成人女性のおよそ60%が悩まされるという冷え性。体が冷えやすいというだけなら病気ではありませんが、手足の冷えだけではなく、肩こりや疲れやすさ、頭痛、便秘なども引き起こす厄介な症状です。※1

冷え性の対策には、入浴や運動・ストレッチ、暖房機器の適切な使用や衣類での調整のほか、バランスのよい食事などが挙げられます。体を温め、冷え性に効果があるとされている食材もあります。この記事では、私たちの食生活でおなじみの「生姜」に注目し、冷え性に対する効果をみていきます。

生姜とは

生姜は黄緑色の花をつける植物で、世界中で栽培されています。一般に流通している「生姜」は、独特の外観から根のように感じられますが、実は肥大化した多肉の地下茎(地下にある茎)です。この地下茎には特有の香味があり、薬用、食用、香辛料として利用されています。※2、3

原産は中国、インド、日本などのアジア地域です。日本ではおなじみの食材ですが、ヨーロッパにおいてもジンジャーとよばれて親しまれています。中国では、紀元前500年頃には薬用として利用されていたことが知られていますし、日本でも古くから医療的な目的で用いられていたようです。※2

生姜の種類

生姜には、次の3つの種類があります。

根生姜

一般的に流通している生姜であり、「ひね(老成)生姜」ともよばれています。秋に収穫されますが、その後2ヶ月以上貯蔵されたものが通年出荷されるため、いつでも手に入れられます。外観は、薄茶色の皮で、丸みのある形状をしています。強い辛みと香りが特徴で、主に薬味として使用されることが多い食材です。※3

新生姜

初夏に収穫され、貯蔵されず出荷されるものを新生姜とよびます。外観は、白色の皮で、茎の付け根が赤いのが特徴です。水分量が多くて繊維が柔らかく、辛みはさわやかです。甘酢や醤油、味噌などで漬け込むことが多いです。※3

葉生姜

江戸時代に主産地であった谷中にちなんで、「谷中生姜」とよばれています。収穫は5~9月頃です。外観は、皮が白く、細くて小さい根茎に茎葉がついており、茎の付け根は赤色です。甘酢漬けにしたり、生のまま味噌を付けて食べたりします。※3

生姜の主成分はジンゲロール、ジンゲロン、ショウガオール

生姜の香り成分は50種類以上、辛み成分は200種類以上あるといわれています。原産地の違いや、生か乾燥かによって、実際に含まれる成分は異なりますが、生姜に含まれる主な成分としては、「ジンゲロール」「ジンゲロン」「ショウガオール」があります。※4

ジンゲロールは辛みのもとになる成分で、生の生姜に多く、特に皮の下に多く含まれています。ジンゲロールは酸化しやすい成分であり、加熱や乾燥によって酸化します。酸化すると「ジンゲロン」や「ショウガオール」などに変化します。※5、6

ジンゲロンは辛みのほか、香りのもとにもなります。※7

ショウガオールは、生の生姜にはほとんど含まれていません。生の生姜に多いジンゲロールを加熱したり乾燥したりすると生成されることがわかっています。※5、8

生姜の1日あたりの目安摂取量

生姜の1日あたりの摂取量の目安は10gです。生姜は刺激が強い食品なので、たくさん摂りすぎると下痢や腹痛などの胃腸症状を引き起こすことがあります。特に、もともと胃腸が弱い人は摂取量に注意が必要です。※6

生姜の効果

冷え性

生姜特有の香りや辛みに含まれる成分には、冷え性に対する効果だけでなく、さまざまな効果が期待されています。例えば、吐き気や嘔吐を抑える効果があるとして、つわり、乗り物酔い、がんの化学療法に対する研究が行われています。他にも、生姜には消化促進、免疫力向上、血行改善、冷え性改善、解熱・鎮痛などに効果があると考えられており、漢方薬の約70%に生姜の成分が使用されています。※4

