最近、取材を受けることの多いトピックに「SNS上のコミュニケーション」があります。

インターネット上の炎上や誹謗中傷に注目が集まっているからかもしれません。

感情、中でも特にネガティブ感情について研究をしてきた立場から、「妬み」という感情について話をしています。

妬みとは、「他者が自分よりも何らかの点で有利な状況にいることを知ることによって生じる不快感情」と定義されています。

誹謗中傷をしているのは、ネットユーザーの約0.5~1%で、ごく少数である、という調査結果がありますが、誹謗中傷のコメントを実際に書き込む、とまではいかなくとも、誰しも、こんな気持ちになったことはあるかもしれません。

 

「仕事もプライベートも順調そうで羨ましい」

「なんであの人ばっかりうまくいってるんだろう」

 

SNSは、人と自分を比べやすいツールだと思います。

以前は知ることのなかった、有名人の日常生活や、友人のプライベートの様子をかんたんに目にすることができます。

その結果、私たちは、羨むような、妬むような気持ちをもつ機会も増えているのかもしれません。

中には、見るとモヤモヤした気持ちになるのはわかっているのに、どうしても気になってしまって、見ずにはいられない、なんていう場合もあります。

 

対策としておすすめなのは、「基準を自分に取り戻す」ことです。

もっとシンプルに言ってしまうと、次のように自分に問いかけるのです。

 

それって、本当に自分の人生にとって、大事なこと?

 

多くの場合は、こうして立ち止まることで、落ち着きを取り戻すことができます。

友達がいい車に乗っている写真を見て、ものすごくモヤモヤしたけれど、よくよく考えてみれば、私は車好きでもなければ、そもそも運転だって苦手だし、いい車を持つことは、私の人生にとって、全然大事なことじゃない。

こう気づくことができれば、なんであんなに気になっていたんだろう?と不思議になるくらい、モヤモヤを手放すことができます。

 

でも、もしそれが、自分にとっても大事なことだったとしたら?

私が博士課程で5年間研究した、「見返しをする」という行動が応用できると考えています。

もともとは、怒りの研究で扱っていた現象でしたが、羨んだり妬んだりというときにも活用できると思っています。

見返しのプロセスはこうです。

まず、妬みや怒りが出てきたときに、相手ではなく、自分の成長にフォーカスするのです。

そして、自分の成長につながるような努力行動をとることに結びつけます。

妬みや怒りを、自己成長のための行動の原動力にするのです。

行動を続けているとどうなるか…研究の結果では、徐々に相手のことが気にならなくなる・どうでもよくなる、という境地に達することがわかりました。

 

先ほどの車の例でいうと、こうです。

自分に大事かと問いかけてみたら、やっぱり、自分も車が大好きで、好きな車に乗りたいと思っている。

そんなとき、相手を羨んだり、自分と比べて苛立ちを感じてモヤモヤするのではなく、好きな車に乗れるような自分になることを目指すのです。

これは、物質的なことだけでなく、内面的なことでも同様です。

 

研究をする中で、論文のタイトルを英語表記する必要が出てきたのですが、「見返しをする」という表現は日本語に独特のようで、英語訳を調べても、「報復・仕返し」と区別できるような言葉が見当たりませんでした。

そこで、私があてたのが「prove myself」でした。

自分で自分を証明する、というニュアンスです。

見返しをすることのプロセスを5年間かけて丁寧に調査・分析してきて、一番しっくりきたのがこの表現で、今でも気に入っています。

 

他人と自分を比較して、モヤモヤしたとき。

振り回されたくないのに、誰かと比べて、そこから離れられないとき。

 

“prove myself”

 

この言葉を思い出してみてください。

少しずつでも、自分のため、自分の成長のために行動を続けることで、きっと手放すことができます。

そしてそれは、他の誰でもない、あなたにしかできないことなのです。

 

【参考文献】

Lange, J., & Crusius, J. (2015). Dispositional envy revisited: Unraveling the motivational dynamics of benign and malicious envy. Personality and Social Psychology Bulletin, 41, 284–294.

見返しと仕返しのプロセスについての検討.(2010).日本心理学会大会発表論文集74(0).

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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