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年をとるとNADが減る

わたしたち生物は常にエネルギーを使いながら生きています。細胞が必要なエネルギーを得る過程に必須の物質がNAD(ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド)です。

NADは加齢とともに減少することがわかっています。ヒトだけではなく、少なくとも線虫、ハエ、マウスにおいて加齢とともにNADが減少することが報告されています。NADが減少すると細胞レベルで様々な悪影響がみられることや、NADを補うことで多くの老化関連疾患に効果があることなどが示されています。

 

しかし、なぜ高齢になるとNADが減るのかについてはよく調べられてきていませんでした。その点についてアメリカの研究グループが検討した結果が202112月に出版されるアメリカの学術雑誌Cell Systemsに報告されていますのでご紹介します。

 

研究の背景

研究グループは、高齢になるとなぜNADが減少するのか明らかになれば、対策も立てやすいのではないかと考えました。

NADは細胞がエネルギーを得るために必要な多くの代謝活動に必要ですが、老化を制御するサーチュインを含めいくつもの代謝酵素が働くためにも必要です。これらの代謝酵素が働くと、NADNAM(ニコチンアミド)に変化します。NADは、トリプトファンというアミノ酸から新たに作られる他に、NAMからリサイクルされて作られます。したがって、組織におけるNADの量は、NADがどのくらい使われるのかという需要と、どのくらい作られるのかという供給のバランスで決まります。


研究の方法

若いマウス(3ヶ月齢)と高齢マウス(25か月齢)のマウスにおいてNADの需要と供給について調べました。

研究の結果

NAD代謝は高齢になると変化する

マウスの様々な組織でNADの量を測定したところ、多くの組織において高齢のマウスの方がNADの量が少ないことが分かりました。NADの主要な前駆体であるNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)の血液中の濃度は若いマウスと高齢のマウスで特に変化は見られませんでした。

 

・トリプトファンからNAMを作る量は高齢になっても低下しない

食事で摂取するアミノ酸の一種であるトリプトファンは肝臓でNADに合成されますが、その途中で合成されるNAMは血液を通って他の様々な組織に運ばれ、そこでNADに合成されます。血液中のトリプトファンの量は、若いマウスと高齢マウスに差はありませんでした。研究グループは、トリプトファンからNADが合成される経路が、若いマウスと高齢マウスで変化がみられるか調べることにしました。そこで、印をつけたトリプトファンをマウスに時間をかけて注射し、印がどの程度NAMNADの中に検出されるか調べました。その結果、若いマウスでも高齢マウスでも印の検出のされ方に差はみられませんでした。この結果から、トリプトファンからNADを作り出す量は、若いマウスも高齢マウスも同等であると考えられました。

 

NAMからNADを作る量は高齢になっても低下しない

次に、印をつけたNAMをマウスの体内に注射してNADNMNのリサイクル経路について調べました。NAMから合成されたNADは体内で使われるとまたNAMに変化しますが、高齢のマウスでは、NADからNAMに変化する割合が多いことが分かりました。

さらに、高齢のマウスではNAMがリサイクルされて出来たNADの割合も高いことが明らかになりました。定量的にも検討したところ、高齢マウスではNADの量が少ないにも関わらず、NADが作られる量(トリプトファンから合成する量とNAMから作り出す量の合計)は、若いマウスと同等であることが明らかになりました。つまりNADを作り出す量は若いマウスも高齢マウスも同等ですが、高齢マウスはNADの総量は少ないため、NAMNADNAMの回転率が高いと言えることが分かりました。

 

・カロリー制限を行いNADの代謝を評価

カロリー制限は、寿命を延長したり健康に役立ったりすることが示されています。若いマウスに短期間のカロリー制限を行うと、肝臓、脂肪組織、筋肉でNADが増えることが報告されています。カロリー制限が健康に及ぼす効果はNADによって活性化されるサーチュインが働くためであることも分かっています。また、カロリー制限により炎症やDNAダメージは減ってNADを使う遺伝子の働きが減ると考えられるため、NADの消費は減ることが予想されます。

そこで研究グループは、カロリー制限をしたマウスでNADの代謝がどのように変化するか調べることにしました。そこで、若いマウスと高齢のマウス、若い頃から40%のカロリー制限を行って高齢になったマウスの3グループにおいて、NADの代謝を調べました。まず、各組織のNAD量を調べたところ、通常の高齢のマウスで減ったNADはカロリー制限することによって肝臓では若いマウスレベルとなり、白色脂肪組織では若いマウスよりも多くなりました。

印をつけたNAMを注射して調べたところカロリー制限によりNADの代謝が緩やかになっていることが明らかになりました。これは、カロリー制限により、高齢になってもNADを消費する酵素類の活性が抑えられているためではないかと考えられました。つまり、高齢マウスの方がNADの消費が多いのではないかと考えられました。

 

まとめ

NADは年齢とともに減ることが分かっています。今回のマウスを用いた検討で、高齢になるとNADを作り出す量が減るわけではなく、NADの消費が増えているためにNADが減少すると考えられました。NADを消費する酵素は幾種類も知られていますが、今回の研究では、何が高齢マウスのNAD消費増加に寄与しているかは明らかではありませんでした。

今回の研究では通常状態では若いマウスと高齢マウスのNADを作り出す量に差はなかったものの、ストレス下など特殊な状況でも差がないかどうかは検討できておらず、高齢マウスでNADを作り出す量も減っている可能性は否定出来ないと論文では記述されています。また、高齢マウスにおけるNAD減少の主要因がNADの消費によるものである場合、高齢でのNAD減少に対してNR(ニコチンアミドリボシド)やNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)といったNADの前駆体を投与してNADを増やすというのは実際には減っていないNAD産生を増やすことになり生理的とは言えず、サーチュインを活性化させることは出来るものの、高齢になって増えるNAD消費酵素(例えば炎症に関連するものなど)の活性を上げることにつながる可能性も考慮しなくてはならないと記述されています。

 

さいごに

NADがなぜ高齢になると減少するのかというのは、今後の老化関連疾患の治療にもつながる可能性のある大変重要な研究テーマだと考えます。さらなる研究結果が期待されます。

執筆

亀田 歩

 

医師・医学博士。医師免許を取得後、病院勤務を経て10年ほど前より医学研究や学生教育も並行して行っております。現在はヨーロッパに研究留学中で、日本との相違点、類似点を日々実感しながら生活中です。医学には日々新たな情報があり、それを学び続けることで今後医師としての診療がより深いものになればと思います。出来るだけわかりやすく、新たな世界を知るワクワク感を共有できれば幸いです。

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