また、生姜がもたらす効果は成分によって異なる部分があることもわかっています。例えば、生の生姜に多く含まれるジンゲロールには、殺菌や抗菌、がん予防、食欲増進などの作用があります。加熱・乾燥させた生姜に多く含まれるショウガオールには、体を温める作用があります。※5

また、ジンゲロンは抗菌作用に優れていることがわかっています。※3

さらに生姜の効果として知られているのが、抗酸化作用です。私たちが生きていくために取り込んでいる酸素のうち、数%は体内で酸化し、活性酸素に変換されます。この活性酸素は、細胞の老化に大きく関与しているといわれています。抗酸化物質であるジンゲロールやショウガオールを多く含む生姜は、老化対策にも効果があると考えられています。※5

冷え性の改善効果

生姜が冷え性に対して効果があることは、広く知られています。これは、生姜に含まれている成分にはエネルギー消費を高めるはたらきがあるからです。
そもそもエネルギー消費の総量は、基礎代謝、生活上で消費する身体活動で消費する生活活動代謝、食事の際の咀嚼、消化、吸収や代謝などで発生する食事誘導性熱産生(dietary-induced thermogenesis;DIT)を足したものです。1日の消費エネルギーのうち、基礎代謝が60~70%を占め、生活活動代謝が20~30%、食事誘導性熱産生(DIT)が10~15%となっています。※4

このうち、DITが汗をかいたり体を温めたりすることに利用されるエネルギーとなります。つまり、DITを効率よく増やすことができれば、体を温めることにつながり、冷え性の対策ができるというわけです。

2009年に公開された、日本大学の夏野豊樹らによる生姜抽出物と冷え性との関係に関わる研究結果を見てみましょう。
この研究では、冷え性気味の女性19名を被験者とし、プラセボ群と、食後に生の生姜10g相当の生姜抽出液を摂取する群、20g相当を摂取する群に分けて行われました。摂取から1時間ごとのエネルギー消費量の変化などを3時間まで調べた結果、1分あたりのエネルギー消費量にプラセボ群に対する有意差が見られました。※4

1時間後 2時間後 3時間後
生の生姜10g相当の生姜抽出液を摂取した群 7.4% 8.2% 6.6%
生の生姜20g相当の生姜抽出液を摂取した群 10.5% 11.6% 8.6%

生姜の辛み成分のひとつであるジンゲロンは、酸素消費量を増やし、脂肪燃焼を促進させます。そしてエネルギー消費を促進し、副腎からのアドレナリン分泌を亢進させ、交感神経のはたらきを活発にすることで、体を温めることがわかっています。※4

ただし、この研究では脈拍の増加は見られたものの、体表温が上がる結果は見られませんでした。手足などの末梢では冷えた空気に触れると体熱放散を抑制しようとする機構がはたらく体温調整の役割があることなどから、生の生姜を摂取するだけでは手足の血流増加までは結びつかなかったのではないかと考察されています。※4

では、冷え性の人の体では、どのような変化が起こっているのでしょうか。冷え性の人には、非冷え性の人と比べて次のような変化がみられるといわれています。※1

表:非冷え性の人と比べて冷え性の人にみられる変化
項目 変化
心拍数 増加傾向
交感神経 機能亢進
皮膚の血流量 低下
皮膚温 低下
寒冷刺激に対する末梢の血管収縮 過敏気味

前述の研究結果では、生の生姜を食べた人のエネルギー消費量は増加するものの、末梢の皮膚温上昇にはいたりませんでした。

一方、生姜を加熱するとできる成分ショウガオールは、生の生姜に多いジンゲロールに比べて体温上昇に効果があることがわかっています。ショウガオールには、胃や腸の粘膜を刺激することで血行を促進し、体の深部の熱を作りだすことで体を温める効果があります。※5

加熱や乾燥によって作り出されるショウガオールにもいくつかの種類があり、特に蒸し生姜に含まれる「10-ショウガオール」という成分は、唯一辛みのないショウガオールであるとの研究報告があります。辛みはないものの、やはりアドレナリン分泌を促すこともわかっており、蒸し生姜には生の生姜の約10倍ものショウガオールが含まれているともいわれています。※5、9

