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がんの治療方法の一つとしてあるのが、抗がん剤による化学療法です。化学療法はがんの有効な治療方法ですが、副作用として免疫力の低下があります。

抗がん剤治療を受けている方が気になるのは、現在の新型コロナウイルスの国内感染状況ではないでしょうか。現在、新型コロナウイルスも第一波は乗り越えつつありますが、今後いつまた第2波が来るかは分かりません。

そんな中で、「免疫力が低下している抗がん剤治療中は、新型コロナウイルス感染のリスクが高まるのでは?」「がん患者は新型コロナウイルスへの感染を懸念して、化学療法は控えた方がよいのか?」と不安に思う方も多いでしょう。

そこで今回は、がんの化学療法によって新型コロナウイルスの感染リスクが高まるのか調べてみました。

<参考>

国立がん研究センター

2019年のがん統計予測

<参考> 国立がん研究センター東病院
抗がん剤Q&A – 感染症について

 

抗がん剤による化学療法では免疫力下がる

がんの治療法の一つである抗がん剤による化学療法の副作用として、免疫力の低下があります。

なぜ免疫力が低下してしまうのでしょうか。それは治療によって白血球が一時的に減少することに原因があります。

抗がん剤の投与によって骨髄の機能が低下すると、抗がん剤投与後10~14日目頃に白血球の数が減少します。その後、3週間くらいで白血球の数は回復しますが、白血球は病原菌から身体を守る大切な機能があるため、白血球の数が減少する間免疫力が低下するわけです。

現在、抗がん剤による化学療法はがん治療の中でも重要な位置を占めていますが、2019年日本国内でのがん死亡者数は約38万300人(男性22万2千500人、女性15万7千800人)となっており、2019年の国内死亡者数が約137万人のうち、がんで亡くなる方は約3割にも上ると言われています。

イギリス研究結果から見る抗がん剤治療と新型コロナの関係

抗がん剤治療中に免疫力が下がる患者にとって、新型コロナウイルス感染は決して他人事ではありません。

実際に抗がん剤治療と新型コロナウイルス感染に関連はあるのでしょうか。

抗がん剤治療と新型コロナウイルス感染に関連があるのか、イギリスの医学誌Lancetにある研究が報告されました。

<参考> Lancet, 29 May 2020
Cancer and COVID-19: what do we really know?

「英国コロナウイルスがんモニタリングプロジェクト」が行われた

研究では、がん患者の新型コロナウイルスでの死亡率は、年齢、男性、高血圧、心血管疾患などの併存症との相関が見られるものの、抗がん剤治療との相関は見られなかったと報告されています。

この研究は「英国コロナウイルスがんモニタリングプロジェクト(UKCCMP)」と呼ばれ、進行性のがんを患っている、がんセンターのネットワークに参加しているすべての患者が研究対象として選ばれました。PCR検査で新型コロナウイルス陽性となった患者が観察対象となっています。

抗がん剤治療と新型コロナウイルスの相関は見られない

上述のプロジェクトで、2020年3月18日から約1ヶ月がんと新型コロナウイルスの症状が出ている800人の患者を分析したところ、以下のような結果が示されています。

・軽度のコロナウイルスの症状あり:412人(52%)

・死亡した患者:226人(28%)

この死亡リスクは、年齢、性別(男性であること)、高血圧、心血管疾患などの併存症との関連が見られています。

一方で、コロナウイルスのPCR検査の前4週間以内に、281人(35%)の患者が化学療法を受けていましたが、化学療法を受けていないがん患者と比べて、コロナウイルスによる死亡率に対して大きな影響は見られませんでした。

このことから、イギリスの研究では抗がん剤治療と新型コロナウイルスの関連性は見られなかった、といえるでしょう。

アメリカ研究結果 から見る抗がん剤治療と新型コロナの関係

米国での研究でも、イギリスと同様の結果が報告されており、がん患者の死亡率を挙げる要因として抗がん療法の種類や手術との関連は見られませんでした。

<参考>

The Lancet, 28 May 2020
Clinical impact of COVID-19 on patients with cancer (CCC19): a cohort study
https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lancet/PIIS0140-6736(20)31187-9.pdf

 

この研究について詳しく見ていきましょう。

米国・カナダ・スペインの18歳以上のがん患者のデータを分析

研究では、米国・カナダ・スペインで新型コロナウイルス感染が確認された18才以上のがん患者のデータが分析されました。2020年3月17日から約1か月間、臨床状態、投薬、がんの診断と治療、および新型コロナウイルス疾患の経過に関するデータを収集しています。そこで、コロナウイルスの診断から30日以内の死亡率を評価項目としています。

