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わかったフリは卒業!わからないことは「わからない」と言っていい
-チームの心理的安全性とも関連-

「わからない」ことが恥ずかしいと思っていた時期がありました。

学校で先生にあてられて「わからない」とき。
試験で答えが「わからない」とき。
仕事でうまくいかずにどうしたらいいか「わからない」とき。

誰かから「これわかる?」と聞かれたとき、わからないのに、素直に「わからない」とは言えずに、わかっているフリをしてしまうこともありました。
振り返ってみると、「わからない」と言えなかったのは、「わからない」と答えたら、相手からの信頼がなくなってしまうんじゃないか、仕事を任せてもらえなくなるんじゃないか、という不安や心配からでした。

そんな私に、「わからない」を前向きにとらえられる瞬間が訪れたのは、大学院のときです。
私が所属していた研究室では、週に1回90分の研究会がありました。

5年一貫制の大学院に通っていたので、修士課程1年生から博士課程3年生までの学生と指導教員である教授がいる場でした。
そこで、「わからない」という言葉によって、前向きに話が進んでいくことを目の当たりにしたのです。
心理学研究法の入門書を読むと、「良い研究を行うためには、まず研究の問いを見つけ、仮説をたてる必要がある」と書かれています。
この「仮説」をたてるうえで、「わからない」は欠かせない要素なのです。
例えば、「『心配症』って、ネガティブにとらえられることが多いけれど、本当に良くないことなの?」という疑問から、「心配症の人は、リスクを予見して様々な対策をとるので、仕事でミスをすることが少ない」といった仮説をたてて研究することができます。
もちろん、研究をする上では、その研究を行うことで何らかの問題解決ができるか、社会的意義があるかといったことも検討するのですが、出発点では、「わからない」がとても大事です。

「ここがわからない」、「どうしてこうなっているんだろう?」、「どんなメカニズムがあるのか?」と先入観にとらわれずに、素朴に疑問を抱けることで、よい仮説をたてることができます。
研究会で「わからない」と口に出すと、「そうそう!そこがわからないんだよ」、「いや興味深い。なんでこうなるんだろう?」、「面白いね、その疑問」といった具合に、議論が深まったり、新しい研究の種が生まれたりするのです。
そんな5年間を過ごしたおかげで、「わからない」と言うことに対する抵抗感がずいぶんと減りました。
以前働いていた精神科のクリニックで勉強会の講師として呼んでもらったあと、院長から「関屋さんは、質問されたときに、わからないことは『わからない』とそのまま答えるのがいいよね」と言われ、講師や専門家という立場でも、わかったフリをして答えたり、ごまかしたりするのではなく、わからないことは「わからない」と言えるようになったんだな、これからも大事にしよう、と改めて感じました。

「わからない」と言えるかどうかは、最近注目されている職場におけるチームの「心理的安全性」とも深い関係があります。
心理的安全性は、チーム内で「『こんな発言をして大丈夫かな?』など心配せずに率直に意見が言い合える」状態を指しています。
心理的安全性研究の第一人者であるエイミー・エドモンドソン教授は、心理的安全性の妨げとして、「4つの不安」を挙げていますが、そのひとつが、「無知だと思われる不安」です。

「わからない」と言うことで、「こんなことも知らないんだ」と思われてしまうのが不安だから、「わからない」「知らない」ことがあっても聞かない、わからないままやり続ける、という行動を選択してしまうのです。
ただ、実際には、「わからない」と言えないと、仕事は進みません。
私たちは、「わからない」と口に出せることで、学びのチャンスが得られて、成長していけるのです。
心理的安全性があると、チーム内の学習が進み、パフォーマンスをあげられるという調査結果があるのも、その裏づけと言えます。

 

もうひとつ、最近目にして興味深かったのは、「つまらない」と感じる原因は「わからない」「知らない」から発生していることがほとんどだ、という話です。
今まで全く興味を持ったことのない、また、興味を持てそうにもないテーマでも、10冊そのテーマについての本を読むと、「面白い」と感じられるようになるというのです。
自分の経験を振り返っても、うなずける話で、学会などで、自分の興味どころとは関係のないテーマのシンポジウムでも、話を聴いてみると、自分の普段の仕事との関連が見つかったりして、たった2時間で、ぐっと身近なテーマのように感じられることがあります。

 

目の前の仕事が一見つまらなそうに見えたとしても、「知る」ことで、面白くなる可能性があるのです。
そして、「知る」チャンスを得るためには、「わからない」と口に出せてこそ。
4月、新年度が始まりました。
新しい環境に飛び込むひとはもちろん、環境が変わらない人も、「わからない」と口に出してみませんか。
そして、誰かが「わからない」と言ったときには、その素朴な疑問を一緒に受け止めて、考えてみてください。
そこには、学びや成長のチャンス、イノベーションの種が隠れているかもしれません。

【参考文献】
Amy Edmondson. Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly, Vol. 44, No. 2 (Jun., 1999), pp. 350-383, 1999.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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