しあわせ~って、なんだーっけ、なんだーっけ……♪

 

明石家さんまさんのキッコーマンのCMをご存知でしょうか。

私は、一度目にしてから(耳にしてから?)、時々このフレーズが頭の中をぐるぐるまわることがあります。

見たことがない、という方はYoutubeで見てみてください。

元祖は1986年、そして23年の時を経て、2009年に同じフレーズでのCMが放映されました。

1986年といえば、平成に向かう景気成長が進んでいた時代。

男女雇用機会均等法が制定されたのも、この年でした。

もしかしたら、「幸せ」といえば、結婚して子どもを産んで、庭つき一戸建て、マイカーのある生活、そんなイメージが主流だった頃かもしれません。

2009年はどうでしょう。

みずほ総合研究所株式会社のレポートによると、「幸福のパラドックス」が指摘され始めた頃です。

内閣府の「国民生活に関する世論調査」によると、戦後から2009年にかけて1人あたりGDPは5~6倍になったにもかかわらず、国民の幸福度は1958年(昭和33年)からほとんど上昇していなかったのです。

2009527日には鳩山首相が党首討論で「社会のきずながズタズタに切れてしまっている。一人ひとりに居場所がない。きずなのある、居場所を見出して、他人の幸せを自分の幸せと思えるような、そんな世の中にしたい」と発言していました。

2009年末の政府の「新成長戦略」では、数値としての経済成長率や量的拡大のみを追い求めるそれまでの成長戦略とは一線を画し、国民が本質的に求めているのは「幸福度」(Well-being)の向上であり、それを支える経済・社会の活力である、とされました。

 

さて、2020年。

新型コロナウイルスの影響から時代の変化を今まさに経験している私たちですが、改めて、しあわせって、なんだっけ。

心理学では「Well-being」という言葉で研究されている学問領域なのですが、なんとも捉えどころがないのです。

私自身、何度も「Well-being」についての研究論文を読んでいるはずなのですが、「Well-beingってなんですか?」と聞かれても、ぱっと答えられません。

もしかしたら、私自身の、自分の人生における「幸せ」も、「これが私の幸せ!」という明確なものがあるわけではなく、手探り状態。

それもあいまっているのかもしれません。

 

そんな中、「Well-being」の定義をアップデートすべきではないか、そんな提案をしている論文を紹介したいと思います。(【参考文献】を参照)

2005年から、世界最大の世論調査会社であるギャラップ社が各国のWell-beingを測定しています。

このデータを活用して、国連は2012年から「世界幸福度報告」を発行するようになりました。

ニュースで「日本の幸福度ランキング」というのを目にしたことがあれば、このレポートのことを指しています。

毎年、320日の国際幸福デーに発表されるのですが、2020年は153カ国のうち、日本は62位でした。

「高くないのか…」とガッカリする前に、どうやって測定されているのかを見てみましょう。

実はとてもシンプルで、「自分の幸福度を0から10の10段階で自己評価した主観の平均」が使われています。

紹介している論文では、この測定方法は、西洋的な価値観によっており、文化的、宗教的、または地域的な違いを加味すべきではないかと指摘しています。

具体的には、次の9つを含めてはどうか、という提案がされています。

ひとつひとつ、見ていきましょう。

(日本語は筆者がつけたものですので、参考程度にご覧ください。)

 

Proposal 1—Relationship to nature: “I feel connected to nature and all of life.”

「自然とすべての生命とのつながりを感じます」

 

Proposal 2—Mastery: “I am capable of dealing with life’s challenges.”

「生きるうえでぶつかる困難に対処することができます」

 

Proposal 3—Meaning in Life: “My daily activities seem worthwhile to me.”

「日々の活動は私にとって価値があるものです」

 

Proposal 4—Low-arousal emotions: “Did you feel calm and at peace yesterday?”

「昨日、穏やかな気持ちで過ごしましたか?」

 

Proposal 5—Balance and harmony: “The various aspects of my life are in balance.”

「人生のさまざまな側面が調和をもっています」

 

Proposal 6—Relationship to group: “My happiness depends on the happiness of people close to me.”

「私の幸せは、私のそばにいる人たちの幸せによっています」

 

Proposal 7—Relationship with government: “To what extent do you feel that your government and/or society respects people for who they are (for example, their culture, religion, sexual, or political orientation)?”

「政府や社会は、文化や宗教、性的指向や政治的指向といったその人をその人たらしめるものをどれくらい尊重していますか?」

 

Proposal 8—Leisure: “To what extent are you satisfied with how you spend your free time?”

「余暇の時間の使い方にどのくらい満足していますか?」

 

Proposal 9—Resilience: “When life is difficult, I recover quickly.”

「人生で困難があるときも、すぐに前進します」

 

この提案のきっかけとなったのが、京都にある妙心寺春光院で開催されたwell-beingについて考えるサミットだったというのも興味深いと思いませんか。

繰り返しになりますが、Well-beingの実態は、まだまだ研究発展途上なのです。

ひとつひとつを吟味して、私たちひとりひとりが、付け加えたり、異を唱えたりしてもいいと思うのです。

 

しあわせって、なんだっけ。

もしかえって、モヤモヤさせてしまったのなら、ごめんなさい。

でも、そのモヤモヤを探っていった、その先にこそ、私たちの幸せの答えがある気がしてならないのです。

一緒に考え続けてみませんか。

 

【参考文献】

Louise Lambert, Tim Lomas, Margot P van de Weijer, Holli Anne Passmore, Mohsen Joshanloo, Jim Harter, Yoshiki Ishikawa, Alden Lai, Takuya Kitagawa, Dominique Chen, Takafumi Kawakami, Hiroaki Miyata, Ed Diener. Towards a greater global understanding of wellbeing: A proposal for a more inclusive measure. International Journal of Wellbeing, 10(2), 1-18. doi:10.5502/ijw.v10i2.1037.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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