チームや組織の中で、メンバーひとりひとりが率直に発言できることの重要性がますます高まっていると感じます。

これまでとってきたやり方や、ひとつの決まった方法が通用しなくなり、さらに、今後の変化を見通すことが難しい時代に入っているからです。

課題そのものが明瞭でないため、リーダーや上司がすべてを知っていて、常に答えを持っているわけではなく、新入社員や転職者、異動者など、経験や知識がまだなかったとしても、それぞれの立場から意見やアイディアを出し合うことが重要になっています。

その先に、個人では思いつかないような新しいアイディアや解決策が生まれ、チームとしての力を発揮することができるのです。

心理的安全性の高いチームや組織づくりについて、さまざまな形での相談をいただきますが、「まず最初にやるべき」、「これだけは必ず実施してください」ということは何ですか?と聞かれることがあります。

心理的安全性の高いチームや組織づくりは、言ってみれば、組織の文化を作っていくことなので、一朝一夕に成し遂げられるものではなく、特効薬のようなものもないし、経営層やリーダー層の意思表明と覚悟、そして継続的な取り組みが必要、と前置きをしたうえで、まずは「受信」に注目した取り組みを提案しています。

 

心理的安全性は、「このチームでは率直に自分の意見を伝えても、対人関係のリスクを心配する必要がなく、安全であるということがチームに共有されている状態」と定義されているので、「チームの中で率直に発言できるか」という「発信」の課題だととらえられがちです。

けれど、「安心して発言できるか」には、自分が率直に発言をしても、対人関係リスクの脅威にさらされるような受け止め方をされないと思えるかにかかっています。

心理的安全性は、リーダーや上司にとっては、「発信」ではなく、「受信」の課題なのです。

まずは、自分が部下やチームメンバーの発言を、普段どのように受け止めているかを振り返ってみるとよいでしょう。

何か大きな問題が起きたときや、緊急事態の場面ではなく、日常のひとつひとつの場面を振り返ってみましょう。


朝、メンバーと最初に顔を合わせて、声をかけられたとき。

メンバーからの報告への返信。

会議や打ち合わせでメンバーの話を聞いたあとの問いかけ。

 

チームの状態には、ひとつの大きな特別な出来事よりも、日々のやりとりや反応の積み重ねのほうが与える影響が大きいことがわかっています。

リーダーや上司のひとつひとつの反応や対応がチームの文化をつくっていくのです。

 

会議や打ち合わせで、わからないことや知らないことが出てきたら、まずは上司やリーダーである自分が率直に質問してみる。

部下から、ミスや仕事がうまくいっていないという報告があがってきたときには、注意や指導をするだけでなく、過去にリーダーや上司自身が経験した失敗やミスのエピソードを話して、「今回のミスを次に活かせば、チーム全員の経験になる」と伝えたり、「失敗はチャレンジの証」と伝える。

会議で発言量の少ない部下には、「〇〇さんはどう思いますか?」と問いかけて、部下やチームメンバーの意見に関心を寄せていることを示す。

 

何気ない日常的なやりとりかもしれませんが、上記に挙げたような行動をひとつずつ取り入れていくことで、チームの状態が変化していくのです。

小さい一歩に見えるかもしれませんが、大きな変化をもたらす可能性があります。

自分の「受信」に注目して、最初の一歩を踏み出してみませんか。

 

【参考文献】

Fisher CD. 2002. Antecedents and consequences of real-time affective reactions at work. Motiv. Emot. 26:3–30.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

この記事をシェア

編集部おすすめ記事

人気記事ランキング