「たばこを吸う人はさ、吸うためじゃなくて、吐くために吸ってるんだよ」
学生時代にサークルの先輩が何気なく口にした、印象に残っている言葉です。
自分にたばこを吸う習慣はなかったけれど、妙に納得してしまったのです。
(余談になりますが、当時所属していたのは、ステージマジックのサークルで、たばこの煙から物を出現させるアクションのために、たばこはなじみのあるアイテム。吸わないサークル員も、ステージでの演技のために「ふかして」使っていました。)
ここではたばこの健康への影響はいったん置いておいて、この「吸う」、「吐く」に注目したいと思います。
私が妙に納得したのは、自分が目にしたことのあるたばこを吸う人やシーンを思い起こしてみると、吸うことやニコチンよりも、煙を「ふぅっ」と吐くことのほうが、その人を癒しているような気がしたからです。
実際に私が、ストレス対処スキルのひとつとして、リラクゼーション技法を学んだり、人に伝えるようになってみると、その直感はあながち間違いではなかったのだと思います。
たとえば、代表的なリラクゼーション技法に「呼吸法」がありますが、息を吸うときよりも、吐くときのやり方に注目します。
自律神経には、身体を緊張モードにする「交感神経」と休息モードにする「副交感神経」がありますが、息を吸うときには交感神経が、息を吐くときには副交感神経が働いています。
よく、呼吸法を実践するときに、「吸う」手順から始めてしまう人がいますが、それでは肩に力が入ってしまいます。
おすすめなのは、まずは、今自分の身体の中に残っている空気を「ふーっ」と細く長く吐き切ることから始めることです。
しっかり吐き切ることで、次の息を深く吸うことができますし、徐々にゆったりとした深い呼吸へと導くことができます。
深い呼吸のためには姿勢も大事です。
肩が内側に入った猫背の姿勢では、横隔膜をうまく動かせずに、浅い呼吸になってしまいます。
椅子に腰かけて呼吸法を実践してもらうときには、足の裏がかかとからつま先までしっかり床についている姿勢をとってもらい、背もたれには寄りかからず、何度か伸びをしてもらってから始めることにしています。
無理のない範囲で背筋が伸びて、空気が入りやすくなります。
こうして呼吸を「吸う」と「吐く」に分けてみると、冒頭の先輩の言葉はやっぱり真をついていたんだなと思います。
煙を「ふぅっ」と吐くたびに、身体から力が抜けて、リラックスした状態を得られる。
それも、たばこを吸うことの隠れた効能だったのかもしれません。
とはいえ、「吐く」ことでもたらされるリラックス効果は、たばこを使わずとも得られます。
呼吸は、私たちが絶え間なくしている身体活動のひとつで、自分でペースを調整できるものです。
タイミングや場所を選ぶことなく試すこともできます。
「ふぅっ」とひと吐き、いかがでしょうか。