人は誰でも老いを避けられませんが、「運動」は老化防止に役立つ方法のひとつです。「若い頃はもっと運動していたのだけど……」という方も、今より先の未来、もっと健康な生活をしたいのであれば、運動を始めるのに年齢は関係ありません。今回は、運動が老化防止にもたらす効果と、加齢に伴う運動機能の低下、高齢者の運動習慣について解説します。

老化に伴う運動機能の低下

老化に伴う運動機能の低下

老化とは、生まれてから死ぬまでの間の加齢変化ととらえることもできます。しかし、一般的には、老化とは成熟期以降に起こる生体の変化をいいます。若い頃と比べると、老化によって運動機能の多くは低下しますが、性別や日常の活動度などさまざまな要素により個人差が生じます。運動機能の低下が始まる時期や低下の程度も個々で異なり、その差は高齢になるほど大きくなります。※1

運動機能を低下させる原因として、次のようなものが挙げられます。※1

形態的要素 身長、体重、姿勢の変化、骨・関節の変化など
運動学的要素 筋力、筋持久力、筋パワー、敏捷性、協調性、平衡性、柔軟性など
呼吸循環要素 換気量、肺活量、心拍数、血圧、心拍出量など
精神・神経要素 知能、神経伝達速度など

関連記事:老化とは何か?定義や原因、症状について解説

関連記事:加齢による体の変化と高齢者の身体的特徴

加齢に伴う筋量と筋力の低下

筋肉は、使われなくなることで筋線維タンパク質を壊す因子のはたらきが活性化し、筋萎縮が進むことが知られています。

また、年齢によって筋肉の量(筋量)や質(筋力)が低下することもわかっています。75歳以上の男性では筋肉量が年間0.8~0.98%減少、筋力が年間3~4%低下し、女性では筋肉量が年間0.64%~0.7%減少、筋力は年間2.5~3%低下するといいます。※2

加齢により筋量や筋力が低下する現象は、サルコペニアとよばれています。サルコペニアは転倒や骨折につながり、寝たきりの原因となることもあります。サルコペニアを予防し、健康寿命を延ばして明るく元気なシニア生活を可能にするためにも、高齢になる前から筋肉を鍛えることが大切です。

さらに、因果関係はわからないものの、死亡率と筋力の逆相関も報告されており、筋力維持の重要性については疑いの余地はないといえるでしょう。※3

未だすべてが解明されたわけではありませんが、筋肉に存在する筋衛星細胞(サテライト細胞)が、筋肉の肥大に関わっていると考えられています。筋トレを行うことにより筋線維は多少なりとも傷つけられ、サテライト細胞が増えるきっかけとなり、その結果として筋線維に核を提供するからだとされています。※4

活性化したサテライト細胞は筋肉の細胞へ分化し、筋芽細胞となります。これらは互いに認識すると融合して1本の筋線維を作り、壊れた筋肉を再生するといわれています。

筋肉と老化の関係性について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:筋⾁と⽼化の関係性とは?サルコペニア予防や関連するAging Hallmarksについても解説

高齢者の運動習慣

高齢者の運動習慣

筋トレなどの運動は、健康的なシニア生活を実現するために大切であり、生活習慣として上手に取り入れることが理想的です。

厚生労働省の「令和元年国民健康・栄養調査報告」によると、高齢者の運動習慣の有無について、次のように報告されています。なお、ここでいう「運動習慣あり」は、1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続していると回答した人のことです。※5

20歳以上60歳未満 60歳代 70歳以上
男性 女性 男性 女性 男性 女性
運動習慣あり 22.4% 16.3% 35.5% 25.3% 42.7% 35.9%
運動習慣なし 77.6% 83.7% 64.5% 74.7% 57.3% 64.1%

引用:e-Stat. 令和元年国民健康・栄養調査. 第60表 運動習慣の有無 – 運動習慣の有無,年齢階級別,人数,割合 – 総数・男性・女性,20歳以上.

