5月25日に、全国で緊急事態宣言が解除されました。
4月7日の宣言以降、地域によって期間の差はあれど、最大でちょうど7週間、49日続いたことになります。
「Stay Home」が謳われ、仕事はなるべく在宅勤務に、学校もオンライン授業などに切り替えられました。
私たちが共通して経験したことのひとつに、「場所」という感覚の喪失があるといえます。
毎日のように通っていたオフィス、教室、趣味で通っていたヨガ教室、ジムやプール、休日の定番だった図書館や美術館、なじみの居酒屋や飲食店。
行くことが叶わなくなった場所があったのではないでしょうか。
それは、私たちにとって大事な「居場所」のひとつだったかもしれません。
「居場所」といえば、私が大学院の修士課程に在籍していたころ、同じ研究室にいた同級生が研究していたテーマでした。
研究会でディスカッションしていた頃が懐かしくもあり、今こんなふうに居場所のことを考えるタイミングがくるとは思ってもみませんでした。
心理学の領域では、「居場所」をテ–マとした研究は、不登校が社会問題化してきた1980年代頃から行われ、児童期や青年期を対象とした研究が蓄積されてきました。
現在の状況を考えてみれば、リモートワークやオンラインでの交流へと移り変わる中、児童だけでなく、私たちみんなにとって、近しいテーマになったといえます。
「居場所」には物理的な側面ももちろんありますが、心理的な側面にも注目して「心の拠り所となる関係性、および、安心感があり、ありのままの自分を受容される場」と定義されています。
その要素として、主に4つが挙げられます。
「本来感」(自分らしくいられること)
「役割感」(役に立っていること)
「被受容感」(受け容れられていること)
「安心感」(安心していられること)
こう書くと、組織や集団の中での「居場所」がイメージされるかもしれませんが、「自分ひとりでいる場所」も居場所のひとつです。
家族みんながStay Homeする中、そんな場も失われた居場所のひとつかもしれません。
私たちがこれまで深く考えることなく、所属したり、通ったり、ただそこにいた場所の数々。
それぞれは、どのような意味をもっていたのでしょうか。
新型コロナウイルスが流行し始めてから発表された、こんな新しい論文もあります。
「コロナウイルスによる苦しみを乗り越えるために、インターネット心理学とバーチャル・リアリティ(VR)が、私たちにどのように役立つか」
物理的な場所や所属する感覚を失った喪失感に対して、VRが役に立つ可能性を示しています。
特別な機器がなくとも試せる身近な方法としては、Google Mapのストリートビュー機能を活用して、慣れ親しんでいた場所や、旅行に行ってみたい場所に「行ってみる体験」をしてみるというものがあります。
どんな心理的効果があるのか、興味津々です。
まさにこれから発展していく学問領域といえます。
オンラインやリモートが主流・前提の中でのリアルな場所の意味や価値、VRの活用が主流になったときのリアルな体験の意味や価値。
大事にしてきた居場所、そして、これから大事にしていきたい居場所。
一度離れてみた私たちだからこそ、考えられるチャンスかもしれません。
【参考文献】