより、気分状態の改善や、悩みの解決、考え方の変容といった効果がみられていました。

悩む自分の姿を外から客観的に見る体験や、他者の視点から自分に話しかける他者視点の取得が、悩みを解決するうえで大事な役割を果たすと考えられています。


この方法は、メンタルヘルスサービスへの心理的ハードルの課題を解決する可能性も持っています。

私たちは、悩んだときに、他の人にすぐ相談したり、カウンセリングの門戸をたたけるかというと、そうではありません。

援助要請に関する研究では、周りの人に相談するときには、相談した内容が他の人に漏れないだろうか、相談をすると相手の迷惑になるのではないか、人間関係に影響が出るのではないかといった心配がハードルになります。

相談窓口等の利用における障壁としては、「弱い人が受けるもの」といったスティグマや、経済的な負担、限られた日時でしか窓口が空いていないといった時間的な制約が挙げられます。

それに対して、メタバース空間でのセルフカウンセリングは、他者への援助要請に抵抗を感じる人にも利用しやすいセルフケアの方法です。

研究が進んで実用化されたときには、悩みの内容に合わせて、フロイトだけでなく、ドラえもん、豊臣秀吉、マザー・テレサ、寅さん、スティーブ・ジョブスなど、相談したい相手を選んで、好きなタイミングで、メタバース空間の中でセルフカウンセリングできるようになるかもしれません。

 

【参考文献】

Osimo, S. A., Pizarro, R., Spanlang, B. & Slater, M. (2015). Conversations between self and self as Sigmund Freud – A virtual body ownership paradigm for self counselling. Scientific Reports 5, 13899.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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