代替タンパク質とは、家畜由来のタンパク質に代わるタンパク源です。近年、日本でも「ミドリムシの食品化」や「コオロギ食」が話題となりました。日本には古来よりイナゴやハチなどを食べる文化はありますが、その他にもさまざまな代替タンパク質の研究が、世界規模で拡がっています。今回は、代替タンパク質の定義から、需要の背景、メリット・デメリットを幅広く紹介します。

代替タンパク質とは

はじめに、代替タンパク質に関する基礎知識をまとめました。定義や需要の背景、市場規模について見ていきましょう。

代替タンパク質の定義

「代替タンパク質」とは、既存の食肉や魚類、鶏卵などのいわゆる「動物性タンパク質」を代替するために人工的に製造されるタンパク質のことです。現在、注目を集めている代替タンパク質は、下記の6つに分類されます。※1、2

代替タンパク質の種類
内田真穂. (2021) 代替タンパク質の拡大と代替タンパク質をめぐる議論. SOMPO Institute Plus Report. Vol78. を参考に作成

植物由来肉

大豆やエンドウ豆、小麦等、植物等を原料として生成される代替肉です。その製造過程には押出成形、紡糸、凍結構造化などの技術が利用されており、「肉のような食感」を作り出しています。1950年代に商品化され、これまで70年にわたって段階的な改良が加えられてきました。※1

培養肉

生きた動物から採取した細胞を培養し、本物の筋肉組織を生成して食肉を得る方法です。バイオリアクターとよばれる機器を用いた生化学反応によって培養が行われ、生成された組織を組み合わせてハンバーガーやナゲットなどの食品を作り出します。ここで利用される組織工学技術は、1970年代以降の「再生医療研究」で生み出されたもので、1990年代後半から食品生産分野での応用が始まり、2010年代から急速に広まりました。※1

昆虫食

昆虫食の多くはコオロギを原料としています。その他食されている昆虫としてはミールワームがあるほか、バッタや蚕を原料とした昆虫食の開発が行われています。※2

日本では昔からイナゴの佃煮などの昆虫食に馴染みがありましたが、近年では世界的にも昆虫食に対する関心が高まり、昆虫食産業が拡大しています。

微生物・発酵

微生物と発酵技術を用いて乳・卵タンパクを組成します。動物の飼育過程で生じる細菌汚染の心配がなく賞味期限の長期化が期待できるという点でもメリットがあります。※2

マイコプロテイン(糸状菌)

マイコプロテインは「糸状菌」とよばれる菌を培養・加工するもので、ヨーロッパでは30年前ほど前から流通しています。※2

藻類

藻類も新たなタンパク源として提唱されており、日本でもユーグレナ(ミドリムシ)の食品応用が始まっています。※2

代替タンパク質需要の背景

代替タンパク質需要の背景

人口増加と経済発展により、2050年の世界の食料需要量は2010年比1.7倍になると推測されています。特に、現在の低所得国では食料需要量は大きく伸びるとされています。しかし、近年の気候変動の結果、このまま世界の平均気温が2℃上昇すると、世界の農地分布に大きな変化が起こります。※3
食料全体のうち畜産物の消費量を見ても同じ傾向にあり、世界的な人口増加と1人当たり畜肉消費量の増加により、世界全体における畜産物の需要量は2050年には約1.8倍にまで増加すると予測されています。特に低所得国では需要量の増加が著しく、約3.5倍にまで膨れ上がるとされています。※3

現在の畜産業は環境への負荷が大きいこともあり、いわゆる「持続可能性」に関する懸念があることも事実です。家畜を飼育するためには膨大な水と飼料が必要で、その飼料を作るための農地も必要です。また、家畜の呼気にはメタンなどの温室効果ガス(GHG)が含まれているため、環境への負荷があります。※4、5
さらに、現在の工業型畜産業は持続不可能な生産形態とされており、家畜に抗菌薬を多用することによる人体への影響なども考慮すると、今以上に畜産業を拡大するのは難しいといえます。※5
これらのことを鑑みると、近い将来、食肉の需要に畜産物の供給が追い付かなくなると予想されています。

