「笑うことは健康にいい」

友だちと笑い合ったり、お笑い番組を見て大笑いしたあとのスッキリした感覚は、多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。
心理学の分野で、笑いやユーモアが健康を促進する効果について研究が行われ始めたのは1970年代からで、抑うつ症状のようなストレス反応を軽減するのに役立つことや、 不安を低減する効果が示されています。
「笑う門には福来る」ということわざがありますが、福だけでなく、健康ももたらしてくれる可能性があるのです。

なぜ、笑いやユーモアがストレスを緩和するのでしょうか。
心理学の研究の中で示されている3種類のメカニズムを紹介しながら、普段の生活での活用を提案してみたいと思います。

1つ目は、ストレスフルな出来事に対して、ユーモアを用いることで、その程度を小さく再評価することで、ストレスを低減する認知的なプロセスです。
つらいことがあったときに、面白いことを思い出したり、その状況をちゃかしたりして、ストレスの影響を和らげるなどが挙げられます。
ユーモアで「おおごと」感を減らすイメージでしょうか。
自分の経験に照らし合わせても、「使ったことある」という人が多いのではないでしょうか。
アウシュビッツ収容所での経験について書かれた「夜と霧」という小説の中でも、ユーモアは「自己維持のための闘いにおける心の武器である」と表現されているのですが、シビアな状況をユーモアで乗り越える、というのは人の強さのひとつだと思います。
私がストレスマネジメントとして、おすすめしているのは、自分を落ち込ませるようなネガティブな考えが浮かんだときにユーモアを使う方法です。

私自身もそうですが、自分がミスしたり、うまくいかないことがあると、「なんでもっと対策しておかなかったんだろう」、「うまくいかないことばっかりだ」なんて考えが頭の中にぐるぐると浮かんできて、ますます落ち込んでいきそうになります。
そんなときは、考えの語尾に「ぽよ」をつけると、ふっと落ち込みのループがゆるみます。

もっと対策をしておくべきだったぽよ。
うまくいかないことばかりぽよ。
ミスのせいで仕事ができないと思われるぽよ。

「ぽよ」以外にも、好きなアニメのキャラクターのセリフやお笑い芸人の言い回しなど、自分流にアレンジもできます。

2つ目は、笑うことによって、免疫系や内分泌系に影響を与えて、ストレスを低減する生理的なプロセスです。
1979年に難病とされる膠原病を患ったCousinsが、ビタミンCの摂取と毎日笑うことで病気を完治させた話が描かれている「笑いと治癒力」(anatomy of an illness)がベストセラーになったのをきっかけとして、身体的な健康への効果が注目されるようになりました。
笑うことで緊張がほどける筋肉組織の弛緩や、コルチゾールやノルアドレナリンなどのストレスホルモンの分泌抑制、鎮痛効果などが検証されています。

生理的プロセスにおいては、特に、声を出して笑うか、微笑むかで違いがあることが指摘されていて、体感的にも声を出して大笑いしたときのほうが、身体から力が抜ける効果を実感できるかと思います。
自分の中での「抱腹絶倒」アイテムを持っておくのがおすすめです。
私の場合は、2年前にニュージーランドでZorbというアクティビティに参加したときの動画です。
巨大な透明の球体の中に入って、芝生の斜面を転がり落ちるという謎のアクティビティなのですが、自分が転がり落ちていく姿は、2年経った今でも、どんなときでも涙が出るほど笑わせてくれる殿堂入りアイテムです。

 

3つ目は、対人関係にユーモアを用いてストレスを低減する社会的なプロセスです。
気まずい雰囲気になったら、場を和ませるために面白いことを言って一緒に笑ったり、相手を怒らせたり、言い過ぎたときに、笑わせることで怒りを和らげたり取り繕うなどが挙げられます。
このようにユーモアを使うことが対人関係を円滑にしたり、人からのサポートを受けやすい関係づくりにも良い影響があるとされています。

順番が逆なのですが、「面白いと思えるかどうか」に相手との親密さの度合いが関係するとする研究結果もあります。
お笑い番組を視聴する場合に、相手との親密性が高い場合に、番組への面白さが上昇して、親密性が低い場合には面白さが低下するという報告があります。

確かに親密だったり、信頼関係のある安心できる人間関係の中だと心から笑うことができる、というのは体感的にも納得です。
「卵が先か、ニワトリが先か」状態ではありますが、ユーモアを使うことで親密度を高め、親密度が高まったら、ちょっと高度なユーモアにチャレンジする、その繰り返しで、人間関係を醸成するのもよいかもしれません。
以前、管理職向けにマネジメントコンピテンシーを高める研修を行ったときに、「1日1回、部下を笑わせる」というちょっとチャレンジングなアクションプランをたてた上司の方がいました。

3か月後のフォローアップのときに、「すべったことも多々あったけれど、部署の雰囲気は格段に良くなって、部下が早めに相談してくれることや報告してくれること増えた!」と教えてくれました。

一日一笑!
3つのルートを活かして、笑いからの健康アプローチも、ぜひ試してみてください。

【参考文献】
Martin, R. A. (2001). Humor, laughter, and physical health methodological issues and research findings. Psychological bulletin, 127, 504-519.
Cousins, N. 1979. Anatomy of an illness. W.W. Norton&Company Inc.
Gervais, M., & Wilson, D.S. (2005). The evolution and functions of laughter and humor: A synthetic approach. The Quarterly Review of Biology, 80, 395-430.
志水彰:笑い-その異常と正常.勁草書房, 2000.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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