森を歩き、そして川の水と生き物に触れる夏の流域体験へ。

流域とは、その土地の地形によって降った雨が集まり川に流れる範囲を指します。流域はどの土地にもありますが、今回は街があり、そして森と海が近く流域を体感しやすい神奈川県三浦郡の葉山町で行いました。6組の親子が参加された流域体験のレポートです。

※本イベントは、検温とアルコール消毒等による感染症対策および熱中症対策を十分に行い実施しました。また、前日の大雨による川の増水の影響についても、専門家が事前に現場を視察して安全性を確認しております。

 

※写真撮影の際にマスクを外しています。

実施日:2021年 8月 9日

NOMON株式会社主催 夏休み イノチのカガク

―今日だけ科学者になったつもりで親子でふむふむしよう―

1回 イノチを感じる流域体験

源流から河口まで 流域の生き物と水の巡りをしらべて「ふむふむ」しよう

森戸川(神奈川県・葉山町) 流域しらべ

「川魚ってヌメヌメしている」

 

今回、イベントに参加して初めて生きた川魚を触った子どもの感想です。モニターに映っている写真や動画を見ることと、実際に自分の目で見て、なおかつ手で触ったことがあるとでは大きな差があります。街に住んでいて生き物を触る機会が少ない子どもたちには、とても新鮮だったようです。

 

逗子駅から8kmほど離れた場所にある低山の阿部倉山・双子山と大山。これらの尾根に挟まれたところに森戸川の源流が流れており、川に沿って全長約2kmの大山林道(森戸川林道)があります。今回はこの林道を通り森戸川源流に触、生き物観察や水質調査と、地図を片手に森戸川源流から下流(河口)を辿る流域マッピングを親子で行いました。

 

前日は大雨でした。大雨の後は通常の流域の状況とは異なりますが、今回のガイドは、流域ガイドの滝澤恭平氏(ランドスケープ・プランナー、ハビタ代表)、生き物や水質のガイドの寺田浩之氏(KOKOPERI+ 、MIZUBE探検隊)。まず、両名から森戸川源流が流れるトレイルに入る前に、現状の森戸川源流についての説明がありました。あらかじめ知識を得てから体験することは知性と五感を同時に使い、理解や体感に差が出ます。

滝澤:流域とは、雨で降った水がさまざまな水系(支川)を流れ、またその地域の本川(河川)を通じて海に流れる範囲を指します。今回は源流から海へ流れる流域を実際に目でみたり、水や生き物に触れたりして流域を体感するイベントです。

今日は大雨の翌日で、いつもと状況が異なります。森は水を蓄える力があり、規模によりますが言わばダムと同じような役割。森があることで、雨が降っても地面に染み込んだ水の蒸発をゆっくりと抑え、河川の増水も抑えることができるんです。しかし、森がダムと同じとはいえ、許容量を超えると川に水が流れ出します。植木鉢にジョウロでたくさん水をあげ続けると、底から水がそのまま出ていくのと同じです。

前日の降水量は1時間あたり約20mm、広さ1平米のタライを1時間外に置いておくと2cmの水が貯まるイメージで、土砂降りでしたね。ですので、今日はいつもとは状況が異なりますが、大雨の後の川の様子を観察してみましょう。

 

 

尾根で囲まれた水が集まる範囲を流域といいます

 

日本は山と海が近く急峻な地形が多く、治水をしていなければ増水し、下流に行けば行くほど土砂災害も起きやすくなります。雨と山、山と川、川と街、そして海につながる様子を、自分の目と手足を使って学びます。トレイルを歩くところからが、流域体験の始まりです。

源流の生き物調査をする

ゲートの先に続く大山林道は前日の雨で足元が悪く、子どもたちは靴の汚れを気にしながら慎重に歩いていましたが、歩を進めるにつれ、いつの間にか汚れを気にせず歩いていました。水を含んだぬかるみに足を踏み入れるのも体験のひとつです。

山から流れ出るトレイルを横切る水

 

増水している森戸川源流

 

 

前日の雨で足元は雨水を吸収する許容量を超え、普段なら透明感のある川も川が山の土を運び茶色く濁っていました。大山林道の途中にある平瀬(川の部分が浅くなっている場所)で、生き物観察と水質調査がしやすいためここを調査フィールドとして踏み入れました。

説明が始まる前に、大人も子どもも自然と川に近づいて水に触れたり、石をひっくり返したりし始めていたのが印象的でした。

 

何かが生息している期待をもって石をひっくり返す

 

ここで、今回のテーマ

・生物調査(魚類、ベントス)

・水質調査(COD、 水温)

を実施しました。

 

生物調査では網を使って生き物を捕獲し、森戸川源流にどんな生き物がいるかを観察。もちろん、生き物は観察した後にきちんと川へ戻します。

フィールド調査をする寺田氏

 

目では川の中には何もいないように見えても、網を使って様々な小魚や水中生物を捕まえることができるのです。クロダハゼやカワムツなどの魚が次々に姿を現します。

 

魚に手の温度が伝わらないように手のひらを水に浸して手の温度を下げる

 

「ヌメヌメしていてなめらか」と生き物を触って感触を確かめる

 

魚にとって人間の体温は高温です。そのまま人の手で魚を触ると魚が火傷してしまうため、まずは手を水に浸して手の温度を下げてから魚に触るのが基本となります。

岩をひっくり返すと魚のほかにサワガニなど小さな生き物が潜んでいました。また、海で見かけるモクズガニも獲れました。モクズガニは秋になると、河口域で交尾し、抱卵、海で産卵するカニです。河川の河口域によく生息していますが、上流にも上がってくるのだそうです。

 

 

 

 

カワムツ(左上),スミウキゴリ(右上)、ミゾレヌマエビ(中央/左)モクズガニ(中央/下)、コオニヤンマ(左下)