また、1週間の運動日数について、20歳以上60歳未満、60歳代、70歳以上で比較すると、いずれの年齢階級においても、まったく運動していない人の割合が最も多くなっています。運動している人の運動日数は年齢層によりバラつきがありますが、男女では似たような傾向があるようです。※6

男性 n=1,218 女性 n=1,596

20歳以上60歳未満 60歳代 70歳以上
男性 女性 男性 女性 男性 女性
運動なし 52.6% 61.0% 47.4% 48.0% 40.4% 39.0%
1日/週 14.5% 12.1% 7.0% 10.4% 5.7% 12.0%
2日/週 10.3% 7.5% 8.4% 7.6% 7.4% 10.2%
3日/週 6.8% 5.3% 10.1% 8.7% 7.4% 9.8%
4日/週 2.6% 2.9% 4.2% 4.4% 5.7% 4.6%
5日/週 4.8% 3.8% 5.9% 3.5% 4.4% 4.6%
6日/週 1.1% 1.6% 3.1% 1.6% 2.7% 3.6%
7日/週 7.2% 5.7% 13.9% 15.8% 26.3% 16.2%

引用:e-Stat. 令和元年国民健康・栄養調査. 第60表 運動習慣の有無 – 運動習慣の有無,年齢階級別,人数,割合 – 総数・男性・女性,20歳以上.

運動の老化防止効果

運動の老化防止効果

ここからは、運動による老化防止の効果について考えてみましょう。

サルコペニアの改善法その1 スロトレ

習慣的に運動をして筋肉量を増やし、筋力をつけることで、サルコペニアを予防することができます。しかし、定期的に運動していても、運動の内容によってはサルコペニアの予防や改善につながっていない可能性があります。では、どのような運動がサルコペニアの予防や改善にとって効果的なのでしょうか。

筋肉には、収縮が速い「速筋」と収縮が遅い「遅筋」があります。瞬発力を必要とするウェイトリフティングや短距離走などでは速筋が使われます。一方、遅筋はウォーキングや長距離走などで使われます。

サルコペニアによる筋力の低下は、速筋線維の萎縮や減少によるものです。つまり、普通のウォーキングのようにゆるやかな運動だけでは遅筋は鍛えられても速筋を鍛えることにはならず、サルコペニアの予防や改善には至らないということです。サルコペニアの予防や改善のためには、やや強めの運動を行う必要があるのです。速筋の繊維に影響を与え、筋力を高めるためにはレジスタンストレーニング(筋トレ)が効果的であり、強度を高めた筋トレであれば十分な効果が得られると考えられます。※7

しかし、筋トレで充分な効果を得るために必要な運動強度は、80% 1RM※といわれています。これは「1回が限界である負荷を最大8回まで反復できる」強度を示しており、この強度で起こる体の生理学的変化には注意を払わなくてはなりません。80% 1RMは健康な若い人でも血圧がかなり上昇する運動強度であり、高齢者がいきなりこのような強度で運動することは危険が伴い、骨や関節を傷める可能性もあります。※7

そこで、運動強度は低いまま効果を得られる運動として、ゆっくりと動作してトレーニングを行う筋発揮張力維持スロー法(スロートレーニング、スロトレ)をおすすめします。負荷強度としては30%くらいの力を出し続ける動作で、自分の力で自分の筋血流を抑制する仕組みです。スロートレーニングであれば、負荷強度は30%程度でよいことがわかっており、安全かつ効果的な筋トレが可能です。※7

※1RM……1回で持ち上げることができる最大重量RM:Repetition Maximumの略。反復可能最大重量

サルコペニアの改善法その2 高強度間欠的運動

また、近年では短時間の高強度間欠的運動による筋トレ効果が注目されています。高強度間欠的運動とは、休憩を挟んだ全力運動のことです。これを短時間実行した場合に得られる効果については、これまでの研究で最大酸素摂取量※やエネルギー代謝に対する効果が明らかになっていますが、新たに筋肉に対する影響についての研究報告がありました。

早稲田大学スポーツ科学学術院の川上泰雄氏らが行ったこの研究では、「10秒の全力スプリントを80秒の休憩時間を挟んで4本」行う場合と、「20秒の全力スプリントを160秒の休憩を挟んで2本」行う場合を比較しました。この2種類の運動で、総運動時間とスプリント時間と休憩時間の比率を1:8に統一したところ、わずか40秒の高強度間欠的運動で、大腿部の主な筋群の活動が増大したことなどがわかりました。※8

