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Nature metabolismの同じ号に掲載された二つの論文を紹介します。

一つ目の論文は「細胞が老化すると、CD38マクロファージが活性化し、NAD量が減少する」というものです。https://www.nature.com/articles/s42255-020-00305-3

用語の解説

・NAD:ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドを省略した表現です。エネルギーを産生する仕組みの中で重要な働きをしています。NADの前駆体には、ニコチンアミドモノヌクレオシドNMN、ニコチンアミドリボシドNR、ニコチンアミドNAM、ニコチン酸NAなどがあり、これらによりNADが増えると加齢関連疾患を軽減するとされています。

・CD38: NADを分解する酵素のことです。

・CD38マクロファージ: CD38を持っていて、NADを分解する能力をもったマクロファージのことになります。

NADは酸化還元という体内の代謝で重要な因子で、NAD量の低下は、加齢・早老・代謝不全などと関連しています。NAD量が低下してしまう原因は、・NADを合成する量が低下する、・分解される量が増加する、などが考えられていますが、どちらが原因となっているかはわかっていませんでした。この論文では老化や炎症によって炎症性サイトカイン(細胞同士がコミュニケーションをとるための物質)が分泌され、それによってM1マクロファージが増加し(マクロファージにはM0、M1、M2の種類があります。

M0はまだ分化する前のマクロファージで、M1は炎症をおこし、M2は炎症をしずめる働きがあります。)、そのM1マクロファージはNAD分解酵素であるCD38を発現することで、CD38によるNAD分解がすすみ、NADが減少することを示しています。

研究の結果

・M1マクロファージはCD38を増加させ、NADが分解されてしまう

マクロファージがM1に変化するときにCD38が増加し、NAD分解能力が増加しました。

NAD分解が増加するとNAMが増加します。一方、NAD分解が増加してもNAD量が維持されていました。このことから、新規にNADを合成する経路(食事→NR→NMN→NAD

)か、NAMをリサイクルしてNADを合成する経路(NAD→NAD分解酵素→NAM→NAMPT→NMN→NAD)のどちらかが活発になっていることが考えられました。新規にNADを合成する経路の材料であるトリプトファンが増えているのにその経路中の酵素やより下流の代謝産物が少ないこと、NAMをリサイクルしてNADを合成する経路の途中の酵素であるNAMPTが一部増加し、NAMPTの働きをなくすとNADが減少することから、リサイクル経路のほうが重要な役割を果たしていると考えられました。

・NMNサルベージ(リサイクル)経路が遺伝子発現を微調整することで、マクロファージの性質が分かれる際の調節因子となっています。

NMNリサイクル経路によってNADの量が変化し、マクロファージがさらに専門分化する際の調節をしています。

 

・CD38はM1マクロファージでのみ発現する

 

・老化関連分泌物によってCD38が増加する

老化細胞が老化組織の炎症の重要な原因です。老化細胞というのは、細胞が分裂して増えていくという周期的な変化が止まっていて、老化に関連した物質(例えば、老化関連βガラクトシダーゼ、p16やp21という物質)が増えているということが目印になります。老化細胞を用いる実験では実際に老齢のマウスの組織を使用したり、細胞に放射線を当てたりや抗ガン剤を用いて遺伝子を傷つけ老化を誘発することで得られた老化細胞を用います。

このような老化細胞には、老化に関連した物質を周囲への分泌するというもう一つの特徴があり、これをSASP(senescence associated secretory phenotype)といいますが、これによりCD38が増加します。

 

・老化がクッパー細胞のCD38発現と関連

肝臓においても、加齢による炎症性サイトカインから誘発されたCD38クッパー陽性細胞(肝臓におけるマクロファージ)が増加し、NAD量が低下してしまいます。

 

・老化が脂肪組織の炎症とCD38マクロファージ蓄積に関連する

老化した脂肪組織ではCD38、老化マーカー、SASPが増加していますが、このうちのNADを分解するCD38の増加とNAD量の低下が関連しています。老齢マウスの脂肪組織では若年マウスと比較してNADが5割少ないですが、CD38をなくしたマウスではNAD量の低下がありません。

 

慢性と急性どちらの炎症も代謝組織でマクロファージのCD38発現を促しNADを低下させる

ヒトの体には多くの微生物が共生しています。体の表面の皮膚や、体の内側である口腔内や腸の粘膜などがその生息場所です。これらの場所では微生物が体内に侵入してこないようになっているのですが、加齢によってその仕組みが不十分となり、特に腸からは若い人と比較して比較的容易に微生物に関連する分子が体内に取り込まれやすくなります。このような分子を総称してPAMPS(pathogen-associated molecular patterns病原体に関連する分子)といい、代表的なものにLPSというものがあります。LPSはリポポリサッカライドという物質の略称で、腸内細菌の細胞壁を構成する物質です。体に対して毒性があるため内毒素、エンドトキシンとも呼ばれます。老化によってこのLPSなどのPAMPSの体内濃度が増加すると、軽度の慢性的な炎症がおこり、CD38が増加、NADが低下します。ほかに、老化で代謝ストレスや遺伝毒性ストレスが増え、老化細胞からのSASPによってもCD38が増加しNADが低下します。