研究期間中データベースに入力された1035件では、以下のような対象者の内容となっています。

・患者分析対象:928人

・年齢中央値:66才

・75才以上:279人(30%)

・積極的な抗がん治療を受けている人:366人(39%)

・活発ながんを患っている人:396人(43%)

年齢や性別、喫煙状態などががん患者の死亡率を上げた

研究では2020年5月7日時点で、121人(13%)の患者が亡くなっています。回帰分析の結果、死亡率を上げる要因として、年齢、性別(男性であること)、喫煙状態、併存症の数、がんの進行度、アジスロマイシンとヒドロキシクロロキンの併用療法などが挙げられました。

ヒドロキシクロロキンは、抗マラリア剤の一つです。新型コロナウイルスの治療薬として米国のトランプ大統領が自らも服用して推奨していましたが、服用による死亡例も報告されており、トランプ大統領も2020年5月下旬に服用を取りやめています。この研究でもネガティブな結果となっています。

新型コロナウイルスと抗がん療法種類との関連は見られない

一方、上述の結果では、人種、民族、肥満の状態、がんの種類、抗がん療法の種類、直近の手術は、死亡率と関連しないことも分かっています。

がん患者が新型コロナウイルスに感染する場合、死亡率は高くなりますが、その要因には一般的な危険因子(年齢、喫煙、併存症、がんの進行度など)やがん患者特有の危険因子と関連が見られる一方で、抗がん療法の種類や手術との関連は見られないと報告されています。

コロナ禍の中、がん患者が化学療法を受けてよいのか

今回の新型コロナウイルス感染の拡がりの中で、がん患者が気になるのは免疫力が低下する抗がん剤治療を受けてよいのかということです。

紹介した2つの研究から推測できることは、新型コロナウイルスに感染していないがん患者に対しては、可能であれば化学療法の投与を含むがん治療を提供すべきということでしょう。治療中、万が一別の要因で新型コロナウイルスに感染しても、新型コロナウイルスによる死亡率に抗がん剤治療の影響は研究において今のところ見られていないからです。

一方、がん患者が新型コロナウイルスに感染した場合、13%から28%の人が亡くなっています。これは、新型コロナウイルスに感染しても7割から9割の人は回復していることを示しています。

新型コロナウイルスへの不安の対処法

今のところ、がん患者であることが新型コロナウイルス感染症による死亡リスクを高める報告はありません。しかし、抗がん剤治療で免疫力が低下しているがん患者にとって、新型コロナウイルスに対する不安はとくに大きいはずです。

今回はイギリスやアメリカの研究結果を参考にしましたが、日本においてそれがすべて当てはまるとも限らないことを踏まえ、現在の主治医と相談をしながら治療方針を決めていくことが大切です。

新型コロナウイルスに対してはがん罹患に関わらず、できる限りの予防策をとっていくのがよいのでしょう。外出を控える、密集・密閉・密接の3密を避ける、手洗い・咳エチケットなどの基本的な予防行動を徹底するなどの予防策を取ることがまず第一です。

とくにがん患者は不要・不急な病院受診を控えることも考慮すべきかもしれません。不要な受診を延期したり、オンライン診療を活用したりすることで感染リスクを下げることにつながります。受診が必要な場合も、なるべく公共交通機関を使うのを避け、自家用車などを利用して他者と接触する機会を減らす工夫も必要でしょう。

新型コロナウイルスに対する不安がどうしても強いときは、無理に不安を押さえ込むのではなく、このような状況の中で不安を感じるのは正常な反応ととらえることも必要です。がん治療に関しては主治医など専門家に相談をし、日常的にはできる限りの感染対策を行うことで、不安を適切にコントロールしていくことをおすすめします。

<参考> 日本癌学会, 2020年5月10日
新型コロナウイルス感染症とがん診療について(患者さん向け)Q&A

執筆

sakura15

 

サイエンスライター。大学院にて生物情報を研究後、半導体開発や遺伝子解析ベンチャー企業に携わりました。 趣味は海外トレッキングで、ネパールを横断するグレートヒマラヤトレイルを歩くのが夢。 生物から理学まで幅広く見ながら、分かりやすく書くことを心がけています。

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