1歳になったばかりの娘がおもちゃで遊んでいるのを見ていて、ある心理学用語を思い出しました。

それは、大学1年生のときの心理学基礎講義のテキストに載っていた「臨界期」という言葉です。

子どものおもちゃというのは、なかなか難しく、親がいいと思って買ってみても、全然興味を持たなかったり、意外とすぐに飽きてしまったり……そんなときに見つけて試してみたのが、おもちゃレンタルのサブスクリプションでした。

2か月に1回、5~6種類のおもちゃが届く、というもので、初回のラインナップは、次のような感じでした。

叩くと音楽の鳴るドラムや、重ねて遊べるカラフルなカップ、手ざわりの違うそれぞれに仕掛けのある3つのブロックなどなど。

届いたときには、全然興味を持っていなかったおもちゃや、遊び方がいまいちわからなかったものも、徐々に遊べるようになってきて、日々お気に入りが変化しています。

そんな娘の様子を見ていて思い出したのが、冒頭に挙げた「臨界期」という言葉です。

 

「臨界期」というのは、動物行動学者のローレンツ博士が発見したものです。

ガンやカモなどの鳥のひなが、産まれた直後に初めて見た大きくて動くものを「親」と認識して、そのあとを追うようになる「刻印づけ」という現象があるのですが、この現象が成立するのは、産まれてから20時間ほどの限られた時間なのです。

その時間を過ぎてしまうと、動くものを見ても、刻印づけは起こらなくなります。

この、あることを身につけるのに適した期間のことを「臨界期」と呼びます。

人間の身体機能の発達や言語の習得にも同じように臨界期のようなものがありますが、その時期を過ぎてからも学習することはできるので、人間においては「最適期」と呼ばれたりもします。

この「臨界期」や「最適期」というのは、仕事でも同じようなことがあるなと思います。

自分が実現したいことがあって、あの手この手でトライしてみても、なかなかうまくいかない……そんなとき、心が挫けて諦めてしまいそうになりますが、もしかしたら、まだ最適なタイミングがきていないだけかもしれません。

今は働きかけたり、提案をしても受け入れられないけれど、別のタイミングであれば、受け入れられることがあります。

うまくいかないことが続くと、「もういいや」と投げやりになったり、気持ちがやさぐれそうになることがありますが、「チャンスは必ず来る」と信じて、タイミングを見計らうのも、ひとつの手です。

とは言っても、ただ何もしないで待っていよう、というのはなく、いつか来る「その時」に向けて、備えるのがおすすめです。

「臨界期」や「最適期」と一緒に教わった「レディネス」という概念があります。

レディネスは、発達をするための準備条件のことで、身体や神経系の成熟、知識、興味関心など、さまざまな要素があります。

たとえば、1歳になったばかりの娘はまだ一人では歩けませんが、立つことはできて、つたい歩きをするようになってきています。

「歩行する」ことのレディネスには、身体機能が整ったり、平衡感覚を保つ神経系が成熟したりといったことが挙げられます。

組織が変化して、重視されるものが変わったり、新しい役割が与えられたり、そんなときこそ、チャンスです。

なかなかうまく進まないことも、組織や社会情勢の変化について情報収集したり、協力関係を構築したりして、準備状態を整えることで、タイミングをただ待つだけではなく、タイミングを「呼ぶ」こともできるのかもしれません。

 

【参考文献】

中島 義明・繁桝 算男・箱田 裕司編 (2005). 新・心理学の基礎知識, 有斐閣ブックス.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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