2021年4月7日にオンラインで開催された日経BP主催のセミナー「最前線の専門家が語る免疫力を高めるカギとは?」サブタイトルは「免疫力の向上には“秘訣”がある!」に関して、レビューいたします。

 

コロナウイルス感染症の流行している現在の国内外の状況において、免疫力についてのセミナーは現在、多くの人が関心を持つテーマだと思う。

最初にスライドを使ってレクチャーがあり、その後にパネルトーク、質疑応答という流れで進行する。質疑応答では新しい知見も紹介があるということで、大変楽しみである。

レクチャーをしてくださったのは、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所、ワクチン・アジュバント研究センター センター長の國澤純氏だ。

レクチャーの内容は免疫力を高めるワクチンと食についてだ。最初に感染症を防ぐための一般的な方法、次に治療方法、ワクチンが対策として重要であることをわかりやすく説明されている。私もつい先日コロナウイルスワクチン接種をしたところであるが、世界ではワクチン接種が進んでいて、最も進んでいるイスラエルでは感染者が激減し、日常生活が戻りつつあるそうだ。日本ではまだこれからワクチン接種がすすんでいくという段階だが、ワクチン接種が広まれば、流行が収束することが期待される。

レクチャーは次にワクチンの仕組みについてで、従来のワクチン作製方法として不活化、弱毒化の方法についてそれぞれ安全性、効果について説明がある。さらに新しいワクチン作製方法として、ウイルスなどの病原体の遺伝情報を使う方法が示される。培養細胞に遺伝子を導入して作製されるサブユニットワクチンやVLPワクチンが比較的新しいとされる方法だ。コロナウイルスワクチンは最新の方法で作製されたワクチンで、mRNAワクチン、ウイルスベクターを用いる方法である。これらは遺伝子情報そのものをヒトに直接投与する方法で作製に時間がかからず、効果も高いようだ。

次に生体防御反応について説明がある。B細胞から産生された抗体によって感染を防いだり、補体やマクロファージなどが病原体を攻撃したりする仕組みが説明される。一方、感染を防ぐための抗体によって逆に病状が悪くなってしまう抗体依存性感染増強という新しい概念の紹介もあったが、今のところ新型コロナに対するワクチンでは報告は見受けられない。

 

B細胞が作り出す抗体によって感染を防ぐ働きがあるが、感染が成立した後にはウイルスが増殖するのを防ぐため、感染細胞そのものを除去するT細胞の重要性も説明される。

B細胞やT細胞による免疫の記憶を利用したのがワクチンであるが、ワクチンに対する免疫力には個人差がある。それだけではなく、睡眠、食事を整えることは大切であるようだ。免疫力と腸内細菌が関連するということが近年注目されているらしい。

食事の内容については必須栄養素が大事で、ビタミンB1がないとエネルギー代謝がうまく働かず、免疫に関連するパイエル板、脾臓、リンパ節も小さくなってしまうという研究がある。これらの場所は免疫の教育が行われる場所で、これらが小さくなってしまうとワクチンに対する抗体の量も少なくなってしまうらしい。同時にT細胞が作られる胸腺という組織も代表的な免疫組織でT細胞に関係があるが、ビタミンB1が欠乏すると同様に小さくなってしまうようだ。そうすると免疫力を高めるためにビタミンB1をぜひ多く摂取したくなる。

そこで次に説明されるのはビタミンB1が豊富な食材で、うなぎ、豚肉、大豆、玄米があげられ、さらによく吸収効率を上げ、効率良く活用できるようにアリシンが含まれるニンニク、玉ねぎ、ニラを一緒に取るとよいらしい。逆に分解してしまう貝、一部の魚や山菜などがあげられていた。食べ合わせなどが重要らしい。

これらの中で日常的に摂取しやすい食品は豚肉、大豆、玉ねぎであろうか、ウナギは食べること少ないが年に数回ほど食べてみよう。

ほかに油も例示されている。ω3脂肪酸として亜麻仁油、ω6脂肪酸として大豆油があげられている。ω6脂肪酸から代謝されてできる物質にロイコトリエンB4があるが、このロイコトリエンB4の受容体を介することにより、食事からとる栄養素と腸内細菌とが相互に関連して免疫細胞が活性化されるという興味深い研究が示された。