また、2020年にアメリカのGallup社が行った調査によると、「アメリカ人の約4人に1人は過去1年間に肉を食べる量が減った」という結果が出ています。その理由としては、健康への不安や環境への配慮、食品の安全性への懸念、動物福祉の観点などが挙がっています。※6
肉を食べる量を減らすことが健康に寄与するかどうかについては、日本の国立がん研究センターが公表している「動物性・植物性たんぱく質の摂取と死亡リスクとの関連」という研究結果を見てみましょう。大規模な前向き研究の結果、動物性タンパク質の摂取割合と死亡数の明らかな関連性は見られなかったものの、植物性タンパク質の摂取割合が多いほど死亡リスクが低いことがわかっています。特に、赤身肉や加工肉を植物性タンパク質に置き換えることで、総死亡率だけでなくがん関連死亡率や心血管疾患による関連死亡率も低下しています。※7

こうした背景を総合的に考慮し、「タンパク質を摂りたいなら、肉だけではなく代替タンパク質も」という考え方が広まっていると考えられます。
とはいえ、代替タンパク質は本来の肉とは異なります。見た目、味、食感など、肉のおいしさを知っている人にとっては、すぐに移行できるものではないかもしれません。また、植物由来の食品に頼った食事のみでは、動物性食品も含む食事と比較して必須アミノ酸やビタミン、ミネラルなどの栄養素が不足する可能性があり、別の食品から補う必要もあります。※4
実際に、イギリスのオックスフォード大学の研究チームが近年行った研究によると、魚は食べるが肉は食べないいわゆる魚食者とベジタリアンは、肉食者よりも虚血性心疾患の発症率が低かった一方で、ベジタリアンは出血性脳卒中や全脳卒中の発症率が高かったという結果も出ています。※8

代替タンパク質の市場規模

日本ではまだあまり普及していない代替タンパク質ですが、世界に目を向けると、その市場は大きく拡大していることがわかります。例えば、2019年から2025年にかけて世界の代替肉市場の年平均成長率は18%であり、米国においては25%以上もの成長が見込まれています。また、2017年以降は代替タンパク質商品の開発に投資する流れも加速しており、2020年には前年比の約3倍となる31億ドル(約3,300億円)にも上っています。その内訳は植物性食品が最も多く、発酵タンパク質や培養肉などもシェアを伸ばしつつあります。※9

また、アメリカの調査会社(Markets and Markets)によると、2019年には16億米ドルと推定されていた世界の代替肉市場は、2026年までには35億米ドルに達する見通しとなっています。※5

代替タンパク質の種類とメリット・デメリット

代替タンパク質の種類とメリット・デメリット

次に、代替タンパク質の種類ごとに、それぞれのメリット・デメリットについてまとめました。

植物由来肉

植物由来肉を利用するメリットのひとつに、家畜生産における環境や衛生面の問題解決があります。また、生産過程におけるタンパク質変換効率を比較すると、牛、豚、鶏肉が20%であるのに対し、植物由来肉は75%と非常に高いです。家畜を育てるためには肥料や飼料などが大量に必要ですが、植物由来肉は生産過程で投入するタンパク質量に対して効率よく食料として得られるということです。これは植物由来肉の大きなメリットだといえるでしょう。※4

一方、植物由来肉のデメリットとしては味や食感の壁が挙げられます。とはいえ、近年では本物に近い見た目や食感が再現できるようになり、菜食主義者だけでなく肉を食する一般消費者の市場へも拡大しています。※4

ただし、タンパク質の摂取を植物由来肉にすることで死亡リスクが低下するというメリットがある一方で、それのみに依存してしまうとさまざまな栄養素が不足するというデメリットもあります。健康面での懸念もあるため、バランスよく摂取することが望ましいとされています。※4

培養肉

植物由来肉と同様、家畜生産における環境や衛生面の問題解決というメリットがあります。タンパク質変換効率についても、生産課程で投入する培養液のタンパク質量の70%と、植物由来肉に次いで高いです。また、培養肉は動物性タンパク質と同様に必須アミノ酸をバランスよく含んでいので、栄養面でも大きなメリットがあるといえます。※4