これらのことを総合的に考えると、冷え性の改善には、生の生姜よりも加熱したり乾燥させたりした生姜を摂取する方が効果的だと考えられます。※6

冷え性対策にもおすすめのおいしい生姜レシピ

生姜レシピ

生姜は、生で食べるか、加熱または乾燥したものを食べるかによって期待できる効果に違いがあります。その特性を生かした生姜レシピをご紹介します。

風邪をひきそうなとき、ひきはじめにおすすめの「すりおろし生姜湯」

すりおろした生の生姜にお好みで砂糖を加え、熱湯を注ぎます。ココアなど に入れてもおいしくいただけます。※5
生の生姜にはジンゲロールが多く含まれており、殺菌、発汗作用、免疫力アップが期待できます。

体を温め、冷え性改善におすすめの「生姜紅茶(ジンジャーティー)」

すりおろした生姜を紅茶に少量加えるだけでもよいですが、皮を取り除いた生姜を蒸してスライスし、天日干ししたものを紅茶に入れるのもおすすめです。※5、10

蒸して乾燥させた生姜には、ジンゲロールとショウガオールがバランスよく含まれているため、どちらの効果も期待できます。お好みのスープに少しだけ足してもよいでしょう。

生姜の風味豊かな鶏のあったかごはんスープ

和風だし汁に、長ネギ、鶏肉、洗って10分程度浸けて水を切った米を入れ、つぶしたニンニク、薄切りしょうが、塩を混ぜてから中~強火にかけます。沸騰後は、アクを取りながら弱火で40分ほど煮ます。仕上げに薬味として細ネギや、お好みで松の実やごま油を少しふりかけるのもおすすめです。※11

加熱した生姜に、さらにネギやニンニクなどの薬味をプラスすることで、血行促進や温熱のほか、発汗、免疫力アップ効果も期待できます。

冷え性=手足の冷えには温かい生姜料理を

近年、生姜による体への効果に注目が集まっており、冷え性への有効性に対する研究も行われています。これまでにわかっていることを総合的に判断すると、生よりも加熱した生姜を、一度きりではなく継続して摂ることが冷え性への対策になると考えられます。もちろん、生姜を摂取するだけで劇的に冷え性が改善するというわけではないので、運動・ストレッチやバランスのよい食事、入浴などとあわせて上手に対策していきましょう。

参考資料

※1 新藤和雅. (2023) 冷え性と自律神経. 自律神経. 60(2). 71-75.
※2 eJIM 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』 海外の情報 ショウガ
※3 農林水産省 消費者の部屋 消費者相談 しょうがは身体を温める効果があるそうですが、どのような成分が働いているのですか。
※4 夏野豊樹,平柳要. (2009) 生姜抽出物の経口摂取が冷え性の人のエネルギー消費等に及ぼす効果. 人間工学. 45 (4). 236-241.
※5 山梨県厚生連 健康情報 知っ得!ワインポイント!食コラム 食事で『冷えとり』 おすすめ食材~生姜 Gingers~
※6 神戸徳洲会病院 生姜パワーで寒い冬を乗り切ろう
※7 National Library of Medicine. Zingerone.
※8 吉田真美, 平林佐央理. (2015) ショウガ中の6-ジンゲロールの加熱調理による変化. 日本調理科学会誌. 48(6) 398-404.
※9 Yusaku Iwasaki, et al. (2006) A nonpungent component of steamed ginger—[10]-shogaol—increases adrenaline secretion via the activation of TRPV1. Nutr Neurosci. 9(3-4). 169-78.
※10 山梨県厚生連 ココロ×カラダ「つなげる、やさしさ。」健康レシピ ジンジャエール
※11 山梨県厚生連 ココロ×カラダ「つなげる、やさしさ。」健康レシピ サムゲタン風スープ

執筆

看護師

岡部 美由紀

 

埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務。2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。一般向けおよび医療従事者向け書籍の執筆・編集協力:看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)他

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