新型コロナウイルス感染拡大によって、私たちは新しい働き方を経験しています。

私自身、緊急事態宣言が発令された2020年47日以降、大きく変わってきたと体感しています。

これまでは選択肢のひとつでしかなかった在宅勤務に、職場全員で一斉に取り組むことになった、という会社もあるかもしれません。

 

在宅勤務になって、私たちの生産性はどう変わったんだろう?

純粋な疑問が浮かんできます。

そんな時に、ハーバードビジネススクールの組織行動ユニットの准教授主導のもと行われた新型コロナウイルス影響下の働き方に関する実態調査の結果を見て、驚くと同時に、「人間ってタフだ!」と勇気づけられました。

結果の一部を紹介すると、こうです。

 

「従業員たちは組織のリーダーが予測したよりも迅速に適応し、以前と同じパフォーマンスレベルに戻っていると認識していた。」

 

「最初の2週間は満足度とエンゲイジメントは急激に低下する。しかし、2カ月後には急激に回復していた。」

 

「ストレス、ネガティブな感情、タスクに関連するコンフリクトは在宅勤務開始時に比べて10%減少、同時に、自己効力感と仕事に注意を払う能力が10%向上した。」

 

在宅勤務によって、1020%労働時間が長くなっている、同じチームメンバー間でのコミュニケーションが40%増加した一方で、他のチームメンバー間とのコミュニケーションが10%減少しており、イノベーションやコラボレーションへのネガティブな影響がある、といった気になる点はあるものの、「おおよそ2カ月ほどで回復しているなんて!人間の適応力って、やっぱり凄い!」というのが率直に感じたことでした。

自分の体験を振り返ってみても、慣れないやり方に戸惑うことや、疲れを感じること、不便に思うこと、もちろんありましたが(今もありますが)、適応できてきているところもあるのでは、と見え方が変わってきました。

 

✓3月に生まれて初めて使ったツールが使えるようになってきている

✓オンラインでの会議のやり方にも少しずつ慣れてきている

✓在宅と出勤それぞれの特徴に合わせた時間の使い方を工夫できているところもある

 

など。

 

「人間の適応力」というと、心理学の研究テーマで思い出すのは「レジリエンス」と呼ばれる概念です。

「人生における避けられない逆境に対処し、それを乗り越え、そこから学び、その逆境によって自らが変わる、人間のもつ能力」と定義されています。

今回のような環境変化を乗り越えるために必要な、人間の適応力ともいうことができます。

 

「働き方」という観点からいえば、キャリア形成に特化したレジリエンスについても、研究が進んでいます。

「キャリアレジリエンス」と呼ばれ、「環境の変化に適応し、ネガティブな仕事状況に対処する個人の能力」ととらえられています。

withコロナ時代の新しい働き方を身につけていく上で、大事にしたい力です。

主に5つの能力に分けられています。

 

①長期的展望

「失敗しても次に活かせることを学ぶ」、「すぐに諦めない」など、長期的な展望をもつこと。

 

②継続的対処

「ものごとが思い通りに進んでいても、それに安心せずに次のことを考える」、「思い通りにいかないことがあっても、やり続ける」など、対処し続けること。

 

③多面的生活

「仕事以外の時間の充実」、「仕事以外の楽しみや趣味ももつ」など、仕事以外の生活の面を大事にすること。

 

④楽観的思考

「困ったときでも『なんとかなるだろう』と思える」など、将来を楽観的に捉えること。

 

⑤現実受容

「必要に応じて目標のレベルを下げる」、「現実に合った目標をたてる」など、現実を受容する柔軟性があること。

 

この数カ月、新しい働き方に適応するために、私たちは試行錯誤してきました。

ちょっと疲れが溜まってきているかもしれませんが、夏休みに休みをしっかりとって、休み明けから、キャリアレジリエンスの視点をもって、さらなる適応を目指しませんか。

私たち人間の適応力を信じて。

 

【参考文献】

The implications of working without an office.

高橋美保・森田慎一郎・石津和子.(2015).成人版ライフキャリア・レジリエンス尺度の作成.臨床心理学15(4).507-516.

Noe, R. A., Noe, A. W., & Bachhuber, J. A. (1990). An in vestigation of the correlates of career motivation. Journal of Vocational Behavior, 37, 340–356.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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