ただ、体の中の免疫による体の反応が強すぎると炎症症状がでて体に良くない面もあるという説明があり、ω3脂肪酸とω6脂肪酸もバランスよく摂取するのが大事なようだ。私は普段調理にサラダ油しか使っていないので、今度スーパーで別の油を探してみたいと思う。國澤氏の所属する研究機関では、日本人の食事、腸内細菌、免疫応答についてのデータベースを集めるコホート研究が進行しているということでとても興味深く重要であると感じた。


さて、レクチャーが終わり、次はパネルトークとなる。
まず金田氏は東海大学医学部付属東京病院外科・血管外科、東京ミッドタウン先端医療研究所 上席研究員の立場で、外科医であるとのことで、外科研修医が指導医から教育される基本的な重要な内容に、点滴にビタミンB1を入れるということがあり、國澤氏のスライドをみて改めてビタミンB1が重要で、外科医の基本がやはりとても重要なことであると認識したと話されていた。

確かに臨床でビタミンB1を用いるときは点滴をする際で、点滴に含まれる糖がエネルギーとして利用される際にビタミンB1が消費されるため、欠乏症にならないように用いる。

次に山名氏はNOMON 代表取締役 CEO、帝人グループ 研究主幹/ヘルスケア事業統轄補佐、プロダクティブ・エイジング コンソーシアム 代表という立場で、ご自身の年齢から免疫、老化、食との関連を話された。医食同源、納豆のスペルミジン、枝豆のNMN、ビタミンB1,C,D、ワサビに含まれるスルファラフォンなどがあげられている。

特にNMNによって健康寿命が延びる可能性、スルファラフォンによって免疫や炎症に対する効果、他にも認知機能を改善させる可能性があることが示された。これらの物質はサプリメントとして摂取できるようだ。ワサビはよく刺身などで用いるが、チューブ入りのワサビを食べてもその成分はうまく摂取できないそうだ。残念。

國澤氏からビタミンB群がエネルギー産生に重要であって、代謝の活発な免疫細胞においてはその重要性が増すこと、他の栄養素についてビタミンDが免疫力を高める機能があること、金田氏からは自身の所属するクリニックで実施される血液検査などをもちいて、免疫状態のバランスを参考に食事内容を検討することが大事であること、山名氏からは様々な栄養素が免疫に関連していることがそれぞれ説明された。

司会の西沢氏からはコロナウイルスが歯肉や唾液腺に感染すること、上気道の低温環境でウイルスが増殖すること、粘膜免疫であるIgAが重要な可能性があることを話題提供された。これに対して國澤氏からは体の中に入る前の分泌液中に含まれるIgAが重要である点、体に入った後はワクチンなどによって獲得される免疫が重要であると説明があった。
この次に話題にあがった腸内細菌の話は興味深かった。

國澤氏によるわかりやすい腸内細菌の説明があり、ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌などの関連や、酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸が腸内環境を酸性にすることで役割がある点などが勉強になった。
最後に質疑応答の時間が設けられた。コロナワクチンの副反応の痛みは強いのか、痛みが起こる仕組みはどのようなものか、コレステロールの数値は高いほうが良いのか低いほうが良いのか、整腸剤の種類について生きている菌と死んでいる菌は働きにどのような違いがあるのか、腸内環境に酢酸が重要であるならば食酢を飲むと腸内環境によいのか、腸内細菌群について便の性状から見分けられるか、整腸剤などを摂取するのに適した時間などがあるか、など大変活発な質疑応答が行われ、いずれも詳しく興味深い回答があった。

今回のセミナーをみて、自分の免疫力を高めるために日常の食事や睡眠を再度見直す機会となった。

豚肉や大豆を玉ねぎと一緒に摂取する料理を考えてみた。豚肉のカレーライスか、玉ねぎの味噌汁ぐらいしか思いつかない。こればっかり食べるわけにはいかないが、時々メニューに加えてみたいと思う。

執筆

篠原翼

 

認定医:日本プライマリケア連合学会認定プライマリケア認定医・日本医師会認定産業医 専門医:日本プライマリケア連合学会認定家庭医療専門医 所属学会:日本プライマリケア連合学会 千葉大学医学部卒業後、JR東京総合病院、亀田総合病院を経て、現在三浦海岸つばさクリニック院長。対話を大切にし、安心・信頼・満足できる医療を提供している。診療科目:内科・小児科・皮膚科・漢方内科。

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