1つ目の論文のまとめ

老化やストレスに関連してNADが低下する原因が、NAD合成量の低下か、サルベージ経路の低下か、NAD分解の増加か、あるいは、これらの組み合わせであるかはわかっていませんでしたが、今回の研究によって、CD38が増加することによるNAD分解の増加が重要で、老化によって増加するPAMPsなどによる慢性的な軽度の炎症がCD38を増加させていることがわかりました。

 

2本目の論文は、「老化によって誘導された免疫細胞のCD38外部酵素がNAD量・NMN量を調節している」というものです。

<参考>

Nature.16 November 2020

CD38 ecto-enzyme in immune cells is induced during aging and regulates NAD+ and NMN levels

 

1本目の論文から、CD38によってNADの分解がすすみ、NADが減ってしまうことがわかりましたが、そのCD38について、・老化によってCD38を発現する細胞はなにか、・なにがCD38を誘導するか、・CD38外部酵素活性はどのような役割があるか、などがわかっておらず、この論文ではこの点について詳しく述べられています。

研究の結果

・細胞の老化に伴いSASPを介してCD38が蓄積し、NADが減少する

老化した脂肪組織と肝臓で、老化細胞から分泌される老化関連物質SASPによって慢性的な無菌的な炎症がおき、CD38を有するM1マクロファージが増加しました。SASPを阻害するとCD38が減少し、NADが増加しました。この内容は1つ目の論文でも述べられていて、重要な点です。

・CD38外部酵素活性により、周囲の細胞がNMNを利用する量を調節している

CD38は細胞の中と外の境界である細胞膜を貫通して存在しています。このCD38にはトポロジカルパラドックスと呼ばれる現象が報告されています。それは、細胞膜の外側部分に酵素の働きがあり、細胞の内部で利用されている物質を、直接の関連がない場所と思われる細胞の外部で産生・分解しているという現象です。とても不思議な現象で注目されています。細胞の外で産生あるいは分解された物質はその細胞自身、あるいはその近傍の細胞のエネルギー代謝に影響を与えている可能性がありますが、その具体的な仕組みや、どのような意味があるのかはわかっていませんでした。

この研究では、CD38の外側部分だけをブロックするCD38抗体(細胞膜を通過することができず細胞内には入れない)を用いてCD38の細胞内部分と細胞外部分の働きを分けて考え実験がすすめられました。その結果、

・通常NMNを用いると、NMNはNADの材料であるためNADが増加するのですが、CD38が存在するとNMNのNAD増加効果がなくなました。さらにここにCD38の外側部分を阻害するCD38抗体を用いるとNADが増加することから、CD38の外側部分がNMNを分解していると考えられました。

・さらに、CD38がある細胞の周囲にCD38がない細胞を配置して、NADの材料であるNMNを加えたうえでNAD量を測定すると、周辺の細胞の細胞内NADの量が少なくなりました。このことから、CD38がNMNを分解してしまい、周囲の細胞はNMNを利用できないためNADが減少してしまったと考えられました。

NMNは口から摂取した後、腸から吸収されてまず向かう肝臓で代謝を受け、NADを増加させる効果の一部が失われます。CD38抗体を用いてCD38外側の酵素活性を阻害するとベースとなるNMNの血液中の濃度を高め、その上、NMNを経口摂取した際の増加効果が得られるということがわかりました。

 

2つ目の論文のまとめ

CD38の細胞外側部分は細胞内とは異なり、分解する対象がNMNとわかりました。NMNは細胞内に移行してNADの材料になるのですが、NMNが利用できないとNADが減少してしまいます。つまり、CD38は外側部分で組織のNMN量を変化させることで周辺の細胞のNAD代謝を調整し、内側部分ではNAD分解を行っています。

 

二つの論文をまとめると、細胞の老化によってNADが減少する仕組みとして、一つ目の論文からはCD38が増加してNAD分解が促進されてNADが減少すること、CD38が増加する原因として老化によるPAMPsの増加などが考えられていること、二つ目の論文からはCD38の細胞膜外側部分によってNADの材料であるNMNが減少し、周辺の細胞のNADが減少する可能性があること、さらに、CD38に対する抗体とNMNの経口摂取の二つを組み合わせると血液中のNMN濃度が増加する可能性があることがわかりました。

執筆

篠原翼

 

認定医:日本プライマリケア連合学会認定プライマリケア認定医・日本医師会認定産業医 専門医:日本プライマリケア連合学会認定家庭医療専門医 所属学会:日本プライマリケア連合学会 千葉大学医学部卒業後、JR東京総合病院、亀田総合病院を経て、現在三浦海岸つばさクリニック院長。対話を大切にし、安心・信頼・満足できる医療を提供している。診療科目:内科・小児科・皮膚科・漢方内科。

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