 

「水の中で網を動かすというより、岩を動かして岩の影に隠れている魚を網ですくうんだよ」とスタッフに教わる子どもたち。タモ網を川に入れると「網が重い!」と川の流れによる水圧を体感したり「川に初めて入ったけど、すごく楽しい」と生き物探しも遊びとして楽しんだりしていました。

 

 

岩の下流にタモ網を置き、岩を動かすことで生き物が網に入る

 

今では数少なくなっているミゾレヌマエビ(在来種)、クロダハゼなど

 

お子さん(右)の夏休みの自由研究のテーマとして参加したお母さんも楽しそうだ

 

あまりおしゃべりをしない分、じっくりと観察しているようだ

 

森戸川の水質を調べる

細い糸のようなピンを抜き容器をつまんで水につけ、吸い込ませる

 

寺田:今回は前日が大雨ということもあり、いつもと異なる水質と予想しています。水質調査には、

COD(Chemical Oxygen Demand/化学的酸素消費量)を測るパックテストというものを使います。容器には薬剤があらかじめ入っており、水を吸い込んで変化した色からCOD 値を調べることができますよ。

 

容器に入った水の色の変化を確認する時の子どもたち。表情はまるで科学者のようでした。

 

水を吸い取って5分程度したら色が変化する

 

今回は大雨の翌日であったため、水質結果はCOD8(mg/l)以上。これは土砂や葉っぱなどの有機物が水に大量に混じったことが要因に挙げられます。COD5〜10はよごれに強いコイやフナなどがすむ数値とされていますが,普段の森戸川のCODは3以下で,サケ,アユなどがすめるきれいな水質です。

 

森戸川源流での調査を終え、森戸川の河口へ向かう間に流域のしくみについて触れました。森戸川源流は樹木の枝のように分岐した支流が合流し、河川となって海へと流れます。水は低きに流れます。尾根線に囲まれた水が集まってくる範囲を流域といい、陸域において血管のような水循環の役割を担っています。

水は地面や植物、または河川を流れ海に出て太陽の光の熱によって蒸発し大気へ。大気に蓄えられた水分は雲から雨へ、雨水が降り注ぎ山に吸収されて沢に水が流れ、川となります。こうした循環の一部を、身近な自然でも見ることができるのです。

 

森戸川源流から街を通り河川、そして河口へ

森戸川が海へ流れる手前の様子

 

号線沿いにある森戸神社は森戸川の河口のすぐ横にあり、鎌倉幕府の成立とともに源頼朝によって建てられた神社。朝廷により行われていたお祓い(七瀬祓といい、浜や川、清水があるところや鎌倉の境目など)のひとつとして、重要な霊所とされています。

森戸神社の脇の橋を渡れば浜へと出ることができます。つまり、そこが森戸川河口です。山で森戸川源流に触れ、こうして河口まで辿ることができました。ここで、改めて水質調査を行います。

 

森戸川河口域の水を汲み上げる

 

森戸川源流のときと同様に水質調査を行う

 

寺田:河口付近の海水と淡水が入り混じったところは、海と同様に潮の満ち引きの影響を受け水位が変わり、こうしたエリアを汽水域と呼びます。海水は淡水に比べ比重が重く、川底のほうに海から陸へと海水が流れ入ります。淡水は比重が軽いため、河口域では川の表層に淡水が流れています。地形にもよりますが、河口から2kmほど上流まで海水が川に入っていることがあります。

 

滝澤:河口域での水質もCODが8以上となりました。ただ、これも先ほどの源流での水質調査と同様、前日の大雨の影響でさまざまな要因が川に加わり通常時とは異なる結果で、自然由来の有機物が入り水質が少し悪くなっています。
河口は源流から7kmほどの距離がありますが、源流で山の土が運搬されたり、河口に至るまでに葉っぱなどが含まれたりしています。川の水質は雨によっても変化するものなのです。

 

森戸川河口域でまとめを解説

 

最後に

今回の参加者は、地元の逗子に住む親子から都内に住む親子までさまざまでしたが、お父さん、お母さんからは「都内に住んでいるため、森の音など自然の音を聴きに来たかった。歩いていると、セミの声がとても印象的で、そこから、ふと違う音に変わっていくのがとても面白かった」「時間ができたら外遊びをしているが、主に海釣りが多く、河川や山のほうに足を運ばないため新鮮だった」という声がありました。また、子どもたちは好奇心を抱きながらも冷静に、目の前の体験に集中し、ガイドの説明に真剣に耳を傾けていました。そして「普段は、森や川に立ち入らないので面白かった」「自分で魚を捕れたのが嬉しかった」「川の生態系や環境について、実際に体験しなが学べた」と目を輝かせながら話してくれました。今回の流域体験は、親子にとって流域体験と同時に自然を楽しむ一日となったようでした。

土に寄り添った暮らしから離れた現代では、なかなか自然の循環を体感することは難しいですが、里山に足を運べば体感することができます。森戸川は、森の戸、つまり森の扉という名前の川です。豊かな森に降った雨は、森から川へと戸が開かれるように、流域全体の水を集めて河口まで水を運んだことが今回の流域体験でわかりました。流域を通して水は巡り、森と海、自然とまち、生き物とわたしたちがつながっています。

今回の体験の中での “ふむふむ”で、カガクを身近に感じてもらうことができ、未来の科学者が生まれるかもしれないと思うととても楽しみです。

執筆

LIFE IS LONG JOURNAL編集部

 

LIFE IS LONG JOURNAL編集部。 ”LIFE IS LONG JOURNAL”は「人生100年時代」を迎え、すべての人が自分らしく充実した人生を歩んでいくための「健康寿命」を伸ばすために役立つ情報を発信するメディアです。

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