限られた時間で効率よく全身持久力や大腿部の筋肉量・筋力の改善が期待できる結果であり、アスリートのみならず、一般の病気予防や加齢による筋肉量・筋力低下の予防になるのではないかと考えられています。ただし、運動に不慣れな人にとっては簡単な運動とはいえないため、より広く活用できる運動のひとつの形として今後のさらなる検証にも注目が集まっています。

※最大酸素摂取量……1分あたりの酸素摂取量の最大値で、全身持久力の指標とされる

運動による抗細胞老化効果のメカニズム解明

運動が老化防止に対して効果があることは知られており、またそうした効果は多くの病気において治療法のひとつとして利用されています。反対に、運動をしないことは老化や病気の原因となります。

私たちヒトは、加齢によって老化細胞が蓄積していきます。老化細胞は、さまざまな生命現象に影響を与える化合物を分泌するSASP(senescence-associated secretory phenotype)とよばれるものになり、近くの細胞に影響を与えます。この作用が、組織を老化させたり病気を引き起こしたりすると考えられています。
ある研究では、老化細胞を除去したところ、病態の軽減や、加齢によって低下した組織の機能回復などが明らかになったといいます。※9

また、運動習慣のある人とそうでない人を比べた複数の研究によって、運動習慣のある人は末梢組織での細胞老化を示す指標が出にくいことがわかっており、同様の結果が動物実験でも示されています。※10

さらに、最近の研究では、細胞老化を抑えることができる因子が筋芽細胞から分泌されていることがわかりました。この因子について次のような検証が行われ、すべてに対して前向きな結果が出ています。※11

  • 生体内で運動によってこの因子の発現が上昇するか
  • 生体内組織でこの因子が細胞老化を抑えることができるか
  • この因子が加齢性の病気に対して効果があるのか

こうした研究はまだ途上であり、すべてが明らかになったわけではありません。ただ、細胞老化を抑えることができる因子は運動によって分泌されるということ、そして加齢によって少なくなるということは明らかになっています。サルコペニアには細胞老化も関わっていることからも、今後さらなる研究が進み、治療薬などに応用されることにも期待したいところです。

運動の老化防止効果に関する最新研究

筋肉量は加齢に伴い減少すること、運動によって維持できることは、これまでの研究などでわかっていましたが、最新の研究ではさらに進んだ報告がみられました。近年行われた研究を2つご紹介します。

運動が筋肉幹細胞の機能改善にもたらす影響についての研究

加齢によって減少するのは筋肉量だけではなく、筋肉の再生能力や修復能力も低下します。こうした現象に関わっていると考えられるのが、MuSC(筋肉幹細胞)の数的減少と再生能力の減退とされています。※12

2020年にスタンフォード大学のJamie O. Brett氏らによって発表されたこの研究では、再生能力を減退させず維持することと運動との関係について調査が行われました。動物実験ではありますが、若年のマウスと老齢のマウスに自発的な運動を3週間続けさせたところ、老齢のマウスにおいて筋肉の修正の加速と、MuSCの機能改善がみられたといいます。若年のマウスでは見られなかったこの変化は、加齢により休眠状態にあった特定のタンパク質量が、若いときのレベルにまで回復した結果ではないかと考えられています。つまり、年齢を重ねても運動を続けていれば、若い頃のような筋肉の修復能力が維持できることを示唆しています。※12

現段階ではヒトに対しても同じことが通用するのかどうかは不明ですが、運動が老化防止にもたらす効果の可能性が、またひとつ広がったといえるのではないでしょうか。

運動による衝撃が高齢者の骨密度に与える影響についての研究

2024年、フィンランドにあるユヴァスキュラ大学のT Savikangas氏らは、1年間にわたって行われた運動介入試験「PASSWORD-study」に基づき、運動による衝撃が大腿骨頸部に与える変化について報告しました。大腿骨頸部とは、股関節の足のつけね側にある大腿骨のうち、骨盤と近いところにある部位をいいます。

