NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)とは

NMNは、私たちの身体の中でNAD(ニコチンアミド・アデノシンジヌクレオチド)という細胞がエネルギーを得る過程に必須の物質に変換される前駆物質です。NADは細胞の活動の50%以上に関わるとも言われています。

NADは年齢とともに減少し、組織中のNAD濃度は老化と関連があることが多くの研究で示されています。この前駆物質であるNMNをヒトや動物に投与すると、様々な組織でNADが増加し、多くの老化関連疾患に有効であることが細胞実験や動物実験によって示されています。一方、ヒトに投与した際の安全性や有効性のデータは少ないのが現状です。
今回は、2021年7月に中国の研究グループから発表された、NMNをアマチュアランナーに投与した論文の内容をご紹介します。

研究の背景

定期的な運動は、酸素の取り込み能力や心血管系や代謝、身体能力に良い影響を及ぼしますが、それらの多くはNADを介していることが報告されています。また、運動により体内のNADが増加することも示されています。

マウスの実験では、肥満の母マウスから生まれた仔マウスに対する18日間のNMN投与と9週間の運動には同様の効果が認められたとの報告や、運動とともにNMNや、同様にNADの前駆物質であるNR(ニコチナミド・リボシド)を投与することで運動の効果が高まったとの報告があります。一方、ラットにスイミングトレーニングとともにNRを投与したところ、持久力がむしろ低下したとの報告もあります。

研究の方法

アマチュアランニングチームに所属し、定期的に運動を1-5年続けている27-50歳の男女(男性40名、女性8名)が被験者となりました。被験者は喫煙飲酒や、カフェイン、サプリメントは摂取しておらず、服薬などしていない人を選び、以下の4グループに分けて比較しました。

6週間の研究期間中、全員運動プログラムを行うとともに、低用量グループは150㎎のNMNを1日2回、中用量グループは300㎎のNMNを1日2回、高用量グループは600㎎のNMNを1日2回、プラセボグループはNMNを含まない偽薬を1日2回服用しました。被験者、投与する側ともにいずれを内服しているかは知らない状態で研究が行われました。

6週間の運動プログラムとして、ランニングとサイクリングによる1回40-60分の有酸素運動を週に5-6回行うこととしました。
試験前とプログラムを終了した6週間経過後に自転車エルゴメーターを用いて心肺運動負荷試験を行い、評価が行われました。

心配運動負荷試験とは

運動負荷を行いながら、心電図や連続呼気ガス分析装置による呼気中の酸素濃度、二酸化炭素濃度、換気量を継続し、呼吸、循環、代謝などについて測定する検査です。最大酸素摂取量が運動能力を表す指標となります。

運動に誘発される狭心症や不整脈の検出、心臓、肺、筋肉の総合的な機能を評価して安全に運動できる強度を検索するなどする際に用いられます。
今回の研究結果の評価項目に関係するのでもう少し詳しく説明します。
運動負荷を増加させていくと、まずは肺の換気量、二酸化炭素排泄量、酸素摂取量が直線的に増えていきます。ある時点(ここまでが心臓疾患などの方で安全に長時間運動が出来る強度と評価されます)に達すると乳酸が増加し、乳酸の作用による二酸化炭素産生が加わるフェーズとなり、二酸化炭素排泄量が相対的に増加します。さらに、呼吸により代償するフェーズに入ると、換気量が相対的に増加します。

研究の結果

6週間、運動プログラムに加えてNMNを投与することで以下のような結果が得られました。

・体組成について

体重、BMI、体脂肪の変化は見られませんでした。

・心肺運動負荷試験の結果について

最大の心拍数、ガス交換比、心拍数の回復過程、最大酸素摂取量、最大運動強度などにはNMN投与による変化は見られませんでした。しかし、心配運動負荷試験中の乳酸の作用による二酸化炭素の産生が加わるフェーズにおける酸素摂取量、心拍数、運動の強度が上がりました。

また、呼吸性代償が開始した後の運動強度も上がりました。さらに、これらの変化はNMNの投与量が増えるほど大きくなりました。
NMNを投与することで運動のみ行うよりも酸素の取り込みが増加したことを示しており、筋肉で酸素を利用する能力が上がったためではないかと研究グループは考えています。これについては、動物実験でNMNがミトコンドリア機能を改善し筋肉における毛細血管の機能を改善して血流を改善させ、筋肉の酸素化を改善することが示されていることから、同様の機序が考えられると考察されています。NMNを内服することで心拍数が増加したことについて、論文では特に考察されていませんでしたが、運動強度が上がったことによるのかもしれません。

・運動能力について

握力、腕立て伏せ、前屈については運動にNMNを投与し特に変化はありませんでした。片足立ちについては、NMNを中用量(600mg/日)内服した場合に改善がみられましたが、高用量(1200㎎/日)内服では改善はみられませんでした。

論文では、今までに報告された動物実験においても糖尿病の指標、骨密度、身体活動、虚血に対する脳のダメージ、不妊などについてNMNの投与量が少ない方が効果が高かったとの報告があると紹介されています。

・副作用について

被験者から特に副作用を疑う症状の報告はありませんでした。心電図における異常も認められませんでした。この研究論文では血液検査の結果についての報告はありませんでした。

最後に

今回の研究から運動にNMNを組み合わせることで、アマチュアランナーの酸素取り込み能が改善することがわかり、これは今までに報告された動物実験の結果もあわせて考えると、NMNにより筋肉でより酸素を取り込めるようになったためではないかと考えられました。

今回の研究結果では低用量グループでの片足立ち以外明らかな運動能力の改善は報告されておらず、運動に対するNMNの効果を確認するにはさらなる研究結果が望まれますが、NMNを投与することで、運動の効果がより高まる可能性があると考えられます。

1. Liao et al. Nicotinamide mononucleotide supplementation enhances aerobic capacity in amateur runners: a randomized, double-blind study. Journal of the International Society of Sports Nutrition. 18, 54, 2021

執筆

亀田 歩

 

医師・医学博士。医師免許を取得後、病院勤務を経て10年ほど前より医学研究や学生教育も並行して行っております。現在はヨーロッパに研究留学中で、日本との相違点、類似点を日々実感しながら生活中です。医学には日々新たな情報があり、それを学び続けることで今後医師としての診療がより深いものになればと思います。出来るだけわかりやすく、新たな世界を知るワクワク感を共有できれば幸いです。

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