「ねぇ、これやってみない?」
5年前から今も続くその習慣は、大学時代の同級生の声かけから始まりました。
一緒に送られてきたURLには「4人1組で行う1年の振り返り完全マニュアル」。
面白そう!と早速、同級生4人とやってみることになりました。

 

手順の概要はこうです。

 

メンバーは4人。
1人の持ち時間は60分で、自分の持ち時間の中で、その1年がどんなものだったかを説明、残りの3人が深堀りする質問を投げかけます。
そのあと、来年に向けて相談したいことを伝えて、他の3人がアドバイスをしていくというものです。
4人で4時間、休憩も含めて5時間の時間を確保して行う、がっつりした振り返り会ですが、代えがたい価値を感じて、毎年続けています。
実際に体験して大事だと感じているポイントはメンバー集めです。
メンバー集めで満たすべき条件は3つ。
直接利害関係がなく対等な関係であること、全員が振り返りを行いたいと思っていること、お互いに異なるバックグラウンドや観点を持っていること。

 

私の場合は、大学時代のサークルで一緒だった同級生4人。
今はついている仕事もバラバラで、利害関係はありません。
出版社で働くマンガ編集者、レコード会社で働くマーケッター、Excel研修会社で経理などの事務担当者、そして、メンタルヘルスの領域で仕事をしている私。
領域も専門もバラバラです。
さらに、私たちが所属していたサークルはかなりの体育会系で、泊まり込みの合宿で一緒に何度も徹夜をして、ハードな日々を共にしたことがあり、お互いの性格もわかっているし、言いたいことを言い合える仲。
4人という人数もちょうどよく、誰がリードするわけでもなく進行できる気楽さがあります。

この振り返りの方法には、自分の1年を物語化して話すことによる再整理と再解釈、他者からのフィードバック、他者経験から学び合う……など振り返りを促進するさまざまなエッセンスがちりばめられているのですが、翌年、「今度はこっちのやり方でやってみない?」と、もうひとつの要素が加わったことで、ぐっと特別な時間になりました。
それは、「他人に目標をたててもらう」という要素です。

 

通称「タニモク」。

 

自分の持ち時間の中で、1年の概要を紹介するのは10分のみ。
そのあと、10分かけて、他の3人が質問をしながら「自分がその立ち位置にいたら次の1年でどんな目標をたてるか」を本気で考えていきます。
10分経ったら、1人ずつ「私ならこうする!」をプレゼンしていきます。
他の3人が自分の次の1年の目標を本気で考えてくれてプレゼンをしてくれる。
本人が一番楽な振り返り法と言っても過言ではないと思います。
その分、他のメンバーの時間は、一生懸命知恵をしぼって考えることになります。

 

 

この「タニモク」の最大の効能は、自分の思い込みに気づけること、そして、そこから解放されることだと思っています。
普段、私たちは、知らず知らずのうちに思い込みにとらわれています。

 

「自分には難しそう」
「今の環境だとできないだろうな」
「この問題は解決できない」
「自分にはどうしようもない」
「やってもうまくいかないだろうな」

 

 

思い込みは、無意識に限界を決めて、自分で自分を透明な箱に入れてしまっているようなものです。
透明なだけに、思い込みの存在や、自分がどんな思い込みにとらわれているのかに自分自身で気づくのはとても難しいものです。
「タニモク」では、その限界をいとも簡単に飛び越えた提案が次々と出てきます。
他のメンバーの提案を聞いていると、「これは今は無理だ」って決めつけていたな、どこかで「自分にはできない」って思っていたのかも、とぽろぽろと目から鱗が落ちていきます。
そして、自分では思いつきもしなかったような新しい選択肢が浮かび上がってくるのです。
それは、爽快な驚きに満ちていて、悩んでいたことや、少し憂うつだったことも、前向きに考えられるように変わっていく魔法のような時間です。

 

 

思い込みは、うつ病などのメンタルヘルス不調とも関連があると言われていて、うつ病を予防する教育プログラムの中には、「自分の思い込みに気づく」といったコンテンツがあります。
ただ、思い込みに気づくのは自分ひとりの力ではとても難しく、長い時間をかけてようやく気づくことができたり、カウンセラーにサポートしてもらって気づける、という場合が多いのです。
心理職として、カウンセラーとして、それをよく知っているからこそ、「タニモク」というアプローチで思い込みに気づける、というのは、私にとって、大きな発見でした。

 

そして、もうひとつ。

 

自分の未来のことを、自分のことのように一生懸命考えてくれる。
そんな仲間の姿に、1年の疲れが癒えて、次の1年に向かう力をもらえる時間になります。

 

 

私たちが始めた当時は、他人に目標を立ててもらうパートは、おまけのように紹介されていましたが、今はパーソルキャリアさんが「タニモク」という名前で特設ページを設けていて、詳しい手順が載っています(オンライン版のマニュアルまで!)。
1年の始まりや、年度の始まりにトライして、透明な箱から飛び出してみてください!

 

 

【参考文献・資料】
40人のビジネスパーソンが絶賛した「1年の振り返り」完全マニュアル

他人に目標を立ててもらうワークショップ タニモク

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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