皆さんは、「NO」と言いたいときに、言うことが出来ますか?

 

「私は〇〇したくありません。」

「違うと思います。」

「それは間違っているんじゃないでしょうか。」

「私の好みとは違います。」

「別の方法がいいと思います。」

 

などなど。

私自身を振り返ってみれば、「NO」と言うことが、とても苦手でした。

今でも私にとって、「NO」と言うのは勇気がいることですが、少しずつ前進している手ごたえは感じています。

最初に転機となったのは、大学院時代に出会った教授に言われた一言でした。

 

NOが言えない人のYESは、本当のYESじゃない」

 

当時の私に、その言葉はグサッと刺さりました。

NOと言えない。

嫌なものを嫌と言えない。

果たして、このままでいいのだろうか。

 

YES」は一見、平和です。

相手を受け容れているように見えます。

けれど、自分が本当に言いたいことを口にできないということは、本当の自分を見せられない、ということでもあります。

その上に成り立つ関係性に果たして意味があるのでしょうか。

振り返ってみれば、私自身が「NO」と言えなかった一番の理由は、相手に嫌な顔をされるのが怖かったから、でした。

NO」と言うことで、関係が悪くなってしまうことや、相手との距離が広がってしまうこと、孤立してしまうかもしれないこと、それらを恐れていたのです。

他にも、人によって、さまざまな理由があるかもしれません。

 

自分の評判を落としたくない。

嫌われたくない。

相手から見捨てられたくない。

 

NO」が言えないうちに、そもそも「自分がどうしたいかわからない(YESなのかNOなのかもわからない)」という事態に陥ることもあると思います。

 

NO」を言うことが難しいのは、私に限ったことではないようで、心理学のソーシャル・スキル・トレーニングという対人関係のスキルトレーニングには、「断る」ことをテーマに練習する内容が含まれています。

いかに「NO」と言えるようになるか。

いかに断れるようになるか。

こういったスキルが取り上げられてきました。

 

けれど、最近、ふと気づいたのです。

逆の発想も大事なのではないか。

冒頭の問いを、こんな風に変えてみたいと思います。

 

皆さんは、誰かから「NO」と言われたときに、それを受け容れることができますか?

 

私たちは同じように、「NO」と言われることも苦手なのかもしれません。

誰かから「NO」と言われると、拒絶されたように感じてしまい、「それならもういいよ」と嫌な顔をしたり、相手を遠ざけて距離をとったり。

こういった「NO」を伝えたときの相手のネガティブな反応が、「NO」を言うことへの怖さをますます助長していく……始まりは、むしろ、こちらかもしれない、と気づいたのです。

 

NO」を伝えられること。

そして、「NO」を受け容れられること。

 

人との関係は、この両方があってこそ、築かれていくものです。

NO」は人と人との間の境界を確かめる行為でもあります。

境界があってこそ、2人の人間の間に関係が築かれていきます。

 

どうやったら上手に「NO」が言えるか。

そういったスキルのほうが取り上げられやすいかもしれませんが、相手の「NO」を尊重することから始めるのはどうでしょう。

相手が「NO」と伝えてくれるということは、「理解してくれる」という期待や信頼があるのだと思います。

NO」と伝えたときに、安全に受け取ってもらえた、と感じられると、自分が「NO」と言うことには意味がある、しかもそれが関係を壊すことにはつながらない、と学ぶことができます。

 

これは、私たちが、子どもと関わるときに渡せるバトンでもあります。

子どもたちが、「NO」という意思表示をしたとき。

無視したり、「YES」を無理強いすることなく、それを尊重することで、「NO」を言うことには意味がある・効果があると感じられるようになります。

それは、関係をつくるうえでも、自分を守るうえでも、一生ものの力になるはずです。

 

【参考文献】

相川 充 2002 人づきあいの技術社会的スキルの心理学― サイエンス社.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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