この研究では、運動の禁忌がなく、高齢者の身体活動ガイドラインの推奨レベルに満たない(日常生活であまり運動をしていない)ことを自己申告した平均年齢74歳の男女299人を対象として、筋力、姿勢バランス、有酸素持久力の向上を目的とした多要素トレーニングプログラムが行われました。運動にあたっては加速度計を用いて運動の強度と衝撃を測定し、試験開始時および12か月後に、2種類の異なるX線を照射するDXA法で大腿骨頸部の骨密度(BMD)などを測定しました。※13

結果として、骨の形成につながる活動を指数化した骨形成指数平均スコア(Osteogenic Index)と、中度から強度の運動、そして高強度の衝撃には正の相関関係が認められました。

また、運動の強度が高いほど、大腿骨頸部の骨密度は低下しにくいことも示唆されました。骨の形成および骨密度の低下予防に効果的とされる運動強度としては、非常にスピードのある早歩きや、軽い横方向のジャンプなどが挙げられます。このように激しい衝撃を伴う運動は、高齢者の骨の健康にとって有益であることが裏付けられました。※13

運動習慣を続けていればサルコペニアは予防できる

年齢を重ねると、何かと理由をつけて運動しなくなってくる人も多いのではないでしょうか。一方で、一定以上の年齢になると健康を意識し、少しずつ運動を始める人もいるでしょう。実際、「令和元年国民健康・栄養調査」の結果からは、運動習慣のない人は20歳代から50歳代に向けて増え、60歳以上になると逆に減ることがわかります。

近年行われている研究からも、「高齢者でも運動を続けていれば筋肉量や筋力が維持できる」ことがわかってきました。未来の明るいシニア生活に向け、自分なりの運動習慣を無理なく身につけていきましょう。

参考資料

※1 丸山仁司. (1997) 老人の評価. 理学療法科学. 12(3). 141-147.
※2 W. Kyle Mitchell et al. (2012) Sarcopenia, dynapenia, and the impact of advancing age on human skeletal muscle size and strength; a quantitative review. Striated Muscle Physiology, Vol3 2012
※3 Jonatan R Ruiz et al.(2008) Association between muscular strength and mortality in men: prospective cohort study. British Medical Journal, 2008 Jul 1;337(7661):a439.
※4 William Roman et al.(2021) Muscle repair after physiological damage relies on nuclear migration for cellular reconstruction. Science, 2021 Oct 15;374(6565):355-359.
※5 e-Stat. 令和元年国民健康・栄養調査. 第60表 運動習慣の有無 – 運動習慣の有無,年齢階級別,人数,割合 – 総数・男性・女性,20歳以上.
※6 e-Stat. 令和元年国民健康・栄養調査. 第58表 1週間の運動日数 – 1週間の運動日数,年齢階級別,人数,割合 – 総数・男性・女性,20歳以上.
※7 石井直方. (2018) サルコペニアのメカニズムとその予防・改善のためのトレーニング. Functional Food Research. 14. 88-98.
※8 早稲田大学研究活動. わずか40秒の運動で身体に起こる劇的変化.
※9 Zhang L, Pitcher LE, et al. (2022) Cellular senescence: a key therapeutic target in aging and diseases. J Clin Invest 132(15): e158450.
※10 Chen XK, et al. (2021) Is exercise a senolytic medicine? A systematic review. Aging Cell 20(1): e13294.
※11 地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所. 運動による抗細胞老化効果のメカニズム解明.
※12 Jamie O. Brett, et al. (2020) Exercise rejuvenates quiescent skeletal muscle stem cells in old mice through restoration of Cyclin D1. nature metabolism. 13.
※13 T Savikangas, et al. (2024) Changes in femoral neck bone mineral density and structural strength during a 12-month multicomponent exercise intervention among older adults – Does accelerometer-measured physical activity matter?. Bone. 178: 116951.

執筆

看護師

岡部 美由紀

 

埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務。2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。一般向けおよび医療従事者向け書籍の執筆・編集協力:看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)他

この記事をシェア

編集部おすすめ記事

人気記事ランキング