一方、培養肉の大きなデメリットは、膨大な生産コストにあります。2013年時点では140gのハンバーグを生産するのに約33万ドルがかかるとされていました。生産技術の向上や原材料価格の低下などにより、2022年には約9.8ドルまで下がっていますが、普及にはまだコストの課題があるといえるでしょう。※5、10

昆虫食

昆虫食には、タンパク質・脂肪・カルシウム・ミネラルなどの栄養素が豊富に含まれています。また、昆虫の飼育には大規模な土地や大量の飼料・水を必要とせず、飼育期間も短いため、生産における環境負荷が少ないこともメリットです。さらに、家畜と違って昆虫から人間へと感染する病気のリスクも低く、安全面でも利点があるといわれています。※2、11、12

最近では、ミールワーム食や、バッタ食、コオロギ食において、メタボリックシンドロームの予防効果や抗酸化・抗炎症効果などが確認されつつあります。特に、トノサマバッタには抗酸化ペプチドが多く含まれており、強い抗酸化能や、寿命関連遺伝子を活性化させて老化抑制や寿命延長効果を示すこともわかっています。このように、昆虫食のメリットについてはさらなる研究が続けられています。※12

一方、デメリットとしては見た目への心理的抵抗感が高いことが挙げられており、多くの昆虫食は粉末状で利用されています。昆虫を食することへの嫌悪感を払拭することは、昆虫食普及の大きな課題といえます。※11、12

持続可能な食糧生産のためにも代替タンパク質は重要

日本ではあまり普及していないように見えるかもしれませんが、世界ではすでに代替タンパク質の実用化が進んでいます。現在はまだ食肉が不足していないため、一般消費者としては代替タンパク質のメリットを感じにくいかもしれません。しかしながら、近い将来に向けた「持続可能な食糧生産システムの構築」を考えると、代替タンパク質は必要不可欠なのです。※2

参考資料

※1 Josephine Mylan, et al. (2023) The big business of sustainable food production and consumption: Exploring the transition to alternative proteins. PNAS. 13. 120(47)
※2 内田真穂. (2021) 代替タンパク質の拡大と代替タンパク質をめぐる議論. SOMPO Institute Plus Report. Vol78.
※3 農林水産省大臣官房政策課食料安全保障室. 2050年における世界の食料需給見通し 世界の超長期食料需給予測システムによる予測結果.
※4 中山 晃一/山口 晶子. 経済トレンド95 代替肉市場について. 財務省. ファイナンス. 令和4年5月号.
※5 五十嵐美香.(2020) 植物性代替肉・培養肉の現状と今後の展望 植物性代替肉・培養肉は食料供給のゲームチェンジャーとなるか 経営センサー. 2020(9). 225.
※6 Justin Mccarthy. (2020) Nearly One in Four in U.S. Have Cut Back on Eating Meat.
※7 Sanjeev Budhathoki, et al. (2019) Association of Animal and Plant Protein Intake With All-Cause and Cause-Specific Mortality in a Japanese Cohort. JAMA Intern Med. 179(11):1509-1518.
※8 Tammy Y N Tong, et al. (2019) Risks of ischaemic heart disease and stroke in meat eaters, fish eaters, and vegetarians over 18 years of follow-up: results from the prospective EPIC-Oxford study. BMJ. 4:366:l4897.
※9 横山真也. (2022) 代替食品市場における日本食の可能性. 国際地域学研究. 25.
※10 Lana Bandoim. (2022) 培養肉の現在、70社以上が参入し低価格化が進行. Forbes.
※11 元木康介ほか. (2021) 昆虫食受容に関する心理学的研究の動向と展望. 心理学研究. 92-1.
※12 井内良仁. (2022) なぜ今、虫を食べるのか~昆虫食の機能性から考える~. オレオサイエンス. 22(4)3-8.

執筆

看護師

岡部 美由紀

 

埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務。2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。一般向けおよび医療従事者向け書籍の執筆・編集協力:看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)他

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