「時間は平等」

 

世の中にはいろんな「差」があります。

そんな中で、「1日24時間と私たちに与えられている時間は平等」だと思ってきました。

 

けれど、最近、私の中に疑問が生まれたのです。

本当にそうだろうか?

きっかけは、「広々とした空間にいると、時の流れをゆっくりに感じる」という研究結果があると耳にしたことでした。

たしかに、ホテルのロビーのような天井が高くて、窓の外の景色も開けているところや、旅先で草原のようなところにいると、時間の流れがゆったりした感覚になります。

もしかして、時間そのものは平等だけれど、時間感覚は違うのかもしれない。

なんだか無限の可能性を感じて、一気に興味が湧きました。

 

調べてみると、時間の概念には、時計によって計測される客観的時間(絶対的時間)と、私たちの判断によって成立する主観的時間(相対的時間)の2種類があるといいます。

前者はまさに「1日24時間は平等」のことで、後者は変幻自在の可能性を秘めています。

「あっという間に時間が過ぎる」ときもあれば、「まだ15分しか経っていないのか……」というときもあります。

このように感じた経験は誰しもがもっていることでしょう。

 

いくつか研究を調べてみると、私たちの主観的時間には次のような要素が関係していることが分かっています。

まずは、空間の広さ。

やはり、広々とした空間にいると、時間を長く感じるようです。

身体の代謝でも違いがあるようで、代謝が激しいときには時間が長く、逆に代謝が落ちているときには短く感じられるようです。

イメージが湧きやすいのは感情でしょうか。

快い感情状態のほうが時間が短く、不快な感情状態のほうが長く感じられるようです。

特に、恐怖を感じているときは、時間をゆっくり感じることがわかっています。

「楽しい時間はあっという間」というのは誰しも経験がありそうです。

出来事の多さも関係していて、出来事の数が多いほど時間を長く感じるようです。

この知見は、若いときのほうが時間をゆっくりに感じて、年をとるとあっという間に感じられるという年齢による時間感覚の違いの説明にも使われています。

新しい情報の多さも同様で、新しい情報が多いと、脳が処理を終えるまでに時間がかかるので、時間が長くなったように感じるようです。

このほかにも、検討されている要因がさまざまにあり、これらの知見を活用して、主観的時間を操って、ライフハック的に活用するというのもひとつの方法です。

ちまたには時間管理術系の本があふれているので、ニーズも高そうです。

例えば、広々とした空間の中で仕事をしてみたり、新しい人に会ったり、新しいことを学んだり、行ったことのない場所を訪ねたりして、「あっという間に時間が過ぎていく」生活を変えてみる、というのも面白そうです。

 

ただ、一度立ち止まって「時間」からすっかり離れてみることで、自分と時間のつきあい方を見直してみるところから始めるというのはいかがでしょうか。

時計が普及していなかった時代。

日本では、つい200年ほど前の江戸時代には、お寺の鐘でおおよその時がわかったくらいで、日が昇って沈むのに合わせて活動をしていました。

今のように腕時計もない、もちろん携帯電話の時計機能もない生活です。

時間は目に見えない、触れられないものです。

人から「こう使いなさい」と決められるものでもなく、「自分でつきあい方を選ぶ」ことのできるものともいえます。

私たちが主体になって、どう付き合うか、どう過ごすか決めてもいいのです。

 

試してみたところ、時計から離れて1日過ごす、というのは、想像以上に難しいものでした。

電車に乗ろうとすると、時刻案内が目に入ったり、誰かとの約束があると、否が応でも時計を意識せずにはいられません。

何も予定のない一日をつくって、家中の時計を伏せて、携帯もオフにして、テレビやラジオからも離れて過ごしてみることが必要です。

自然の多い旅先で、予定のない一日を過ごす、というのが始めやすいかもしれません。

けれど、そうして過ごしてみた時間とその時の感覚は、とても新鮮で、これからの人生、どんなふうに時間を過ごしていきたいか、考えるきっかけを与えてくれました。

 

師走と呼ばれる12月。

師匠の僧がお経をあげるために、東西を馳せる月、というのが由来だそうで、なんとも慌ただしいイメージがあります。

年が明ければ、「一月は往ぬる、二月は逃げる、三月は去る」と駆け抜けるように、あっという間に過ぎてしまうとも言われます。

そんなシーズンの前に、時から解き放たれた一日を過ごして、「自分と時間の関係」を思いっきり味わってみませんか。

 

【参考文献】

David, M. Eagleman. (2008). Human time perceptions and its illusions. Current Opinion in Neurobiology, 18(2), 131-136.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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