まずは、ひとりからでも心理的安全性の高いチームづくりに取り組みたい人へ

日本でも心理的安全性が注目されるようになって、3年ほど経ったところでしょうか。
私が初めて、この概念に出会ったのは2016年。
組織心理学や組織行動を研究しているメンバーで開催している読書会の中でした。
その後、心理的安全性をテーマにした講演の依頼がどんどん増えていく中で、注目度の高まりを、身をもって実感しています。
その中で、こんな質問や依頼をいただくことがあります。

「心理的安全性を高めるために、まずは個人で何かできることはないでしょうか?」

自分が所属する組織やチームでの関心はまだ低いけれど、自分ひとりからでも取り組めることはないのか、という質問の場合もありますが、組織やリーダー層に働きかけるより前に社員ひとりひとりが出来ることから始めたい、という意味合いで企業からご依頼いただくこともあります。

ここで押さえておきたいのが、現在注目されている心理的安全性は、エドモンドソンが1999年の論文で示したチームレベルの心理的安全性だということです。
チームの一部の人だけが感じているのではなく、「チームメンバー全員で共有されている」というところが重要です。
(ちなみに、1960年代に行われた心理的安全性についての研究は、キャリアアンカーの理論で有名なシャインらが発表したものなどがあり、安心して組織の変化に応じて従業員が行動を変えるためには心理的安全性が重要と主張されていました。この時点での心理的安全性はチームレベルではなく、個人レベルのものでした。)

また、組織やチームの目的があるからこそ、心理的安全性が必要なのであって、心理的安全性を高めるうえでは、チームの目的を明確にして共有したり、チーム全体で関係構築に取り組んだり、コミュニケーションの場がもつことが必要です。
その手前には、組織レベルであれば経営層に、チームレベルであれば、管理職やリーダーに、「心理的安全性の高い組織・チームづくりに取り組んでいきます!」と意思表明するステップがあることが大事だと思っています。
ですので、企業からのご依頼のときには、まずは経営層や管理職層の理解を深めるところから、と伝えていますが、さまざまな立場の人が参加する講演などで「自分ひとりからでも取り組みたい!」という方に、組織やチーム、管理職やリーダーの理解がないと無理です、とだけ言うのも忍びないと感じます。

上記のような前提のうえで、2014年のTED talksでエドモンドソンが語った個人にできる簡単な取り組み3つをもとに、まずはひとりからでも始められることを紹介してみたいと思います。

1.仕事を実行の機会だけでなく学習の機会と捉える

これは、仕事に対するとらえ方(認知)に関するヒントだと言えます。
心理的安全性の高いチームでは、仕事を「実行フレーム」ではなく、「学習フレーム」で捉えているとされています。
実行フレームでは、仕事はこなすもの・成果をあげるためのもので、組織や上司が答えを持っているので、言われたことをやればいい、というふうに仕事をとらえます。

一方、学習フレームでは、仕事は学びや成長のチャンスで、組織や上司が方針を決めたとしても、いつも正解を知っているわけではなく、上司も含めたチームメンバーで目的に向かって進んでいく中で自分も提案や意見を言っていく、ととらえます。
前者のとらえ方だと、仕事でうまくいかないことがあったとき、「失敗だ」ととらえて、がっかりしたり、やる気を失ってしまいますし、チームや上司にも報告や相談をしづらくなりますが、「学びや成長のチャンス!」ととらえられると、うまくいかないことも、次に活かそうと前向きにとらえられます。

失敗したらどうしようと考えると踏み出せなくなってしまいますが、どう転んだとしても失敗ではなく学びにつながるとなれば、前に進む勇気が湧いてきます。

2.自分もチームの他のメンバーも間違えることがあるということを受け容れる

これは、文字として見ると当たり前のようで、なかなか難しいことだなと思います。
いざ、自分がミスしたり失敗したとき、間違えたことを発言したり、行動したときに、素直に受け入れるというのは難しいものです。
ですが、チームの中で助け合いながら目的に向かって進んでいくうえでは大事な点です。
実践しやすい行動としては、まずは困ったときや仕事がうまく進んでいないときに、「困っている」「助けてほしい」とチームのメンバーに伝えるというものがありそうです。

自分のほうから、弱い部分を開示することで、相手や他のメンバーも「助けて」と言いやすくなります。
実際に助けてもらったら、感謝の気持ちを伝えることや、チームメンバーに「困ったらいつでも声をかけて」と伝えておくことも役に立ちます。

3.好奇心を形にして積極的に質問する

チームのミーティングの場で活用できるヒントです。
心理的安全性のある職場というと、「発言のしやすさ」に注目が集まりやすいで、相手の話を引き出す・聴くための「質問」というと、少し見落とされやすいポイントかもしれません。
ただ、日々のミーティングや打ち合わせの場を思い出してもらえば、聴く側の様子や態度によって、発言しやすさが大きく左右されることを実感できると思います。
自分の発言に好奇心や関心をもって耳を傾けてくれて、意見を尊重してくれると感じられれば、おのずと発言のしやすさも上がっていきます。

まずは、自分の聴くときの態度や行動を変化させることから始めます。
活用してもらいたいのは、「焦点化したオープン・クエスチョン」です。
YES/NOでしか答えられないクローズド・クエスチョンでもなく、「どうですか?」といったオープンすぎるクエスチョンでもなく、ミーティングの議題や、メンバーが話すプロジェクトについて、どこかに焦点をあてたうえで、オープンに質問するのです。
例えば、次のような感じです。

 

「クライアントと協働的に進めるために、どのような工夫をしていますか?」
「紹介してくれたアイディアを実現させるために、どのような経験が役に立ちそうでしょうか?」
「今の時点で予測している問題やリスクに対して、あらかじめとることのできる対策はどのようなものでしょうか?」

焦点化することで、好奇心やどこに関心を寄せているかが伝わります。
クローズド・クエスチョンでは、チーム内で共有される情報に広がりが出ませんし、オープンすぎるクエスチョンは抽象度が高いため、答えづらくなってしまいます。
また、チーム内で、問題が報告されたときも、同じように好奇心をもって質問します。
そのときには、「なぜ出来なかったのか」と問題を責めたり、変えられない過去を嘆くのではなく、未来志向の質問を活用しましょう。

「そのことから得られた今後に活かせる学びは何でしょう?」
「どこをどのように工夫すればできるようになるのでしょうか?」

 

今回は、心理的安全性を自分ひとりからでも高めたいと思っている人に向けて、最初の一歩として取り組めそうなことを紹介してきましたが、前半でもお伝えしたように、心理的安全性は組織・チームレベルで取り組んでいくことが重要です。
この記事が、自分のチームや組織を変えたいと思った皆さんが、組織やリーダーに働きかける材料にもなれば幸いです。

【参考文献】
Amy Edmondson. Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly, Vol. 44, No. 2 (Jun., 1999), pp. 350-383, 1999.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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