新型コロナウイルス対策のためにテレワークが導入・推進されて1年半が経ちました。
テレワークの働き方そのものには慣れたかもしれませんが、さまざまなところからこんな不安の声が聞こえてきます。

「チームの様子や相手がどのような感情状態か分からず、漠然とした不安を感じている」
「チームメンバーとのコミュニケーションの機会が減って、働きづらさにつながっている」「周囲からのサポートを得るのが難しくなった」

チームをマネジメントする立場にいる上司からも次のような相談を受けることがあります。

「チーム全体の雰囲気が見えづらくなった」
「不調やモチベーション低下など心配なチームメンバーを見逃していないか不安」
「新入社員や異動してきたメンバーが定着できているのか気がかり」

私が専門としている職場のメンタルヘルスの領域では、これまでは、仕事の指示を直接出したり、環境調整を行う役割を担う上司が対策のキーパーソンだとされていました。
なので、私も、いかに上司がそれぞれのメンバーと信頼関係を築いて、メンバーをサポートしやすい枠組みをつくれるか、という点に注目して支援するようにしていました。
ただ、テレワーク下では、メンバー全員がばらばらの場所で働いていることもあり、上司だけでは目が届きません。
果たして、テレワーク下でも同じ枠組みで働きかけていていいものか。
頭を悩ませていたところに、在宅勤務者のメンタルヘルス状況ついて、2020年5月、8月、11月、2021年2月と継続的に行われた労働者追跡調査の結果から、興味深い示唆が届きました。
職場の同僚のサポートが十分にある労働者は、年齢や性別といった基本属性を調整したあとも、調査をした4時点を通じて心理的ストレス反応が低いという結果が得られたのです。
テレワーク下のチームでは、同僚同士が声をかけあったり、相談し合える関係にあることが、ストレスを軽減するのに有効なのです。

ここで少し、皆さんが一緒に働いているチームを思い浮かべてもらいたいと思います。
自分も含めたメンバーひとりひとりを●で表して、1枚に書き出してみます。
次に、その間に線をひいていきます。
自分が困ったときに聞いたり、相談できる相手との間には、自分から相手への矢印をひきます。
逆に、困ったときに自分を頼ってくれるチームメンバーとの間には、相手から自分への矢印をひいてみます。
一例ですが、次のような図が出来上がるでしょうか。

テレワーク以前は、上司とそれぞれのチームメンバーの間にどれくらい線がひかれるのかがポイントでしたが、テレワーク下では、チームメンバーそれぞれの間の線の重要度が増しそうです。
描き出してみて、線がひかれなかった同僚との間で声をかけあう回数を上げる、仕事の状況について情報交換するなど関わりを増やすことで、テレワーク下でもストレスを溜めることなく、働くことができるようになる可能性があります。
上司の立場にいる方からテレワーク下のチームマネジメントについて相談があったときには、上司自身とメンバーとの間だけではなく、メンバー同士の間の線が増えるような関わり(例えば、メンバーから相談があったら、「その件は〇〇さんが詳しいから聞いてみてください」と返すなど)も取り入れるよう提案しています。

テレワークが定着していくであろう今後の働き方を見据えると、同僚のサポートを高める対策は、チームメンバーがストレスを抱えずに協力して仕事に取り組んでいくうえで、いっそう重要性が増していくでしょう。
何より、それぞれが別の場所で働いていても、「最近調子はどう?」、「忙しそうだけど、手伝えることある?」、こんな風に声をかけ合えるチームって、いいチームだな、と素直に思います。

【参考文献】
・令和2年度 厚生労働行政推進調査事業費厚生労働科学特別研究事業「テレワーク等新しい働き方に対応したストレスおよびメンタルヘルス対策への提言と好事例集の作成(20CA2044)」分担研究報告書「テレワーク利用中の労働者の精神健康および仕事のパフォーマンスを予測する職場の心理社会的要因:4時点縦断調査」今村幸太郎、佐々木那津、竹野肇.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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